人文学部研究者紹介04 感情とはなんなのか? "悲しみ"を知ることで、 深く、人間について問う 白井真理子助教信大的人物
信州大学 学術研究院(人文科学系)研究分野:感情心理学、精神生理学

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第155号(2026.1.31発行)より
(文・平尾 なつ樹)
悲しみを分類しより適切な寄り添い方の提案へ
感情心理学を専門とする、信州大学学術研究院(人文科学系)白井真理子助教が研究しているのは、“悲しみ”。感情の中でもネガティブなものと捉えられがちですが、それは「私たちに何らかの価値をもたらすものなのではないか」と、白井助教は話します。悲しみが存在しなければ、幸福の意義を見出すこともできず、また喪失などの深い悲しみは、それだけ大切に思った対象の存在を表すものでもあります。悲しみや涙が、私たちにもたらすものは何なのか?ひいては私たちが感情を持つ意味は何なのか?人間らしさを形作る“感情”について知ることで、人間とはどういうものなのか―を、より深く知りたいと語ります。
研究にあたり、白井助教はまず「悲しみ」をタイプ別に分類することから始めたそうです。悲しみと一口に言っても、死別や失恋、失敗や孤独など、様々な場面があり、その状態は一概に一緒にできません。
例えば①死別の場面と②目標達成ができなかった場面はそれぞれタイプが異なる悲しみの状態と考えられます。そこで白井助教は、両者について悲しみの程度や同時に感じる感情などを、主観的な報告から分析。また、血圧などの生理的な変化についても同時に測定し、感情の反応を調べたといいます。
この結果、前者は生理的な覚醒状態(自律神経の活動レベルなどを測る皮膚の電気抵抗値(SCL)が高い状態)がもとに戻るまでに時間がかかることや、後者と比較し、その涙はぽろりぽろりといったような「静的」なものだと結論づけられたといいます。
一方で後者は、自分を責める怒りの感情と混ざっていたり、わーんわーんといったような「動的」な涙と関連性が高いという結果が出たそうです。
こうして悲しみをタイプ別に分けることにより、「どのようなサポート方法が適切かを考えやすくなる」と白井助教。悲しみにポジティブな側面があるとはいえ、深い悲しみは精神疾患などにもつながり、日常生活に支障をきたしかねないもの―こうした悲しみに対する寄り添い方として、「死別の悲しみを抱えている人には、静かに寄り添うことが大切で、失敗に対する悲しみを抱える人には、次の目標達成をサポートするような寄り添い方が効果的と考えられます」と、教えてくれました。
涙が他者や自身に及ぼす影響は?
悲しみを研究するうえでも重要な要素の1つとなるのが「涙」。白井助教は、悲しみと併せ涙についても研究しています。
「泣いてすっきりする」という言葉を誰もが聞いたことがあるように、白井助教が実施したアンケートでも、泣く行為に対し肯定的な回答が多かったそうです。ところがいざ実際に涙の表出の実験をしてみると、ネガティブな感情を伴う場面が多く、「アンケートと実験結果に乖離があった」とのこと。そのため、シンプルに泣くことがストレス緩和につながるとは言えないそうですが、人によっては「ネガティブな感情をコントロールする手法の1つであるとはいえると思います」と白井助教。
一方、泣いている人を見た周囲の反応として、助けたくなるというのは日本にとどまらず世界で普遍的にみられる反応だとのこと。大手コンビニエンスストア「ファミリーマート」では賞味期限が近づいた商品に、泣き顔をした食品の絵が描かれた“涙目シール”というシールを貼り、食品ロスを減らそうという取り組みをしていますが、「涙の社会的応用として、消費者の行動変容を促す非常に効果的な手法」といえるそうです。
社会を形成するうえで、他者からの共感や助けを得るため、涙は重要な役目を果たしてきたのかもしれません。「悲しみの価値が広く共有されることによって、誰もが悲しみや涙を表出しやすい温かな社会になってほしい」と、白井先生は語ります。他者の悲しみに適切に寄り添えるやさしい社会は、一人ひとりのウェルビーイング向上にもつながりそうです。

