食とビールと人生の豊かさを。In a daze Brewing 代表 冨成 和枝さん (信州大学大学院農学研究科修了生)信大的人物

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In a daze Brewing
冨成 和枝さん
PROFILE
2009年 信州大学農学部卒業
2011年 信州大学大学院農学研究科(※)修了
(※2016年 総合理工学系研究科(修士課程)に改組)
食品会社に務めた後、2014年から愛知県でビール醸造を学ぶ。
2018年 長野県伊那市でIn a daze Brewing合同会社を設立。
2019年から自社でのビール醸造を開始。

クラフトビールを通じて信州の食と農の物語を創る信大卒業生がいます

 信州大学農学部・農学研究科で学び、一旦地元愛知県で就職するも2018年、また伊那谷に戻りビール醸造を始めた冨成和枝さん。In a daze Brewingと名付けられた醸造所は、信州大学農学部にも程近い広域農道沿いにあります。タップルームも併設されており、オリジナルのクラフトビールはもちろん、冨成さんが石窯で焼く、伊那谷産の野菜をふんだんに使ったピザもその場で味わえます。 
 「“In a daze”は“ぼんやりする”、”夢心地”といった意味で使われる言葉。『イナデイズ』と、「伊那」とかけた読み方にも地元愛が伺えます。伊那の地でビールを飲みながら、そんな穏やかな気持ちになってもらえればと思って名付けました」と冨成さん。
 冨成さんが信州大学大学院農学研究科を修了したのは2011年。卒業後は愛知県の食品会社に務め、2014年から愛知県内のブルワリーで4年間修業を積みます。そして2018年、伊那の地に戻り、念願だった自身のブルワリーを立ち上げました。2019年1月からオリジナル商品の醸造を開始し、現在はメインとなる商品が8種類。さらに旬のフレーバーを加えた商品も季節ごとラインナップしています。
 「商品開発でこだわっているのは、伊那谷を表現するストーリーとコンセプト。例えば、『森の座ペールエール』は、伊那市で森林整備を行うNPO法人森の座さんと協力し、アカマツの新芽と松ぼっくりを醸造に使いました。清涼感のあるフレーバーに仕上がっています」(冨成さん)。松枯れ病が深刻な長野県で、森林整備を進める一助にもなれば、との思いも込められているそうです。伊那市長谷で米作りを営む、出口友弘さん(信州大学教育学部卒業生)が育てた米、カミアカリを使った「HASE」もユニークなビールです。
 そのほかにも「三州IPA」は、かつて愛知県から長野県へ塩や海産物を運ぶために使われた三州街道をコンセプトに、原材料にも天然塩を使用しています。「くらしSession Ale」は、中川村産のメイヤーレモンを使用した柑橘系の爽やかなフレーバー。ビールをきっかけにもっと多くの人に伊那谷を訪れて欲しいと、「おいで」を意味する方言「くらし」を冠しました。

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発酵タンクが並ぶ醸造ルーム

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ビールはどれも個性豊か。タップルームで味わうこともできる

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古材を活用したエントランス

ビールのコンセプトは伊那谷の個性や多様性、その歴史や食文化を支えたい

 大学院時代は乳酸菌と免疫の関係について研究していた冨成さん。「当時から、ビールだけでなく日本酒も好きで、大学時代はとくによく飲んでいました。農学部生は、お酒好きな人が多いですよね(笑)」(冨成さん)
 最初に務めた食品会社では、愛知県内の生産者から規格外野菜などを仕入れ調味料を開発するなど、6次産業的プロジェクトにも参画しました。しかし、ロットの大きな企業レベルのプロジェクトでは原材料を大量に仕入れる必要があり、必ずしも一次産業が抱える課題と合致せず、思い描いた結果にならないことも少なくなかったそうです。
 「もっと小さな規模で農家さんを支える仕事がしたいと思っていたとき、もともとお酒の開発に携わってみたいと考えていたこともあって、クラフトビールにたどり着きました。ビールであれば、原材料に野菜も穀物も使えます。その多様性も魅力でした」(冨成さん)
 移住して約2年。伊那市には農業に従事する卒業生も多く、地元の生産者とのつながりも徐々に広がっていきました。
 「6年間、長野県で過ごして、地元愛知県との価値観の違いを強く感じていました。伊那には、一次、二次、三次産業、それぞれに携わる魅力的な人たちがたくさんいて、豊かな農産物があり、深い歴史や食文化もたくさん残っています。だからいつか戻って来たいとずっと思っていました。伊那ならではの個性あるビールをつくっていきたいですね」(冨成さん)
 定番銘柄の「伊那日和ペールエール」は、モルトの上品な香りが広がる、伊那谷の昼下がりにふさわしい優しい味わい。“よりよい生活が、良い人生を醸す”。In a daze Brewingが掲げるコンセプトの通り、伊那谷の人々と穏やかな日常が醸し出す、伊那日和なビールがここで生まれています。

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第129号(2021.9.30発行)より

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