持続可能社会・循環型経済国際研究拠点(ISCE)信大的人物
歴史的建築物を先鋭的手法で次代へつなぐ 未来社会創造イノベーション

世界的に持続可能な循環型の社会の形成が求められるなか、信州大学の「持続可能社会・循環型経済国際研究拠点(ISCE)」では、歴史的建築物保全などの観点から、その実現に向けた研究に取り組んでいます。建築、機械、情報などの多様な専門家によるグローバルなネットワークを構築しながら、何を目指しているのか。遠藤洋平拠点長にお聞きしました。(文・佐々木 政史)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第156号(2026.3.31発行)より
歴史的建築物を守る電源不要のモニタリング技術を開発
「既存建築物の適切な維持管理は、持続可能な社会・経済の形成に重要な意義を持ちます」
信州大学の「持続可能社会・循環型経済国際研究拠点(ISCE)」の遠藤洋平拠点長(信州大学学術研究院(工学系)准教授)は、話します。
建物を取り壊して新築する際には膨大なCO₂が排出されますが、既存建築物を適切に維持管理できれば、CO₂を大幅に削減でき、環境負荷の低減につながります。また、地域独自の景観や文化、歴史を保全し、豊かな街の魅力を維持するといった観点からも、重要な意味を持つと言えるでしょう。
ISCEは、こうした既存建築物の適切な維持管理を通じた、持続可能な社会・経済の形成を目的に設立されました。特に、遠藤拠点長の専門であるヨーロッパを中心とした“歴史的建築物”の適切な維持管理の研究に力を入れて取り組んでいこうとしています。現在、ヨーロッパの多くの都市ではSDGsの観点から中心市街地への車の乗り入れが規制され、その代わりに地下鉄の路線が拡大し、便数も増えているそうです。例えばバルセロナでは、地下鉄が通ると建物の中でも揺れを感じるほどで、「歴史的建築物への影響が社会問題化しています」と遠藤拠点長は話します。
こうしたなかで、ISCEがまず取り組んでいるのが、外部電源や電池を必要としない「完全自立型振動発電モニタリングシステム」の構築です。伝統的建築物の適切な維持管理のためには、亀裂変位、傾斜、ひずみ、温湿度、風力、加速度などをセンサーで測定し、常時モニタリングすることが重要だそうで、ISCEでは建物の振動エネルギーを電力に変換してセンサーを駆動させるシステムの開発を進めています。実現すれば電池などの電源を必要としない“完全自立型”のモニタリングが可能になります。これは従来にはなかったもので、既存建築物の維持管理の発展に大きく貢献しそうです。
グローバルネットワークを形成 “真の国際感覚”の育成も
ISCEには、建築関係だけでなく、物質科学や通信工学などの多様な専門家が集結しています。特筆すべきは、学内にとどまらない広がりです。京都大学や日本大学の若手研究者に加え、企業の技術者、そして歴史的建築物保存の先進国であるスペイン・イタリア・ポルトガルなど欧州5か国の大学教員が連携し、産学官の国際ネットワークを形成しています。
また、拠点の国際的なネットワークを活用した教育活動にも力を入れていこうとしています。初弾プロジェクトとして、2026年1月には、遠藤拠点長の学友だというスペイン・カタルーニャ工科大学のアナ・タラゴナ准教授を招聘。滞在中は、研究以外の時間もできるだけ学生を帯同させて生活のサポートも任せ、学生が“真の国際感覚”を得られる機会を作ったそうです。
「個人レベルでの濃密な交流を通じ、将来、自分も同じように海外と日本を行き来して活躍するイメージを持ってもらいたい」持続可能な社会へ向けて、研究だけでなく、学生の人材育成の観点からも、ISCEへ大きな注目が集まりそうです。

