細胞・遺伝子治療研究拠点信大的人物

“臨床と研究の好循環”で、世界のバイオ医薬品開発をリードする

世界の医薬品市場で今後成長が期待されるバイオ医薬品。その中核を担う細胞治療・遺伝子治療・再生医療の分野で、信州大学は国際的に高い評価を得てきましたが、今回、その強みをさらに加速させる「細胞・遺伝子治療研究拠点」が始動しました。注目は、次世代の若手フィジシャンサイエンティスト(医師研究者)の育成に力を注ぐ点です。臨床と研究の好循環を生み出す独自の取り組みについて、桑原宏一郎拠点長に聞きました。(文・佐々木 政史)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第156号(2026.3.31発行)より

世界が注目する細胞・遺伝子治療 信大の強みを加速させる

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基礎医学・臨床医学・附属病院が一体となり、若手医師研究者を軸に企業や外部機関と連携。TR/rTRを循環させる独自のエコシステムを構築します。

世界の医薬品市場は126兆円と、自動車、素材に次ぐ大きな市場です。その中でも今後成長が期待されるのが、最先端のバイオテクノロジーを用いて、微生物や細胞が持つタンパク質生産力を応用して作られる「バイオ医薬品」だと言われています。

信州大学は、このバイオ医薬品の中でも、細胞治療・遺伝子治療・再生医療において、国際的に高い評価を得ています。例えば、CAR-T細胞療法や、iPS細胞由来心筋再生治療などで、新たな発見や功績を挙げてきました。

今回新たに立ち上げた「細胞・遺伝子治療研究拠点」には、信州大学の再生医科学、皮膚科学、分子医科学、血液・腫瘍内科、小児医学、保健学科、泌尿器科学といったそれぞれ異なる分野で細胞治療・遺伝子治療・再生医療に携わる7人の教授陣が集結。「これらの力を合わせて、難治性疾患に対する新たな治療法・治療薬の開発に取り組み、信州大学の強みをこれまで以上に加速させる」と桑原宏一郎拠点長(信州大学学術研究院(医学系)教授)は意気込みます。

医師研究者(PS)の育成 臨床と研究を循環させる独自の仕組み

細胞・遺伝子治療研究拠点では、7人の教授陣が所属する基礎系と臨床系の教室が一体となり、人材や研究資源を共有・融合させながら研究を推進します。

特に重視するのが、次世代の若手「フィジシャンサイエンティスト(PS):研究医」の育成です。PSは医師として臨床現場に立ちながら研究者としても活動する存在。臨床業務の負担増や研修制度の変更などで、日本では減少傾向にありますが、医療現場のニーズを理解した人材が研究に関わることが、真に役立つ治療薬の開発で重要だと言われています。「日本の医学研究はかつてPSが支えてきましたが、その強みが失われつつある。だからこそ、私たちの拠点では若手PSの育成に力を注ぎ、それを拠点の研究開発力の強みにしていきたい」と桑原拠点長は話します。

そこで拠点では、月1回の研究ミーティングで情報共有を図り、大学院生を含む若手人材を他の研究室に派遣するなど、積極的な人事交流を促進。若手が主体となって研究を進める環境を整えています。細胞治療・遺伝子治療分野において、若手PSの育成を通じて、臨床と研究の循環構造の仕組みづくりを行っている大学は「ほかにあまり例がない」と桑原拠点長は自信を見せます。

今後はこうした取り組みに力を注ぎ、6年後には複数の大型研究費獲得や臨床研究の開始を目指します。また、研究成果をもとにしたスタートアップ設立も視野に入れています。既に拠点メンバーの中沢洋三教授はスタートアップ(A-SEEDS)を立ち上げていますが、こうした活動をさらに促進していく考えです。「スタートアップで活躍する若手人材を育て、得た成果や資金を再び拠点に還元するエコシステムの構築を構想している」と桑原拠点長は展望を語ります。

信州大学の強みが結集し、若手PSの育成にも取り組みながら、さらにその勢いを加速させていく―。この先鋭的な仕組みで、細胞・遺伝子治療研究拠点が世界を驚かせる新たなバイオ医薬品を開発する日は、そう遠くなさそうです。

拠点長PROFILE

桑原 宏一郎 教授

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信州大学 学術研究院(医学系)
専門は循環器内科学。医師でありながら基礎研究にも精力的に取り組むフィジシャンサイエンティストとして、長年、循環器疾患の病態解明や新たな治療法の開発に従事。細胞治療・遺伝子治療分野における信州大学の研究力を牽引してきた。京都大学講師を経て、2016年より現職。

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