体験に基づく実践力を持った高度キャリア人材を育成。
信州大学「全学横断特別教育プログラム」
特別レポート

体験に基づく実践力を持った高度キャリア人材を育成。信州大学「全学横断特別教育プログラム」

 信州大学では、社会から求められる高度キャリア人材を育成するため、新たに「全学横断特別教育プログラム」を開設しています。希望する学生は、自身の主専攻(学部)に加えて「副専攻」のようにコースを履修します。修了者が、社会に出た後は授業や実践で得た経験を活かし、自ら動き、考え、実践する高度キャリア人材として活躍してもらうことを目標としています。全学横断特別教育プログラムのコースは全部で3つ。今回は、プログラム全体の意義と、すでに履修が始まっている2つのコースの特徴と独自性について、それぞれご紹介します。

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第112号(2018.7.31発行)より

独自のカリキュラム、「全学横断特別教育プログラム」とは?

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 信州大学は、キャンパスが長野県内に広域的に配置されていますが、1年次は、全学部の学生が松本キャンパスで共通教育科目によって教養を深めます。そして、2年次以降は、各キャンパスのそれぞれの学部・学科で学び、自身の専門性を高めていくことになります。
 しかし、複雑化する現代社会においては、専門性に加え、従来の仕事の枠を超えたジェネラリスト的感性、グローバルな視点など、幅広い知見と実践力が求められることも多くなってきました。自ら地域に飛び出せる公務員、海外で働く技術者、新しい学びを作る教職員など―、社会や組織を牽引する「高度キャリア人材」の育成が求められているのです。そのため、教養や専門分野のみならず、社会から求められる幅広い実践力を身につけることのできる共通教育の変革と進化が、大学の課題でもありました。そこで信州大学が新たに用意した教育プログラムが、「全学横断特別教育プログラム」です。
 「全学横断特別教育プログラム」は、①ローカル・イノベーター養成コース(平成29年度以降に入学した学生が対象)、②グローバルコア人材養成コース(平成30年度以降に入学した学生が対象)、③グリーンマネージャー養成コース(仮称・履修準備中)の3コースからなります。これまでも、共通教育科目の中に地域や国際理解に関連する授業はありましたが、コースとして体系化したことで、履修を希望する学生たちが明確な目的意識を持って授業に臨むことができるようにもなります。
 「全学横断特別教育プログラム」の新規性・最大の特徴は、専門教育に移行する2年次以降も、段階的な実践プログラムが多数用意されていることにあります。2年次以降は、各学部で実施される専門科目と並行して授業が進むため、学生たちには、より学習密度の濃い「副専攻」を選択するような、従来の共通教育とは異なる意識を持ったコース選択をしてもらうことになります。(※ローカル・イノベーター養成コースは、選考基準と定員があり、1年次プログラムを修了した学生から2年次以降の受講者を、グローバルコア人材養成コースのBASICコースは希望者全員が履修可能、ADVANCEDコースはその修了者の中で希望者が履修可能、と若干仕組みが異なります)
 ローカル・イノベーター養成コースは昨年度から履修が始まっており、今年度で2年目。グローバルコア人材養成コースは今年度から履修が始まっています。今後は、3つのコースが連携し合いながら授業を実施することも想定されています。将来的には、ローカルとグローバル的感性を併せ持った“グローカル”な人材の育成なども目指します。
 従来の仕事の枠組みを超えることのできる、ユニークな発想力と実践力を持った人材を育成するために生まれた本プログラム。学生たちにとっては、在学中から社会に出た後の自身のキャリアプランについて、具体的に体験をしながら、幅広い知見を深めることのできるチャンスです。
 次ページからは、既に履修が始まっている2つのコースについて、各コースの代表教員からお聞きした概要をご紹介します。

ローカル・イノベーション・フォーラム【バース】に見る「ローカル・イノベーター養成コース」のリアル感

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平成30年3月9日に開催された「ローカル・イノベーション・フォーラムØ【バース】」の様子。各地の地域イノベーターによる講演や学生らによるプレゼン、ワークショップが行われました。Ø【バース】は、始まりを意味します。今後このフォーラムは、学生が「リアル・プロジェクト・マネジメント・ゼミ(2年次後期)」の中で主体的に運営し、企画や調整、プレゼンテーション、ワークショップ運営の実践力を身に付けます。

