探求 大好き!研究LOVE!キラリ大学院生 訪問日誌07信大的人物

研究室はわたしが輝ける場所、がん治療の“切り札”で一人でも多く救いたい

 手術・抗がん剤・放射線治療といった従来のがん治療で効果が見込めないー。信州大学総合医理工学研究科 生命医工学専攻 生命工学分野 博士課程1年生の盛田このみさんは、こうした患者への“切り札”となる新療法の研究開発を行っています。実は盛田さん、以前は臨床検査技師を目指していました。がん治療の研究者に方向転換した理由とは?(文・佐々木 政史)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第139号(2023.5.31発行)より

信大は次世代がん治療研究の先進拠点

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信州大学医学部附属病院の先端細胞治療センターでは実際に患者さんに投与するためのCAR-T細胞を製造しています。

 国立がん研究センターの調べによると、日本人が一生のうちにがんと診断される確率は男性65.5%、女性51.2%(2019年データ)と、実に“2人に1人”ががんと診断される時代となっています。こうしたなかで、今、大きな注目を浴びる次世代治療法があります。それは「CAR-T細胞療法」というもの。2019年に承認された血液がんの最新治療で、手術・抗がん剤・放射線治療といった従来のがん治療では効果が見込めず従来は諦めるしかなかった患者の救世主として高い注目を浴びています。
 患者さんの血液から採取した免疫細胞「T細胞」に、がんを認識する「CAR遺伝子」を、遺伝子導入技術を用いて組み込み、培養したうえで、それを薬として身体に投与する治療方法で、免疫療法のひとつです。
 信州大学はこのCAR-T細胞療法研究の先進拠点です。中沢洋三教授を中心に日本のみならず世界の研究をリードしてきました。2020年には信大発のバイオテックベンチャー企業「A-SEEDS」を創設。大学の研究室と連携することで、基礎研究で得られた成果をスピーディーに臨床へとつなげ、CAR-T細胞療法を力強く推進しています。
 こうした信州大学で、中沢教授に指導を仰ぎながらCAR-T細胞療法研究の第一線に立っている大学院生がいます。総合医理工学研究科 生命医工学専攻 生命工学分野 博士課程1 年生であり、A-SEEDSの一員でもある盛田このみさんです。
 実は盛田さん、学部時代は神戸で過ごし、臨床検査技師として働くつもりでした。
 しかし、学部3年生の時、製薬会社へ見学に行った際に研究者を見て強く惹かれたそうです。自分で考えて道を切り拓いていく「研究」という仕事に携わりたい―。そう志し、兼ねてから関心のあった「CAR-T細胞療法」の研究を行うために、地元長野県の信州大学大学院へ進学しました。

治験申請に向け、ただいま奮闘中!

 盛田さんが研究に取り組んでいるのは、肉腫に効果が見込めるCAR-T細胞療法です。先述のとおり、CAR-T細胞療法は患者自身の免疫細胞「T細胞」に「CAR遺伝子」を導入してがんと闘う薬を作る療法です。がんの種類によって「CAR遺伝子」が異なるため、専用のCAR-T細胞を開発する必要があります。現在、治療薬としてCAR-T細胞療法が実用化されているのは白血病や悪性リンパ腫といった「血液がん」に限られています。そのため、それ以外の「固形がん」への治療効果が期待できる新たなCAR-T細胞の開発が業界を挙げて取り組まれているところ。そして、盛田さんもこの固形がんを対象としたCAR-T細胞療法の研究に日夜取り組んでいます。具体的に盛田さんが研究を行っているのは、肉腫(骨や脂肪、筋肉、神経などにできる悪性腫瘍)に効果が見込めるCAR-T細胞療法です。肉腫の患者の3~4割は、従来の療法では効果が見込めないため、盛田さんの研究の実用化に期待が掛かります。現在、基礎研究、応用研究を終え、ラボでの実験段階ではその効果が確認されています。臨床試験(治験)での効果を確認する段階に入っており、今年8月に予定している治験の申請に向けて最終調整に奮闘中です。治験スタート後についても「臨床で得られた結果を元に改良を重ね、より良いCAR-T細胞療法にブラッシュアップしたい」と意気込みは十分。また、将来的には、他人のT細胞からCAR-T細胞を培養する現在最も注目を浴びる分野への興味も津々です。CAR-T細胞療法の研究という活躍できる場所を見つけた盛田さんの表情は、まさに“水を得た魚”のように活き活きとしています。

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ご本人から一言

 実は中学生くらいから“遺伝子”に興味があったんです。遺伝子って、目には見えないとても小さなものですが、ものすごく大量の情報を持っていて、それが人間を形作っている―それがとても不思議で。CAR- T細胞療法は、遺伝子治療と免疫療法を組み合わせた治療法ですので、遺伝子に関われる点からも研究に満足しています。もっともっと研究を追求したいですね。

指導教員から
信州大学学術研究院(医学系)
中沢 洋三
教授

 盛田さんは自分の意見をはっきりと伝えます。相手がたとえ指導教授であっても臆することなく異論を唱えます。これは自分で考える力があるためで、研究者として重要な資質です。加えて、彼女のすごい点はきちんとデータを揃えてくることです。だから説得力 がある。
 もうひとつ、学部で検査技師を目指して勉強していた経験も彼女の強みではないでしょうか。決められたことを正確に実施できることは実験をするうえでとても重要です。そして自分で考える力もある。研究者には本来このどちらも必要であり、いわゆる“二刀流”になる必要があるのですが、意外とそうでない人も多い。盛田さんは二刀流の持ち主であり、今後の研究者としての飛躍を大いに期待しています。
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信州大学の大学院は総合大学の強みを活かして学際的な研究科と専攻があるのが特徴。
学部との関係はこの図をご覧ください。

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