生命駆動型共創ロボティクス研究拠点(BIDEROS)信大的人物
“生命と機械の融合”を社会実装へ、「 Bio-driven」が拓くロボティクスの新境地

人間の技術では及ばない驚異的な能力を活用するため、昆虫など生物の機能を機械と融合させる―。こうした一見SFのような研究を実社会で活用できる技術へと高めようとしているのが、信州大学「生命駆動型共創ロボティクス研究拠点(BIDEROS)」です。どのような研究を行っているのでしょうか、照月大悟拠点長にお聞きしました。(文・佐々木 政史)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第156号(2026.3.31発行)より
国内初のバイオハイブリッド研究拠点、研究を社会で活用できるかたちに
蚊は数十メートル離れた場所からでも、人の存在を検知します。また、ガ類のオスは、メスのフェロモンを極めて遠方(数百メートル~数キロ)から感知することが知られています。生物の持つ驚異的なセンシング能力は、場合によっては最新の電子デバイスを凌駕することもあります。
その能力を機械システムに取り込もう─。そんな発想から生まれたのが「バイオハイブリッド研究」です。生物の一部を機械と直接融合させることで、既存技術では困難だった超高感度センシングなどを実現しようとする試みに、世界的に注目が集まっています。しかし、「面白い研究ではあるが、実際に社会でどのように役に立つのか」という点も長く指摘されてきました。信州大学「生命駆動型共創ロボティクス研究拠点(BIDEROS)」はこの課題に正面から向き合い、バイオハイブリッド研究を真に社会に役立つ技術へと昇華させるために2025年に新たに設立されました。「バイオハイブリッド研究を中核に掲げた研究拠点は、国内でも非常に珍しいのではないかと思います」と照月大悟拠点長(信州大学学術研究院(繊維学系)准教授)は自信を見せます。
「Bio-driven」という発想への進化、生物のより多様な機能へアクセス
これまでのバイオハイブリッド研究が、実社会で活かされるまでに至っていなかった理由について、照月拠点長は「生物の機能を十分に活かし切れていなかったことが大きい」と語ります。従来の研究は、例えば昆虫の触角を取り出して機械に接続しセンサー素子として利用する、といった“部品としての融合”にとどまっていたそうです。
こうした課題を乗り越えるため、照月拠点長がBIDEROSで取り組んでいるのは、触角にとどまらず、昆虫の頭部や体全体、さらには生体の筋組織なども機械と融合させることで、生物の持つより多様な機能へのアクセスを試みること。そしてこれにより、生物そのものが機械の中で“機能として働く状態”「Bio-driven(生命駆動型)」を実現し、実社会で役に立つような次元までバイオハイブリッドの研究成果を高めていきたい考えです。
現在、蚊の頭部の感覚機能を利用することで、人の存在を探知できるバイオハイブリッドセンサ・ロボットを開発中。災害時の瓦礫に埋もれた要救助者の探索などに役立てたいといいます。また、下水道の老朽化による道路陥没事故が社会問題化するなか、生物の仕組みに学んだセンシング技術を応用したインフラ点検ロボットの開発にも取り組んでいるそう。企業とも連携しながら研究を進め、その社会実装に向けて取り組んでおり、スタートアップの設立も視野に入れています。
生物と機械が融合したロボットが、驚くべき能力で私たちの暮らしや社会を支える―。かつてSF映画やアニメで描かれてきた世界が、BIDEROSの研究によって現実のものになりつつあります。