地域社会の中で実践し、将来を切り拓く力を掴みたい人へ
ローカル・イノベーター養成コース

新しい発想で、地域を変える

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信州大学学術研究・産学官連携推進機構(SUIRLO)
産学官連携・地域総合戦略推進本部 本部長
教育・学生支援機構 キャリア教育・サポートセンター副センター長
学術研究院(総合人間科学系)准教授
林 靖人
信州大学大学院総合工学系研究科修了。博士(学術)。専門は認知心理学、感性情報学。

 「ローカル・イノベーター養成コース」の舞台は、地域社会。これまで体験したことのない人口減少や産業構造の変化に対応し、新しい価値や仕組み、産業を生み出せるような人材の存在が強く求められています。
 「従来の仕事の枠組みにとらわれず、地域の新しい価値を生み出せる人材をこのコースでは養成していきたいと考えています。これまでの枠組みを“変えられる人”…、“変人”を養成するコースです(笑)」。そう林靖人学術研究院(総合人間科学系)准教授が言う通り、ローカル・イノベーター養成コースのキーコンセプトは“創新”。地域社会の現場が抱える問題を的確に分析し、革新的な解決策を考え実践し、新しい地域社会のあり方まで創り出せるような人材の育成を目指します。

段階的で実践的なカリキュラム

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浅間温泉の旅館跡地を使い、イチゴ園やコミュニティスペースを核とした地域活性を考える「浅間わいわいプロジェクト」。イチゴ農家・柳澤直樹さんや地元旅館の方々と一緒に、この場所のより良い活かし方、地域の盛り上げ方を考えます。写真は造成中の木造のイチゴハウス(奥)の隣にある芝生スペースで、柳澤さん(左から3番目)の話を聞く学生たち

 定員は毎年度20名。1年次は、まずスタートアップとして、地域社会の課題に向き合うためのマインドを磨きます。知識だけを身に付けるのではなく、地域講師との対話やグループでのワークショップを中心に「考える力」「知識を活用する力」を育成します。
 2年次前期では、「イノベーション・リテラシー」をテーマに、さまざまな地域社会に関係する統計データやビッグデータなどの読み解き方・分析方法を学び、それらを表現(プレゼンテーション)する方法や、質の高い情報を引き出すインタビュー調査などのトレーニングも行います。データに基づいた問題分析と課題設定、アイデア創出のプロセスを実践的に学びます。
 2年次後期では、「リアル・プロジェクトマネジメント」をテーマに、学生が主体となって「ローカル・イノベーション・フォーラム(仮称)」を企画・運営します。会場確保から基調講演者の調整、進行台本の作成など、学生が自ら実施し運営することで、チームメンバーの適切な役割分担やマネジメント方法なども学びます。
 3年次から4年次は、個の力を高める「課題解決インターンシップ」を、地域企業や行政、団体と協力して実施します。ただし、従来の企業側が用意する就業体験やリクルート用のインターンシップではなく、企業と大学が協働した人材育成(コーオプ教育)であることが特徴です。OJTの中で地域や組織が抱える問題の分析、課題の設定、アイデアの創出までを学生自ら行い、受け入れ先の企業や団体に課題解決プランをプロポーズするところまで取り組みます。専門分野で培ってきた知識や能力、経験知をフル活用し、事業等をプロデュースする能力を身に付けます。この授業は本コースの修了試験とも言える授業です。

信州大学が築いてきた地域とのつながりが活かされる

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 授業のほかに、学部・学年の枠を超え、全受講生が参加する「課外活動」が多数用意されていることも本コースの特徴です。例えば、浅間温泉の旅館跡地を活用し、温泉熱を活用したイチゴ園やコミュニティスペース(わいわい広場)を地域協働型で創造する「浅間わいわいプロジェクト(仮称)」もその一つ。広場の活用プランやイベント企画を一緒になって考えます。こうした課外活動は学年、学部の枠を超えて受講生がプロジェクトとして参加し、学生同士の交流を図りながら、さまざまなアイデアを実践に移すことのできる人的ネットワークを築いてもらうことも目指します。
 「ローカル(現場)の面白さを実践で学べる。信州大学だからこそできる内容だと思っています」と林准教授。実は、浅間温泉に造成中のイチゴ園の運営者である柳澤直樹さん(松本市のイチゴ農家)は、本学のCOC地域プロゼミ(※1)一期生で、そのつながりがあったからプロジェクトがスタートしていたのです。これまで信州大学は、産学官連携や共同研究などで企業や団体、行政、市民とのつながりを構築してきています。こうした独自の基盤があるからこそ、実現できるカリキュラムとなっています。
※1)信州大学の人材育成講座「地域戦略プロフェッショナル・ゼミ」。文部科学省「地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」で実施

