第2回 輝いてるね!キラリ大学院生 訪問日誌05信大的人物
温暖化から森林環境を守りたい 未知なる領域“細根の水吸収”を切り拓く!
生物が生きていくために欠かせない水。樹木の場合は、成長のために「細根」で水を吸い上げますが、実は樹種ごとの吸収量などその詳細は未だ解明されていません。しかし、この細根の水吸収の仕組み解明が、地球温暖化などによる森林環境の変化への理解と保全に大きく貢献する可能性があるそうです。日本学術振興会の「特別研究員」に採用されている総合医理工学研究科 山岳環境科学分野 博士課程2年生の増本 泰河さんは、好奇心旺盛にこの未知なる分野を切り拓かんと挑戦しています。(文・平川 萌々子)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第145号(2024.5.31発行)より
天文学者を志すも気づけば“地中の宇宙”のとりこに
世界的に早急な対策が求められている地球温暖化の問題―。樹木でもその影響が懸念されています。気温上昇によって樹木が利用できる水量の変化が予想されているのだそうです。
こうした社会課題に対して、“細根の水吸収”の研究を通じて、対応策を考えていこうとしてるのが、総合医理工学研究科総合理工学専攻 山岳環境科学分野 博士課程2年生の増本泰河さんです。「まずは細根の水吸収の仕組みを明らかにし、温暖化でどのような現象が起きうるのか把握すること。そしてゆくゆくは森林環境を守ることにつなげたい」と増本さん。実は野外の細根に関する研究が本格的に始まったのは、2000年代とまだ歴史が浅く、「調査すればするほど新しい発見がある」と研究への熱意を燃やします。
樹木の水の吸収は、直径2㎜以下の根と定義される「細根」が役割を担っています。その細根の水吸収には主に2つの要素が関わっています。1つ目が、吸水時の駆動力や水の通しやすさといった、細根の「質」に関わるもの。2つ目が、細根の「量」です。増本さんは、質と量の2つを組み合わせて細根の能力を整理したうえで、気温などの生育環境が異なる場合の変化を解明する研究に取り組んでいます。
温暖化の影響は特に高山が受けやすいとされています。
そのため、高山域に分布する落葉広葉樹「ダケカンバ」と、常緑針葉樹「オオシラビソ」が研究対象の樹種。信州大学ならではのフィールドワーク拠点施設「乗鞍ステーション」に泊まり込み、標高2,000m以上の森林で各標高の細根を採取し調査を行っています。
増本さんがこの研究を始めるきっかけになったのは学部1年生時の牧田准教授の講義でした。樹木の種類によって根の形が違うということを知り、「目に見えない地中にも樹木の競争と戦略の世界が広がっている!」と大きな衝撃を受け、この分野に進むことに。もともと天文学者を目指していましたが、「気づけば“地中の宇宙”を探究していた」と増本さんは振り返ります。
理学と農学を横断して幅広く研究
増本さんは、学部1年次からより専門的な指導を受けられる理学部の「先進プログラム制度」を活用し、細根の研究に打ち込んできました。その原動力を伺うと「楽しいからです!」と即答。現在は、水の吸収だけでなく、根に共生している微生物との関係にも興味が及んでいるそうです。「全ての現象は、物理、化学、生物、地学…全てに繋がっていて、幅広い視点で理解する必要があります。所属している牧田研究室では、学生の研究領域も多岐にわたりますし、理学と農学の間に立って研究できるのがとても面白い」と嬉しそうに話します。
今後のキャリアパスとして考えていることは、積極的に国際共同研究に参画し、海外の森林を調査すること。同じ樹種でも環境が変わると細根も変化するため、海外の研究者達とディスカッションして解を見つけ出す必要性を感じています。そして、「自分が牧田先生に視野を広げてもらったように、学生の興味を広げられるような大学教員になりたい」と力強く語りました。 細根というミクロの世界から森林の環境保全へ。増本さんの興味が広がっていくのと同時に、研究が前進していくことを期待せずにはいられません。