信大同窓生の流儀 chapter.03 伊那ケーブルテレビジョン 放送部長 平山直子さん信大的人物

 志を持っていきいきと活躍する信大同窓生を描く新シリーズ、その第3回は伊那ケーブルテレビジョン放送部長の平山直子さん。平山さんは農学部森林科学科在学中に関心を寄せた環境問題への取り組みをきっかけに、情報信の重要性を認識、地元CATV局入社後は、ずっと地域課題に焦点を当てた番組づくりに力を入れています。さらにその活躍は社内にとどまらず地域の伝統芸能でも―。地域愛にあふれたメディア人、平山さんに迫ります。(文・佐々木 政史)
※現在は農学生命科学科 森林・環境共生学コースに改組

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第141号(2023.9.29発行)より

在学中は環境問題に没頭 自転車で日本全国を飛び回る

 伊那ケーブルテレビジョン 放送部長の平山直子さんは、ケーブルテレビの番組企画、ディレクション、取材、レポーター、カメラマン、アナウンサーなど数多くの役割をこなし、快活な人柄が長野県伊那の地域住民から愛されています。
 出身は広島県。信州大学農学部森林科学科(伊那キャンパス)への進学を機に第二の故郷として、伊那に移り住みました。在学中は環境問題に熱心に取り組みました。なかでも、夏休みの40日間、全国約1000㎞を自転車で走り回り学生同士で熱く議論を交わしたことは「今でも忘れられない思い出」と話します。
 伊那ケーブルテレビジョン入社も、環境問題への関心がきっかけでした。環境問題を解決へ導くためには、まずは世の中がその実態を知る必要があり、その方法としてメディアを通じた情報発信が重要ではないかと考えました。そして入社したのが、信州大学農学部がキャンパスを置く伊那の地元メディア「伊那ケーブルテレビジョン」です。

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平山 直子さん PROFILE
広島県出身。1997年、信州大学農学部入学。森林科学を専攻。大学生時代は環境問題に強い関心を持ち、自転車でキャラバンを組むなどの活動を通じ、全国の学生と環境問題について熱い議論を交わす。2002年、伊那ケーブルテレビジョン株式会社に入社。2023年から同局放送部放送部長。現在も、自ら原稿を読み、カメラを担ぎ取材に奔走する。主に地域課題をテーマとし、自身が企画した番組や取り組みは評判を呼び、受賞は多数。中でも、ドローン物流とも連携し中山間地域の買い物と高齢者見守りを行う取り組みは、(一社)日本ケーブルテレビ連盟主催の「ケーブルアワード2020」でベストプロモーション大賞グッドプラクティス部門のグランプリに輝く。

CATV局がシステム+番組制作で地域課題に貢献した稀有な事例

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「ケーブルテレビで未来を暮らそう」と題して平山さんが企画したプレゼンデータ。CATV局の双方向性を活かした各種の地域生活サポートサービスがまとめられている。なんとドローンによるデリバリーサービスやAIを利用した乗り合いタクシーは既に2020年から実施されている。

 入社後、平山さんの考えに少し変化がありました。環境問題のような世界規模の大きな社会問題に取り組むことも大事ですが、まずは自分の暮らす身近な地域の課題に目を向け、できることから一つひとつ積み上げていく必要があるのではないか―。そのように考えるようになったと言います。
 もともと社会問題に高い関心があるだけに、平山さんが得意とし情熱を注いだ、地域課題に鋭く深く切り込んだ番組は話題を呼びました。例えば、1961年に起こった三六災害の恐ろしさを地元被災者の証言を軸に伝える番組「伊那谷を襲った36災害~50年を超えて語り継ぐ~」(2011年)、地元の高齢養蚕農家への取材を通じ消えつつある養蚕文化を記録した「けーぶるにっぽん彩・JAPAN 蚕が紡ぐ純白」(2022年)は、いずれも地方の時代映像祭で選奨を受賞しています。
 平山さんが他と一線を画すのは、地域課題への取り組みがテレビ番組の企画・制作のみにとどまらないことです。地域課題に貢献できるシステム提案「ケーブルテレビで未来を暮らそう」を企画。「ケーブル・アワード2020」第13回ベストプロモーション大賞においてグランプリを受賞するなど高い評価を受けています。
 この事業は、CATVの回線を活用しテレビ画面を通じて、主に中山間地の住民を対象に、買い物支援、乗り合いタクシー、遠隔診療予約、見守りといった様々なライフサポートサービスを提供するもの。このうち買い物支援サービスは、CATVの加入者がテレビの専用画面で午前中に商品を選択し注文すると、地元のスーパーマーケットから夕方までにドローンも活用しながら自宅に商品が届けられます。注文操作は慣れ親しんだテレビを通じリモコン一つで可能。決済もCATVの利用料と一括して請求する仕組みとし、パソコンやスマートフォンなどのIT機器の操作が苦手な高齢者でも簡単に利用できるようにしました。2022年から実際に全国初となる新サービスが開始されました。

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江戸時代から続く地域の伝統文化、農村歌舞伎の役者としても熱演

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伊那谷の農村歌舞伎では有名な伊那市長谷中尾地区の伝統芸能「中尾歌舞伎」。写真は人気演目「弁慶」の一場面で、手前で演じる女形が平山さんだ。

 実は平山さん、伊那市の長谷中尾地区という中山間地域で継承され、市の無形民俗文化財に指定されている農村歌舞伎「中尾歌舞伎」の役者でもあります。CATVの取材をきっかけに、その素質を見込まれ保存会の会長にスカウトされたそうです。
 中尾歌舞伎は江戸時代(1767年)に旅芸人を通じてこの地域にもたらされ、貴重な娯楽として祭りなどで演じられるようになりました。太平洋戦争の際に一時消滅しましたが、1986年に地域の若者たちがお年寄りの指導を受けて復活上演し、中尾歌舞伎保存会の活動が開始しています。
 「中尾歌舞伎保存会の活動が私を伊那の人にしてくれた」平山さんはそう話します。出身は広島県であることから、どこか“よそ者”という引け目のようなものがありました。しかし、地域の人と一緒に伝統芸能の継承活動に取り組むなかで、ようやく地域人になれたと感じているそうです。

地域に価値ある情報を伝えるため“賞を獲りに行ける制作集団”でありたい

 常に新しいことに挑戦し続ける平山さん。今後の目標を聞くと、「手話でニュースを伝えること」と話してくれました。どんな人にも等しく情報を伝えたい。そのような想いで2008年に専門家から手話を学ぶ番組を企画。この番組を通じ手話を覚えていきました。ただ、手話でニュースを伝えられるようになるためには、手話通訳者全国統一試験に合格し、「手話通訳者」の資格を取得する必要があります。そのため、今年から講座にも通い始めているそうです。
 もう一つ、「伊那ケーブルテレビジョンが賞を獲りに行く集団であり続ける」ということも、平山さんは抱負に掲げます。あくまでも賞を獲ることが目的ではなく、そのような目的を持つことでスタッフも自分も磨かれていく。そして、それは結果的に地域に価値ある情報を伝えることにつながる―そのように考えています。地域愛に溢れる平山さん。伊那のこの地域でこれからもどんな活躍を見せてくれるのか。期待せずにはいられません。

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「地域発でも全国に発信できる、賞を獲れる番組を作りたい」が平山さんの信条。そのコメントのとおり、伊那ケーブルテレビジョンは受賞歴の多い実績あるCATV局。あのギャラクシー賞受賞の賞状も並ぶ。

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