信大同窓生の流儀 chapter.15 塩尻市交流文化部文化財課職員 競技かるた子ども教室講師 経法学部卒業生 中山 春菜さん信大的人物
幼少のころから競技かるたに魅せられて… “短歌の里”をもっと盛り上げたい

志を持っていきいきと活躍する信大同窓生を描くシリーズの第15回で登場いただくのは、塩尻市 交流文化部 文化財課 職員の中山春菜さん(経法学部卒業生)。幼少期から競技かるたをこよなく愛してきた中山さんは、“短歌の里”と呼ばれる長野県塩尻市で、市役所職員として短歌文化の普及や地域づくり・人づくりを目的に、子ども向け競技かるた教室を開催し、講師を務めています。教室を開催している市の施設、塩尻短歌館でその活動内容や競技かるたに対する溢れる想いをお聞きしました。(文・佐々木 政史)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第154号(2025.11.30発行)より
初心者にも門戸を開き競技かるたの魅力を伝える
緊張の沈黙のあと、「パシっ!!」中山さんが百人一首の取り札を勢いよく弾き飛ばす…その音と迫力に取材スタッフは思わずのけぞった!!
ここは塩尻短歌館。塩尻ゆかりの歌人の掛け軸や短冊、書簡などが展示されており、明治期に建てられた建物は国の登録有形文化財に指定されています。塩尻市は太田水穂や島木赤彦などの近代短歌の歌人が集い、創作活動を展開した地で、「短歌の里」と呼ばれています。中山さんは今年8月から月に2回開催されている塩尻短歌館での小・中・高校生向けの競技かるた教室を市役所職員として発案し、講師を務めています。競技かるたとは、文化的側面もありますが「小倉百人一首」のかるたの札を使った一対一で対戦するスポーツです。読手が読む短歌の上の句を聞き、相手より先に札を取り、自陣の札がなくなった選手が勝ちとなります。「実はとても体力と気力を使うので、“畳の上の格闘技”とも呼ばれているんですよ」と中山さんは話します。
中山さんが講師を務める教室には、約30人が通っているそうですが、その大きな特徴は初心者にも門戸を広く開いているところだといいます。多くのかるた会では、百人一首の句を覚えていることが前提として求められるそうですが、そもそもこの段階で心が折れて諦めてしまう人が多いのだとか。一方で、中山さんの教室では、かるたに触ったこともない初心者から受け付けています。こうしたところは他にあまりなく、遠くは飯山市や茅野市からもわざわざ足を運ぶ生徒もいるそうです。「需要があることに気付けたので、思い切って企画して本当に良かった」と嬉しそうに話します。
中山さんが教室で教える際に大切にしていることは、「まず楽しいと思ってもらうこと」。入門者は札を覚える段階で躓くケースが多いので、無理に覚えようとはさせず、勢いよく札を飛ばすなどの楽しさを感じてもらうことに重きを置いているそうです。中山さんが教室を企画した大きな理由のひとつは、塩尻市の地域活性化でした。塩尻市にはゆかりの歌人が多くおり、市としてもこれを地域資源として活用していますが、こうしたことはあまり地域内外に知られていないそうです。そのため、短歌館を活用し、入門者のための競技かるた教室を開催することで、子どもの頃から塩尻市と短歌の結びつきを感じてもらうとともに、競技かるた人口を増やして、短歌という地域資源を活かした地域づくりに取り組みたいと考えたそうです。
また、信州大学生時代に所属していた「競技かるたサークル」での経験も大きいといいます。サークルは県全域を対象とした参加者100人規模の大会を開催していますが、中山さんも大学生時代にその運営に携わったことで、裏方としての楽しさや喜びを知ったそうです。さらに、その頃に年下を交えた合同練習会も行っていましたが、その機会を通じて、教えることの魅力に気付いたと言います。
人として成長させてくれた競技かるた…いつか自分の「型」も極めたい
そんな中山さんが競技かるたに出会ったのは、小学生の時でした。
「最初のきっかけは授業の百人一首で札が沢山とれたこと。その後、競技かるたの存在を知り、さらに漫画『ちはやふる』を読んで、自分でもやってみたいと思うようになりました」
そこから中山さんは競技かるたに一気にのめり込んでいったそう。高校は競技かるた部のある松本県ケ丘高等学校に進学し、信州大学でも競技かるたサークルに入りました。さらに、就職で塩尻市職員を選んだのも、競技かるたに関わることができる点が大きかったそうです。「競技かるたは“私の人生の中心”と言っても過言ではないくらい。気付くと週末の予定もこれで埋まっています」と笑います。
中山さんがこれほど競技かるたを愛している大きな理由のひとつは、「人間的な成長を感じられること」だと言います。競技かるたは、高齢者から子どもまでの幅広い世代の老若男女が楽しんでおり、それらの人と関わることで、自分の考えや世界が広がる実感があるのだそう。それだけに、中山さんが講師を務める教室の生徒にも同じように、競技かるたを通じて様々な人と出会い関わることで、人として成長してもらいたいと考えています。
最後に中山さんに今後の活動についてお聞きすると、「かるた教室などを通じて、裏方として地域で競技かるたを盛り上げていきたい」とのこと。社会人になってからは、自らが選手として競技に参加することはほとんどなく、指導者としての活動にシフトし、教えることに楽しみを見出しているといいます。
「ゆくゆくは自分の主催で大会を開催するなど、やりたいことは山ほどあります。また、競技かるたには“流派”がなく、今の型は師匠から伝授いただいたもの。いつか自分の型を極めたいと思っています。」競技かるたへの愛が溢れ出る中山さん…“中山流”確立に期待しています。

