信大同窓生の流儀 chapter.01 学び舎かなえグループ代表 安部映樹さん 信大的人物

月刊誌編集長から転身、新スタイルの教育施設を開設

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 志を持っていきいきと活躍する信大同窓生を描く新シリーズの第1弾。今回登場いただくのは「学び舎かなえ」グループ代表を務める安部映樹さん。安部さんの描いた「新しいスタイルの教育環境」…それは“あらゆる子供がいきいきと、ハッピーになれる場所”でした。信州大学教育学部を卒業後、中学校教諭を経て出版社を起業、月刊誌「KURA」等を創刊。販売は好調で年商10億円にまで育て上げた同社を辞して再び文教業界へ。それまでの知見を活かし新スタイルの教育施設を開設したという異色の経歴の持ち主です。自身が生まれ育った思い入れのある地元に描いた夢を実現させた安部さんの“流儀”をご紹介します。(文・中村 光宏)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第137号(2023.1.31発行)より

ICT教材を早期に導入、学習塾に通信制高校、フリースクールを併設

 昨年度不登校だった小・中学生の数は前年比約25%増の24万人強(※)、高校生の約16人に一人が通信制高校の生徒と言われています。安部さんが描く子供たちが学ぶ環境、子供たちの居場所づくりはこういった背景を色濃く反映したものです。
 JR信越本線の川中島駅近く、寂れたシャッター商店街の一角に、人の出入りが絶えない3棟の建物…それが「学び舎かなえ」。小・中学生が集う「学び舎かなえ」は元青果市場だったという大きな建物で、2階が塾、1階は生徒も利用できる「駅前カフェ和(なごみ)」として運営されています。その目と鼻の先にある元薬局には通信制高校「川中島高等学園」と中学3年生に特化した「かなえMiRAI」、そして「フリースクール未来」。そのほど近くの築90年以上という元蔵には高校生のための「かなえPLUS」があります。いずれの校舎もリフォームされ、雰囲気は妙にお洒落だったり、アットホームだったり。訪れた人は、俄かにはそこが学習塾とは分からないかもしれません。
 各校の役割は建前上分かれていますが、生徒たちはどの施設も自由に使えます。当初から学校向けICT教材を採用するかなえの特長です。基本、鍵をかけないので、生徒たちはその日の気分で学ぶ場所、居場所を決めているようです。

(※)文部科学省2022年10月WEB公表

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(写真上段)高校生向け学習塾「かなえPLUS」の内観。こたつあり、キッチンあり、映画鑑賞も音楽ライブもできるレイアウトフリーの多機能空間は、なんといつでも誰でも自由に使っていいらしい。(写真下段)左から学び舎かなえ(1Fは駅前カフェ和)、かなえPLUS、川中島高等学園・フリースクール未来の各校舎。

生徒が地域の方々と企画した初の文化祭は大成功!

 安部さんのもう一つのこだわりコンセプトは世代間交流、地域交流です。校舎を利用するのは実は子供たちばかりではないんです。「地域の方々もこの施設を利用し、子供たちとの交流を通して、一緒に生まれ育ったこの町に賑わいを取り戻したい。それがこの地に施設を開いた理由です」と話す安部さんは、生徒が利用しない時間帯に茶道教室や書道教室などを開催。生徒が農作業体験で得られる新鮮野菜が並ぶマルシェは週に2度、毎月音楽ライブ、月に2回歌声喫茶なども開催され、かなえは地域をもハッピーにする場所になっています。
 2022年11月には、「子供たちに色々な人と触れ合ってほしい」という安部さんの思いが実り「川中島駅前文化祭」を初開催。マルシェやカルチャースクールに訪れる人々が生徒たちと力を合わせ、500人もの来場者が2カ月かけて準備した数々の催しを楽しんだそうです。「人前に出ることを嫌がった生徒が、『来年もやりたい!』と言ってくれた。またひとつ、子供たちのハッピーな場所を作れました」(安部さん)。

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安部 映樹さん PROFILE

1962年現在の長野市川中島町生まれ。信州大学教育学部卒業後、中学校理科教諭を経て、1999年信州大学の仲間と出版社を設立、副社長、社長を歴任。2018年に退社後、故郷・川中島町で学び舎かなえを開校。2019年かなえPLUS、2020年かなえMiRAI、2021年川中島高等学園、2022年フリースクール未来を開校

好きな言葉は、「みんな違って、みんないい」

 これら特色ある教育施設のアイデアが生まれた背景も伺えました。安部さんのご両親は教員で自身の進路も教師一筋。中学校教諭時代には希望高校に全員合格させるほど熱心だった安部さんに、転機が訪れたのは勤続6年目のことだそうです。
 常に横並びを強いられることに疑問を感じて離職。その心中は、川中島高等学園のホームページでのあいさつ文にも見出せます。「中学生時代、教室にいることが実は苦手で…学校での勉強に相当な疑問を感じていました。嫌いな言葉は『努力・根性・普通』。好きな言葉は『みんな違って、みんないい』好きなこと・楽しいことをやることがとにかく大切です」(安部さん)。
 その後、出版社に勤めていた大学時代の仲間達等と興した出版社は、県内初めての月刊情報誌ということもあり順調に伸長。2000年には、月刊誌「KURA」を創刊させました。衣食住はもちろん、信州のアートや文化施設などのカルチャーシーン、さらに教育機関なども特集する同誌は売れ行き好評で。最盛期の年商は10億円にも達したそうです。

定期テスト、9教科の成績認定を実現したフリースクール未来

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川中島高等学園・フリースクール未来のフリースペース。取材に伺った際も皆さん明るい声であいさつしてくれて、屈託のない笑顔がとても印象的でした。

 華々しい成功の陰で、実は安部さんには55歳までに新たな仕事をするというひそかな目標があったそうです。今の時代にも合致する教育環境に、自分らしいやり方で携わりたい―そんな思いが、現在の新スタイルの教育施設を開設させる安部さんの原動力となったようです。2018年に開塾した学び舎かなえの生徒数はわずか1年で100人を突破。地域の声に押されるように、翌年にかなえPLUS、20年に中学3年生専用のかなえMiRAIと矢継ぎ早に開くことになります。
 それから3年。順風満帆の安部さんの目に映ったのは、もともとの社会課題にコロナ禍で急増した不登校の問題でした。そこで2021年にKURA編集長時代に知遇を得たさくら国際高等学校と提携し、川中島高等学園を開校。翌年に開設した小中学のための「フリースクール未来」では本領を発揮。行政や学校の協力を得て、学校の定期テストがここで受けられ、成績認定(長野市内中学校3校)も実現。また体育など実技教科も対象として全9教科を認定できるフリースクールは国内でも例を見ないとのことです。
 現在、自分らしく学び、明るく輝ける居場所となったかなえの施設には総勢180人の生徒が通っています。そんな学び舎を見事作り上げた安部さんの次なる目標は、この新しいスタイルの教育施設を県内の各市町村に完備すること。ますます意気軒昂な安部さんと頼もしいスタッフに、さらなる期待が寄せられています。

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