標準化医療データ活用研究拠点信大的人物
“医療データの標準DX化”で医療現場を刷新したい!

電子カルテの形式は医療施設によってバラバラ、問診票は手書き̶。その結果、医療従事者の入力負担は大きく、せっかくのデータも研究に活かしきれていない現状です。こうした課題の解決に挑むのが信州大学「標準化医療データ活用研究拠点」です。中村慶佑拠点長に詳しくお聞きしました。(文・佐々木 政史)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第156号(2026.3.31発行)より
DXの着眼点は医療現場のリアル!
様々な分野でデジタル化が進められる昨今、医療分野でも医療DX推進の必要性が指摘されていますが、まだ道半ばというのが実情です。
しかし、病院によって電子カルテのベンダーは異なり、入力形式もバラバラ。しかも、医師、看護師、リハビリ職がそれぞれ同じような情報を重複して入力していることも多いそうです。また、問診票は手書きが主流で、データ化しようとすれば手作業でエクセルに入力するしかなく、医療従事者の負担は大きなものになっているといいます。
「せっかく現場にデータがあっても、医療の質の向上や研究に活用することが難しい状態が続いています」そう語るのは、信州大学「標準化医療データ活用研究拠点」の拠点長を務める中村慶佑(信州大学学術研究院(保健学系)助教)。そもそも研究に活用できる医療データが十分にないことが、保健・医療・福祉の発展を妨げていると指摘します。
いかなる種類の電子カルテを使っていても、手書きの問診票であっても、負担感なく効率的にデータを蓄積し、活用できる仕組みを作れないか――。こうした問題意識から、標準化医療データ活用研究拠点では、PCアプリ「MARS マーズ(MedicalArchive & Record Standardize/標準化医療データ集積システム)」の開発を進め、実用化に向けて取り組んでいます。
感性工学も取り入れた効率重視の新システム!
MARSの大きな特徴は、医療従事者がここに入力するだけで、データが統一フォーマットで蓄積される点です。しかも、その内容は電子カルテへの記載作業を支援する仕組み。入力は1回で済み、重複作業から解放されます。選択式の入力や数字キーだけで操作できる工夫により、入力の手間も大幅に軽減されるといいます。現在、長野県の神應透析クリニックなどで実証実験を進めており、既にデータが蓄積されつつあります。
この研究の先鋭的な点について、「データ入力の“ 入口”から根本的に変えようとしているところにあります」と中村拠点長は話します。これまで業界では、蓄積されたデータの活用方法は議論されても、データそのものをどう効率的に取るかという視点は乏しかったというのです。また、開発には信州大学の強みである感性工学の知見も活かされています。上條正義教授(繊維学部)らが、現場の使いやすさという観点からシステムの改善に関わっているそうです。さらに、浅尾高行特任教授(学術研究・産学官連携推進機構)も、システム開発の推進に大きく貢献しています。
現在、拠点には14ものプロジェクトがあり、医学部(保健学科・医学科)および繊維学部の27名の教員が参画。乳幼児検診のDX化や、AIによる転倒予測モデルの開発など、MARSを活用した多彩な研究が動き出しています。
中村拠点長は、このシステムが全国に広がれば、保健・医療・福祉のあり方そのものが変わると期待します。
「データが蓄積されれば、施設間の治療成績の違いも可視化できます。科学的な根拠に基づく医療の均質化につなげたい」データ蓄積・活用の観点から、医療現場の負担を軽減し、健康長寿社会を支える――。その基盤づくりが、信州大学から始まっています。

