人文学部研究者紹介01 仏教のイメージを"アップデート"したい 護山真也教授信大的人物

信州大学 学術研究院(人文科学系)研究分野:仏教学・比較哲学

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第155号(2026.1.31発行)より

(文・佐々木 政史)

西洋哲学との比較も行い仏教哲学の新たな地平を開く

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研究室には洋の東西を問わず哲学書がびっしり。サンスクリット語で書かれた仏教哲学の資料などに取材陣は興味津々でした。

「仏教のイメージを“アップデート”したい」
こう話すのは、信州大学 学術研究院(人文科学系)の護山真也 教授です。仏教を学問として研究する「仏教哲学」に取り組んでいます。「仏教は信仰の対象から離れたところに、実は本当の面白さがあるのではないかと考えています」と護山教授。インド仏教認識論の大成者ダルマキールティとその後継者プラジュニャーカラグプタの著作をもとに、輪廻思想や全知者証明、時間論、知覚論、未来原因説などを研究しています。
護山教授の研究がユニークな点は、仏教思想を西洋思想と比較しながら研究していることです。日本ではそのようなアプローチで取り組んでいる研究者はあまりいないそうですが、その手法をとることで、仏教思想に新たな解釈の地平を開こうと取り組んでいます。「例えば、仏教では『リンゴ』という言葉の意味は、『リンゴならざるものの否定』だと言います。〈リンゴ〉は〈ミカン〉や〈ブドウ〉などの他のものとの相対的な関係のなかで意味が定まるわけです。実体よりも関係を重視する考え方は、西洋の言語学者ソシュールの意味論や構造主義と比較できますし、比較を通して、仏教哲学の価値の再発見や、より解像度の高いテキスト解釈が可能になります」。
こうした比較思想の手法を取り入れるようになったのは、信州大学への赴任がきっかけだったそう。比較思想の講義を担当し、同じ学部の西洋哲学や中国哲学の教授陣と交流の機会を持つようになり、哲学間の対話へも次第に関心が高まっていったといいます。

仏教哲学を学ぶ人、その裾野をもっと広げたい

護山教授は日本での仏教のイメージのアップデートを目指し、これまで仏教哲学に馴染みがなかった人へ、その魅力を伝える活動にも精力的に取り組んでいます。その一環が、「高大連携哲学演習」です。これは信州大学と長野県内の高校が連携し、大学生と高校生が一緒に哲学的なテーマについて対話・議論する学習プログラム。2019年から実施しており、これまで8回開催しています。信州大学卒業生の高校教諭から「探求科目」の授業内容の相談を受けたことがきっかけで、企画がスタートしたそうです。毎回テーマを変えながら、テキストを用意し、大学生と高校生で考えたことを事前にまとめて発表して議論するということを行っています。
「大学の学部生は教えられる立場にありますので、どうしても受動的な学びの姿勢になりがちですが、高校生に教える立場にも回ることで、能動的な学びにつながっていると感じています。一方で、高校生にとっては、倫理や公共の科目に秘められていた哲学的な思考に興味を持ってもらうきっかけづくりなどになっています。大学生も高校生もすごくいい反応で、互いに学び合うことは実践知の新しい経験になっているようです」と護山教授。2025年はオープンキャンパス時に「AIと倫理」をテーマに開催。『京大哲学講義 AI親友論』出口康夫著(徳間書店,2023年)を教材に、AIと人間がどのような関係性を築きつつあるのか、その根本にある新しい時代の人間観や倫理の問題などを考えました。約40名が激論を交わし、時間が足りないほど白熱したそうです。「仏教哲学は一見とっつきにくい印象がありますが、一度触れるとその魅力の虜になるはず。思想だけでなく、言語学、歴史学、認知科学など、様々な学問領域とつながっています。その世界の面白さを知る人の裾野をもっともっと広げたい」。護山教授は今後も様々なアプローチで仏教哲学の魅力を広く伝えていきたいと考えています。

信州大学 学術研究院(人文科学系) 護山 真也 教授

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研究分野は仏教認識論・比較哲学。2006年ウィーン大学博士課程修了。同大学南アジア学・チベット学・仏教学研究所プロジェクト研究員を経て、2007年 信州大学人文学部准教授、2019年から現職。2008年日本印度学仏教学会「日本印度学仏教学会賞」、2019年比較思想学会「比較思想学会研究奨励賞」を受賞。比較思想学会理事、日本印度学仏教学会理事を務め、日本学術会議連携会員。

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