フードデザイン×ワンヘルス研究拠点信大的人物

食から導く“ワンヘルス” 食×データが変える健康科学の最前線

信州大学は「フードデザイン×ワンヘルス研究拠点」を立ち上げました。人だけでなく、動物や環境も含めて、分野横断的に健康を目指す“ワンヘルス”という新たな研究分野を、食の観点から切り開いていこうとしています。なぜ、こうした研究手法が必要なのか、どのように取り組んでいこうとしているのか、田中沙智拠点長にお聞きしました。(文・佐々木 政史)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第156号(2026.3.31発行)より

健康食のエビデンスづくりへ データサイエンスも導入

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食を起点に、人・動物・環境の健康を統合的に推進する社会を目指すフードデザイン×ワンヘルス研究拠点のロゴとコンセプト図

「“ワンヘルス”が、拠点のキーワードです」

信州大学「フードデザイン×ワンヘルス研究拠点」の田中沙智拠点長(信州大学学術研究院(農学系)教授)は話します。ワンヘルスとは、健康に関して、人、動物、環境を分野横断的に取り組むアプローチです。これまでは人、動物、環境は別々の分野として研究されてきました。しかし、新型コロナウイルス感染症のように感染症には人と動物に共通するものがあり、動物から人へと感染が広がります。また、地球温暖化や生態系の崩壊は、新たな感染症の発生や食料危機、災害の激甚化など、人の暮らしを脅かすことにもつながっています。そのため、人だけでなく、動物や環境も含めて健康を一体的に捉える“ワンヘルス”のアプローチが、科学の最前線として注目されています。

フードデザイン×ワンヘルス研究拠点は、農学部の4名の研究者が中心となり、食を通じてこの実現を目指しています。具体的には、食べ物に含まれている成分のなかで、免疫力向上などの健康に良い影響を与えるものを人・動物それぞれで特定し、どのような経路でそのような作用が発生するのかを証明しようと研究しています。

まずは、これまでに研究を進めてきた「乳酸菌」を研究対象としているそうです。「乳酸菌は健康に良いと広く知られていますが、実際には非常に多くの菌種・菌株が存在し、そのすべてにおいて科学的エビデンスが十分に確立されているわけではありません」と田中拠点長は説明します。そのため、同拠点では、様々な乳酸菌を人や動物に与え、健康に与える影響を実験で研究していこうとしています。

加えて、「これまでにない手法として、新たにデータサイエンスも取り入れる」と田中拠点長は話します。拠点メンバーの農学部 梅澤公二准教授はバイオインフォマティクス(生物情報科学)を専門としています。

これは、DNA、RNA、タンパク質などの膨大な生命科学データを、AIなどを用いて解析する学問分野です。梅澤准教授の知見を活かしながら、食品成分の分子構造を体系的にデータベース化し、それらを解析することで、人間や動物の健康への影響を分子レベルで明らかにし、健康増進や疾病予防に貢献したい考えです。

海外との連携も視野に

今後、拠点では農学部内外との連携を積極的につくっていきたいと考えているそうです。例えば、「医学部や繊維学部の先生方とも連携を図りながら、共同研究へと発展させていきたい」と田中拠点長は話します。また、海外の研究者との連携にも意欲的です。2026年2月に、米国のコーネル大学とアルゼンチンのトゥクマン国立大学の研究者を招いて、拠点のキックオフシンポジウムを開催しました。

ワンヘルスは、人、動物、さらには環境も含めた広い範囲の分野の健康を扱うだけに、「海外も含めた様々な分野の研究者との連携がカギを握る」と田中拠点長は話します。ネットワークを広げながら、研究がどのように展開していくのか―。今後の動向が楽しみです。

拠点長PROFILE

田中 沙智 教授

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信州大学 学術研究院(農学系)
専門は食品免疫学。信州の伝統野菜「野沢菜」などで、食品由来成分による免疫調節作用のメカニズムを研究している。2022年 農芸化学奨励賞、2024年 食品免疫学会賞など受賞多数。

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