信大同窓生の流儀 chapter.02 株式会社SORENA 代表取締役 伊藤優里さん 信大的人物

ユーザーとつながる「それな!」のモノづくりで感動を。
“りんごレザー”国内初の製品化 

 志を持っていきいきと活躍する信大同窓生を描く新シリーズの第2弾。りんごと革製品…この一見ミスマッチに思える組み合わせ、実は世界的に見ても最先端で、ソーシャルグッドな取り組みです。信州大学繊維学部で感性工学を学ばれた(株)SORENAの代表取締役である伊藤優里さんは、りんごの搾りかすを原料とした“りんごレザー”を日本で初めて開発し、環境への配慮、食品廃棄問題に対応するエシカル消費などの観点から大きな注目を浴びています。多くのビジネスコンテストで受賞し、本格販売前に実施したクラウドファンディングでは目標金額の20倍以上の支援額を集めました。可能性に満ちたりんごレザーを通して伊藤さんが描く未来とは?(文・佐々木 政史)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第140号(2023.7.31発行)より

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りんごの搾りかすで造る合皮 手触り感はワンアンドオンリー

 「りんごレザー」をご存知でしょうか。これはその名の通り、りんごを原料とした自然由来の新たな合成皮革です。
 りんごの芯や搾りかすを粉砕しポリウレタン樹脂と混ぜたものを、綿などの下地にコーティングして造ります。一般的な合成皮革は石油を原料とするポリウレタン樹脂を下地にコーティングして作りますが、りんごレザーはこれにリンゴの搾りかすを混ぜて造ります。
 世界的に石油資源の枯渇が懸念されるなか、できるだけ石油を使わずに作ることができることや、りんご残渣の有効活用方法という観点から、“エシカルなテキスタイル”として社会的に注目度が高まっています。
 ソーシャルグッドであるだけでなく、質感や機能性も高いレベルを実現。しっとりとした手触りは天然皮革そっくりで、耐久性も従来の合成皮革と遜色ありません。

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リンゴの搾りかすを乾燥させ、粉末状にしたコーティング素材。言われないとりんごの粉末とはわからない。

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りんごレザーのブランドロゴをあしらったコースター。とても高級感がある。

社会への違和感と不透明感… 次代に安心な社会を引き継ぎたい

 このリンゴレザーを日本で初めて開発したのが、株式会社SORENA(長野県長野市)。信州大学繊維学部で感性工学を学んだ伊藤優里さんが代表取締役を務めるスタートアップ企業です。
 伊藤さんがりんごレザーの開発に至ったきっかけは、以前に働いていた長野県内のフルーツ加工会社で抱いた“食品の輸入に対する違和感”でした。その会社ではジャムに使用する果物の多くを輸入に頼っていました。しかし、ちょっとした社会情勢の変化で納期や価格が大きく影響を受ける状況を見て、「長野県は果物大国であるのに、どうしてわざわざ輸入に頼るのか」と疑問に思ったそうです。
 また、ジャムの原料となる果物が輸入中に傷んで規格外となり廃棄される様を多く目にし、食品の輸入に対する違和感をより強くしたそうです。
 これでは自分の子どもも含めて次の世代に安心な社会を引き継げない―。そう思い、「国内で生産したモノを使って、メイドインジャパンのモノづくりがしたい」。そう思い、伊藤さんは2020年4月に株式会社SORENAを設立しました。
 伊藤さんが「りんごレザー」開発に至る運命的な出合いをしたのは、2021年にサステナブルなテキスタイルを紹介する国際的な展示会を訪れたときのことです。
 パイナップルやバナナなどの果物を原料とした合成皮革や生地が展示されていました。そのなかに、りんごを原料とした合成皮革もあり、“これだ!”とピンときたそうです。
 2019年に台風19号の影響で長野県のりんご農園は大きな被害を受けました。伊藤さんの頭の中には、ずっとこの光景が残っていて、いつか県内のりんご農家に貢献することがしたい―。そのように考えていましたが、長野県のりんごでりんごレザーの製造が実現できれば、かねてより抱いてきたその想いを果たすことができると思ったのです。
 もうひとつ、伊藤さんがりんごレザーを見てピンときたのは、「感動」という付加価値を付けられると感じたからです。社名のSORENAは「それな」と読みます。“まさに、それそれ!”といった意味で、そのように感動してもらえるようなモノづくりがしたいという伊藤さんの想いがこもっています。
 サステナブルかつ本物の革にも負けない独自の魅力を持つりんごレザーは、きっと社会課題に敏感で本物の志向の消費者に感動を与えることができる。信州大学感性工学を学んだ経験からも、確信に近いものを感じ、日本初のりんごレザーの事業化を決意したのでした。

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非常にやわらかくなめらかな触感が特徴。りんごレザーを使った各種製品と伊藤優里代表。

伊藤 優里さん PROFILE
1984年、高知県生まれ。信州大学繊維学部感性工学科に進んだのちフルーツ加工会社に就職したが、輸入に依存する日本の食品事情や大量のフードロスに違和感を覚えて起業を決意。2021年4月に株式会社SORENAを設立した。その後、りんごレザーの日本で初めての事業化に着手し、2023年2月から飯綱町、共和レザー株式会社と共同での生産をスタートさせている。

地域課題解決で“それな!”のモノづくり

 事業化を決意してからプロジェクトが動き出すまでにそう時間はかかりませんでした。2022年に長野県飯綱町が開催したビジネスコンテスト「第5回いいづな事業チャレンジ」で、地域課題であった大量のりんご残滓を新たな特産品に変える可能性が評価されて準グランプリ獲得。これをきっかけに、飯綱町がりんごレザーの原料となるりんご残滓を農産物加工施設などから調達・粉末化し、共和レザー株式会社(浜松市)がそれを使ってりんごレザーを製造、SORENAがそれを使った商品企画と販売を担うという座組でプロジェクトが始動しました。
 昨年、クラウドファンディングを実施したところ、なんと目標金額10万円の20倍以上となる248万円の支援を達成。ニーズの高さが裏付けられたことから今年2月から生産を開始しています。
 クラウドファンディングの支援者のコメントを見ると、りんご残渣を有効活用して地域振興を図るというプロジェクトに共感する声が目立ちます。
 当初、伊藤さんがサステナブル展示会で考えたように、まさにりんごレザーの取り組みは、消費者とのエンゲージメントを強め、「それな!」と感動を与えるモノづくりを実現していると言えるでしょう。
 注目度の高さから大手商社やホテルなどの様々な業界から引き合いは増すばかり。体制づくりが追い付いていない課題もありますが、SORENAのりんごレザーの取り組みはまだまだ拡がる可能性を秘めていそうです。

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