第4回 深掘り!大学院生。Episode3 井浦涼寧さん信大的人物
総合理工学研究科 理学専攻 化学ユニット 修士課程2年生

“実験が楽しい”を原点に積み重ねる努力と研究の日々
最近CMなどでもよく耳にする「活性酸素」や「抗酸化物質」というワード―。耳なじみはあっても、はっきり意味はわからないという方は多いかもしれませんね。人間の体内で発生した「活性酸素」は、免疫を守るという大切な役割を持つ一方で、増えすぎると細胞を酸化させ、老化や病気の原因にもなるものです。この過剰な活性酸素の発生を抑えるために重要な働きをするのが、ビタミンCやポリフェノールなどに代表される「抗酸化物質」なんです。物質ごとにどの程度の抗酸化能(活性酸素を除去する能力)を持ち、それは物質の構造とどのような関連性を持つのか?それが井浦涼寧さん(総合理工学研究科 理学専攻 化学ユニット 修士課程2年)の目下の研究テーマです。実験漬けの日々と努力が実を結び、ルミノールの電気化学発光を使用した抗酸化能の評価手法を確立しました。(文・平尾 なつ樹)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第157号(2026.5.29発行)より
ご本人から一言
後輩から一言
抗酸化能の新たな評価手法を確立 食品・医療分野への応用に期待
井浦さんが物質の抗酸化能を測定するために使用したのが、ルミノールによる電気化学発光です。犯罪現場での血痕検出などに用いられることもあるルミノール発光(刑事ドラマにも時々登場しますね)ですが、この反応を見るためには強いアルカリ性の環境を整える必要があり、実用上の制限がありました。
これに対し井浦さんは、共反応物として溶存酸素(水中に溶け込んでいる酸素)を利用することにより、中性条件下での抗酸化能の測定が可能となりました。
具体的には、ルミノールを水に溶かしたものに測定したい物質を混ぜ、電極に電圧をかけます。この時の光り方によって、物質の抗酸化能を調べることができるという仕組みです。酸素が電気に反応して活性酸素に変わるのですが、抗酸化能が高いものほど活性酸素を除去する時間が早いため、発光がすぐに弱くなるのだそうです。従来、抗酸化能を調べるには、専用の高価な機械を使用しなければならず、誰もが簡単に調べることはできなかったそうです。しかし、井浦さんの確立した手法を用いれば、これまでよりずっと安価に抗酸化能を分析することができます。さらには、活性酸素にもいくつかの種類がある中で、光り方によって対象の抗酸化物質がどの活性酸素種に作用するのかを区別して評価することもできるため、将来的には医薬品や機能性食品などの開発に役立てることも大いに期待できます。
井浦さんのこの研究は、2025年に行われた中部化学関係学協会支部連合秋季大会において、分析化学部門・学生優秀発表賞を受賞しました。「すごく緊張もしましたし、準備も大変だったけれど、報われた気持ちです」と、やわらかな笑顔で喜びを語ります。
悩み、苦しい時も楽しむ気持ちを大切に
自身の研究について「普段自分たちが口にする食品の成分を分析できるので、生活に直結しているところに面白さを感じます」と語る井浦さん。そんな彼女が理学部進学を選んだのも、高校時代の化学の実験が「楽しかった」という純粋な喜びがきっかけだったそうです。「透明な液体同士を混ぜて色がつくのが単純に楽しくて、そのメカニズムを知りたい、反応を見たい、と思ったんです」。
現在、研究漬けの日々の中で、時間をかけて実験を繰り返しても思うような結果が出ず、苦しいことも多いそうですが、その分「うまくいった時はめちゃくちゃうれしいです。どんな時でも楽しむことを自分のなかで大切にしています」。朗らかにそう話してくれました。
卒業後は、現在の研究を活かして食品メーカーや医薬品メーカーなどで健康食品やサプリメントの開発に携わることを希望しているという井浦さん。大学で積み重ねた努力は、井浦さんの未来を切り拓く大切な糧となってくれることでしょう!

