もっともっと研究LOVE!深掘り!大学院生。第3回 DOCTOR & MASTER訪問日誌 03信大的人物

医学系研究科 医科学専攻 修士課程2年生 大関 優斗さん

教育現場に作業療法士の支援を! “学校作業療法”普及に挑む

日本における発達障害の子供の割合はおよそ10人に1人と言われています。一方で、そうした子供たちの教育や学校生活への支援はまだまだ十分とは言えないのが実情です―。そんな中、医学系研究科 医科学専攻 修士課程2年生の大関優斗さんは、日本ではまだあまり知られていない“学校作業療法”(作業療法士が学校教育現場で子供たちの自立支援を行うこと)を普及させることに力を注いでいます。これにより、学校生活で人知れず苦労している子供たちの負担を軽くし、子供たちの健やかな成長を応援したいというのが大関さんの何よりの願いです。(文・平尾 なつ樹)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第151号(2025.5.30発行)より

より子供たちに寄り添った支援を実現するために…

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教材を使った支援活動を通じて、子どもたちの「できた!」を引き出します。

「学校作業療法」とは、作業療法士が学校現場と深く関わりながら、一人ひとりの子供たちがより良い学校生活を送るための支援をする取り組みです。その中でも大関さんが実現させたいと訴えるのは、作業療法士が学校現場に普段から常駐する形の学校作業療法です。これによって、学校現場における一人ひとりの子供と密な関わりを持てるのはもちろん、クラス単位、あるいは学校単位での関わりも可能となり、より子供に寄り添った形での支援が可能となります。さらには、教師の過重労働が叫ばれる昨今において、教師の負担軽減も同時に期待できます。

しかしこれを実現させるためには、資金面での課題や、学校からの理解、行政からのサポートを得なければならないなど、まだまだ壁があり、全国的にはあまり広がっていないそうです。この状況を打開するために大関さんがまず取り組んでいるのは「学校現場においてどれだけ作業療法が必要とされているのか」をデータとして示すこと。松本市内の公立小学校の教員に対し、アンケート調査を実施するための準備を進めています。

一口に発達障害といっても、ASD(※1)やADHD(※2)のように比較的知られているわかりやすい症状だけでなく、字を書くのが苦手だったり、良い姿勢を保っていられないというような、一見“だらけている”と見られてしまう障害を持った子供もいるといいます。「彼らが障害に気づかれないまま通常の学級に入ってしまうことで、実は人知れず苦労していることも多いです」と大関さんは実感を込めて話します。そんな子供たちに教員がどんな対応をしているのか、うまく対応できていない状況があるのかという実態を調査することが、大関さんの研究課題の1つです。

(※1)ASD:自閉スペクトラム症。対人関係を築くのが困難で、かつ特定のことに強いこだわりを持つ。

(※2)ADHD:注意欠如多動症。注意力、衝動性、多動性などの行動に課題がある状態。

療育施設で出会った子供たちに心動かされ…

大関さんが発達障害を研究したいと思うようになったのは、学部時代の実習に行った療育施設で、そうした子供たちと触れ合った経験がきっかけだったといいます。その場ではとても楽しそうに過ごしているように見える子供でも、学校になじめず、通うことができないこともあるという実情に対し、「自分に何かできることはないだろうかと考えるようになりました」。

現在は、授業がない時間を活用し、発達障害を持つ子供たちの日常生活動作の習得や集団生活への適応を支援する放課後等デイサービスでアルバイトもしています。「子供って本当に日々成長するんです。そういう姿を目にできることにとてもやりがいを感じます」といきいきと話します。

こうした関わり合いを研究の原動力にし、作業療法士として教育現場と医療現場をつなぐ「橋渡しのような存在になりたい」とまっすぐな瞳で話す大関さん。学校作業療法普及に挑む大関さんの挑戦から、今後も目が離せません!

院生の、とある一日

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学部時代は、授業をたくさん受講し、定期試験にも追われ慌ただしい生活を送っていたそうですが、大学院に進学してからは、比較的ゆとりを持って自分の研究分野にしっかりと時間を使えていると、充実の表情で教えてくれました。

ちょっと息抜き

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小学生の頃からずっとサッカー少年だったという大関さん。現在は解説者としても活躍する内田篤人選手の大ファンで、鹿島アントラーズを推しているそう。「今年はきっと優勝すると信じて、ユニフォームも買いましたよ」と笑顔で話します。地元山梨で活動するヴァンフォーレ甲府や、松本を拠点とする松本山雅の試合結果も必ずチェックしているといいます。放課後等デイサービスでも、子供たちとサッカーをしたり、好きなチームの話題で盛り上がるそうですよ。

ご本人から一言

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学部を卒業して大学院に進学するのか、あるいは社会人として働いてから大学院に入るのか、ギリギリまで迷っていましたが、最終的に「今、自分が学びたい」という気持ちを優先しました。大学院は学部と異なり、自分の興味のある分野にフォーカスして研究を進められるのでモチベーションがだいぶ違います。専門分野を極められるのはうれしいですし、何より素晴らしい先生方のもとで研究を進められることに喜びを感じています。

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学部1年次に購入したiPadには、これまでの研究資料がすべて詰まっていて、研究の「マストアイテム」だそう

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愛読書として見せてくれた3冊。新型コロナウイルスの影響で授業や生活に制限があったことも影響し、大学生になって読書が趣味になったといいます

指導教員から一言

信州大学学術研究院(医学系) 篠山 大明 准教授

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目指す道が定まらない学生も多いなかで、大関さんは当初から「学校作業療法を広めたい」という確固たる志を持っていました。しかもそれは大学としてもまだ取り組んだことのない未知の領域でもあったので、その視点に感心させられました。大関さんの新しい挑戦が、どのように花開くのか、私たちとしてもとても楽しみにしています!

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