第2回 輝いてるね!キラリ大学院生 訪問日誌02信大的人物
目指すは“AIで代替できない”柔軟な法解釈ができる税の専門家
ますます複雑化・多様化する現代社会のなかで、それに合わせて法律の柔軟な解釈がこれまで以上に求められています。「税法」に基づいて、個人や企業の納税をサポートする税理士の仕事もその1つ。今の時代にあった税法の解釈を行うことで、個人や企業がより適正な納税を行えるようになります。総合人文社会科学研究科 総合人文社会科学専攻 法学分野 修士課程2年生の福田拓未さんは、税法を研究して理解を深めることで、柔軟な法解釈ができる税理士を目指しています。税理士でもその仕事の一部がAIに代替されるのではないかと懸念を抱く声も聞かれるなかで、福田さんはAIで代替できない柔軟な法解釈ができる税理士になりたいと、意欲を燃やして研究に取り組んでいます。(文・佐々木 政史)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第145号(2024.5.31発行)より
税法の解釈を通じて時代に適した納税をサポート
私たちの社会が円滑に運営されていくために必要不可欠な法律。実は社会の変化や様々なケースに柔軟に対応できるように“解釈の余地”を残しており、その部分を条文や判例などを通じて解釈する学問が法学です。
この法学の中でも、「法人税法」についての研究に取り組んでいるのが、総合人文社会科学研究科 総合人文社会科学専攻 法学分野 修士課程2年生の福田拓未さんです。
福田さんは将来的に税理士になることを見据えています。税理士は企業や個人をサポートするかたちで、透明な税務行政がなされるよう、公正な立場で国への働きかけを行っています。ただ、昨今、社会がより複雑化し多様化するなかで、従来の税法の解釈では時代に合わない部分も出てきており、時代に合った解釈が一層求められています。
福田さんは法人税法を研究し理解を深めることで将来的に税理士になった際にこうした時代の要請に応えていこうとしており、「今の時代に合った新たな解釈に挑むことで、企業がより適正な納税を行えるようサポートしていきたい」と意気込んでいます。
現行制度を当たり前と思わない意識が芽生える
福田さんが大学院に進学した大きな理由の一つは、実は税理士試験対策でした。税理士試験は5科目あり、この全てに合格する必要があります。「そのために10年間を費やす人もいる」と福田さんが話すほど難関で、働きながら試験を受ける人も多いそうです。一方で、大学院で税法についての修士論文を書いて修了すれば、税理士試験5科目のうち2科目が免除されることになっています。そのため、試験対策として大学院進学という選択肢を採る人もおり、福田さんもその一人でした。
しかし、大学院で研究の日々を過ごすうちに、“それだけではない意義”を見出してきたそうです。それは、「現状の税制度を当然と思わずに疑問を持って考えるクリティカルシンキング(批判的思考)の能力を養うこと」と福田さんは話します。税法を解釈する研究を通じて現行の税制度を当たり前と思わない意識が芽生え、「将来的に税理士として仕事をするうえで、仕事の質をワンランク引き上げてくれる」と感じています。
ここにきてAIの能力が高度化してきたことで、税理士の仕事も機械的にできることはAIに代替されてしまうのではないかという懸念の声もあります。しかし、現行の税制度について、時代の変化や社会の様々な状況に合わせて批判的に捉え直すことで、「AIにはできない、より適切な企業の納税サポートが可能になる」と福田さんは考えています。
大学院修了後、将来的に税理士試験を突破した福田さんが、いったいどのような税理士になるのか―。今から楽しみです。