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エネルギー、健康、資材高騰…、地球の諸問題を“イシクラゲ”で解決したい!

 総合理工学研究科 生命医工学専攻 生命工学分野 修士課程1年生の土江田優貴さんは藻類の一種である“イシクラゲ”の人工培養方法を確立するための研究をしています。そのなかでも、土江田さんが日夜、研究に情熱を傾けるのがイシクラゲの効率的な増殖で必要となる「コロニー形成条件の究明」です。日本各地の様々な場所に生育するイシクラゲ 。実は、バイオマスエネルギーや機能性食品、農業・水産業資材など、幅広い分野で活用の可能性を秘めています。その効率的な人工培養方法の確立を目指す、土江田さんの研究とは?!(文・平尾 なつ樹)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第139号(2023.5.31発行)より

石油に代わるエネルギー源としても期待

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左)イシクラゲの顕微鏡写真 右)公園の片隅などで見られるイシクラゲ
イシクラゲを初めて顕微鏡で覗いてみると、ツブツブの細胞がたくさんあって形がかわいく見えたことが印象的と話す土江田さん

 “イシクラゲ”を見たことがありますか?一般的な知名度こそ高くありませんが、土壌だけでなく、アスファルトの上などにも多く見られるため、名前を知らなくとも、実物(写真参照)を見ると、一度は目にしたことがあるという方も多いのではないでしょうか。中国や沖縄など、地域によっては食用としても普及しているようです。
 このイシクラゲ、実は地球上の様々な分野が抱える課題へのソリューションになり得る可能性を秘めています。そのひとつが、環境問題。藻類には体内に油分を蓄える性質があるため、近年、石油代替資源としての「藻類バイオマス」に注目が集まっています。そのなかでもイシクラゲは、細胞の周りに鞘を持ち、ミジンコなどによる捕食被害に強く、また空気中に存在する窒素分子を窒素化合物に変換する「窒素固定」を行う性質があります。そのため、安価に大量に生産できると期待されています。
 また、昨今の肥料価格の高騰が問題となっている農業や、水産業分野においても大きな可能性を持っています。例えば、水田にイシクラゲを生育させ、そのまますき込むことで、前述の窒素固定の働きによって、土壌への窒素肥料の施肥量を減らし、労力とコストを削減できる可能性があります。水産業においても、養殖魚の餌として魚粉の代替にすれば、飼料コストの削減につながります。
 加えて、イシクラゲに含まれる成分には「抗炎症作用」、「抗酸化作用」、「抗がん作用」や「コレステロール抑制作用」があることが分かっています。世界でこれまで以上に健康問題への関心が高まるなか、機能性食品としてサプリメントや漢方としての需要も大いに見込まれます。

人工培養の鍵“ホルモゴニア放出条件”の解明へ

 こうした地球規模の様々な問題への“救世主”と成り得る可能性を秘めたイシクラゲ―。低コストで大規模培養が可能な藻類として、他大学や企業等でも人工培養に向けた研究が進められていますが、まだその方法は確立されていません。この大きな壁に風穴を空けようとしているのが、総合理工学研究科 生命医工学専攻 生命工学分野 修士課程1年生の土江田優貴さんです。土江田さんは、イシクラゲの効率的な人工培養にはコロニー形成が重要と考え、その条件を探索しています。このテーマは伊原研究室でも数年前から取り組んでおり、土江田さんの前にも3人の先輩が研究を進めていました。ここで土江田さんが究明したのが、“ホルモゴニア”の放出条件。イシクラゲはコロニーを形成するにあたり、ホルモゴニアという特殊細胞を放出し、これが最終的に次世代コロニーへと成長することで増殖します。その条件の解明こそが、培養の鍵を握っていました。
 その中でも、野外環境において、ホルモゴニアを放出しているイシクラゲが大繁殖している様子がヒントとなり、ついに放出条件を解明するに至りました。「先輩たちが情熱を注いで研究する姿を見てきただけに、この発見で研究を前進させられたことはとてもうれしかったです」と、その喜びを語ります。指導教員の伊原正喜准教授も「現在特許申請中のため、詳細は言えませんが、人工培養のためにネックとなっていた部分だったので、この発見はブレイクスルーになると思いますよ。脱炭素などに向けての活用が進んでいくのではないでしょうか」と話します。
 今後は、さらに詳細な放出条件を解明することが課題だと語る土江田さん。さらなる研究の前進に、期待が広がります!

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ご本人から一言

 もともと環境保全に興味があって伊原研究室の門を叩いたので、現在取り組んでいる研究は、まさに自分がやりたかったことなんです。まだあまり世の中に知られていないイシクラゲですが、私の研究が、今後、世の中に広く認知されるようになるきっかけとなれば、とてもうれしいですね。

指導教員から
信州大学学術研究院(農学系)
伊原 正喜
准教授

 土江田さんは、一言でいうととても“タフな学生”です。研究室では顕微鏡をずっと観察している時間が多く、それはとても集中力を要する作業なのですが、彼女は全く“しんどそう”に見えないんです。私が自分の研究がうまくいかず、頭を抱えている時などは、「やり方を変えてみたらいいじゃないですか」とさらっと言われたこともあります(笑)。ポジティブな発想ができて、集中力があり、好奇心も強い。そんな研究者としての強みを、これからも大切にしてほしいと思っています
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信州大学の大学院は総合大学の強みを活かして学際的な研究科と専攻があるのが特徴。
学部との関係はこの図をご覧ください。

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