国内外のグローバル環境で、組織のコア人材として活躍するためのコース
グローバルコア人材養成コース

学部・学科を問わず、グローバルに活躍する“コア人材”の養成

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信州大学副学長(国際交流担当)グローバル教育推進センター長
学術研究院(工学系)教授
田中 清
博士(工学)。企業との共同研究による産学連携と共に、国際交流にも力を入れる。研究室では多数の留学生を受け入れ、国際色豊かな教育研究を行っている。平成27年より現職。

 「大学生にとってまず重要なのは、専門分野を持っていること。しかしそれだけでは視野が狭く、社会で求められる様々な課題に対して適切に対応できない場合も多い。理系の学生は特に、海外に目を向ける機会が少ないのではないかと思います。今後は、専門分野に加えて、グローバルな俯瞰力と課題解決力を併せ持つことが求められています」そう田中清副学長(国際交流担当)は言います。
 「グローバルコア人材養成コース」の目的は、多様化、複雑化した現代社会において、専門分野に加えて、グローバルに通用する組織の“コア”となるような教養、能力、体験に基づく判断力や実行力を身に付け、主体的に協働できる人材を育成すること。信州大学の卒業生には、組織にとってなくてはならない“中核(コア)”人材が多いといいます。あえてリーダーではなく“コア人材”の育成にスポットを当てていることが、本コースの特徴です。

2つのコースで段階的にグローバルな実践的スキルを身につける

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平成30年4月、スリランカ・ケラニヤ大学と国際学術交流協定締結。調印式の後、グローバルコア人材養成コースにおける「国際技術論」の講義としてスリランカ・セミナーが開催された。

 グローバルコア人材養成コースは、1年次を主な対象としたBASICコースと2年次以降のADVANCEDコースからなります。BASICコースでは共通教育科目の中から選定した、国際理解科目群、日本理解科目群、さらに本コースのために新設した、グローバルマインドを養成するための「グローバルコア人材力養成科目群」から、合計4科目を履修します。1年次から実践的な学びを促すため、「短期海外研修(グローバル実践BASIC)」も必須としています。もともと信州大学にはグローバル教育推進センターや全学教育機構、各学部で用意している短期海外研修プログラムが多数あり、こうしたプログラムを利用して学生たちのバックアップも行っていきます。
 ADVANCEDコースは、BASICコース修了者のうち希望者を対象として、さらに自律的で実践的な内容に移行します。所属学部で国際的な科目を1科目、さらに「全学横断科目群」から1科目履修します。特徴的なのが「全学横断科目群」で、学部・学科の枠を超え、グローバルなスキルの習得を目指す本コースの履修学生たちが一堂に会し、主体的に授業に参加する合宿形式のアクティブラーニングを予定しています。

自ら学び、考える、実践型のグローバル研修を必須に

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 ADVANCEDコースで最も重要なのが「自律型海外研修(グローバル実践ADVANCED)」。
 「2回目の海外研修となるので、今度はどういう角度で何にチャレンジするのか、学生自ら課題設定をし、自律的な企画力や実行力も身に付けてもらいます。交換留学や海外インターンシップ、理系の学生だったら研究留学なども考えられますよね」。海外研修への参加や留学にあたって大学側からの事前事後教育や経済的支援体制も構築しています。
 BASICコース、ADVANCEDコースの各コースを修了したあかつきには、修了証を授与すると共に、就職活動などでも活かせるよう成績表に修了証明を記載する準備を進めています。また、全ての科目に共通して、学んだことを将来どう活かしたいのか、授業や研修を通じて感じた自らの強みや気付きなどを記述する、ポートフォリオの提出を必ず求め評価を行います。
 海外研修では、実際に“グローバルコア人材”として組織で働く信州大学の卒業生のサポート、学術交流協定を結んでいる海外の大学とのつながりを活かすことも想定しています。これまで信州大学が築いてきた人的・学術的財産の活用も、本コースの独自性です。
 「大学院に進学する際のベース力アップにもつながると思います。将来的には海外との共同研究や産学連携の増加も期待したいですね」と田中副学長。学生たちはこのチャンスをぜひとも活かし、未来の“グローバルコア人材”としてのスキルを磨いていって欲しいと思います!

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