第2回 輝いてるね!キラリ大学院生 訪問日誌08信大的人物
究極の着心地でもっと幸せに…、 “蒸れ感”を評価する難題に挑む!
夏場やスポーツ時に感じる衣服の不快な“蒸れ感”や“濡れ感”―。その解消を目指し、多くの研究者が計測評価に取り組んでいる難問です。そのなかで、総合理工学研究科 繊維学専攻 先進繊維・感性工学分野 修士課程2年生の諸岡駿さんは、この研究課題に挑んでいます。究極の着心地を実現することで、人をもっと幸せにしたい―、その熱い想いを胸に研究に情熱を注いでいます。 (文・佐々木 政史)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第145号(2024.5.31発行)より
多くの研究者が挑んでいる注目の研究分野
信州大学ならではの研究領域として「感性工学」があります。対話により相互理解をもたらす人間の感性という能力を、科学的手法で分析・評価し、さらに活用することによって、人の幸せにつながる付加価値の高いモノづくりを研究する学問です。よく人間工学と比較されますが、人間工学が「疲れない」「仕事をしやすい」といったフィジカルな観点から幸福を追求するのに対し、感性工学は「フィジカルな観点に加え、色や形、素材などへの心地よさ」といったメンタルな観点での幸福の追求に重点を置いている点が特徴と言えます。
こうした感性工学の観点から、衣服の理想の着心地の研究に取り組んでいるのが、総合理工学研究科 繊維学専攻 先進繊維・感性工学分野 修士課程2年生の諸岡駿さんです。
衣服の着心地を左右する重要な要素として、汗をかいた時の不快感があります。この不快感を解消し快適性を高めることで、日々の暮らしの快適性を高めるだけでなく、仕事やスポーツのパフォーマンス向上などにつながることが期待できます。最近は夏日、真夏日、猛暑日といった汗ばむ日が増えているだけに、発汗時の不快感解消への重要性はますます高まっていると言えそうです。
皮膚表面の汗が衣服に吸収されて生じる温度変化や、発汗で皮膚と衣服の接触感の変化から“濡れ感”や“蒸れ感”が、発汗時の不快感の大きな要因として指摘されています。そのため、諸岡さんは快適な衣服の開発に繋げるため、この計測評価に取り組んでいます。
特徴的なのは、実際に人が衣服を着た状態での計測評価に挑戦している点です。従来の衣服の着心地評価の多くは、生地の引張特性やせん断性、熱伝導率、透湿性、吸水性といった衣服材料の物理的な特性を、着衣せずに測定するものでした。しかし、それだけでは、蒸れ感や濡れ感といった“人の感性に関わること”まで測定することは難しい―。そう考え、諸岡さんは着衣状態で衣服の蒸れ感や濡れ感の計測ができる方法の開発に挑んでいます。これは、これまで国内外の多くの研究者が取り組んでいる課題です。有効な方法がなかなか構築できない非常に困難な研究だそうですが、諸岡さんにはあるアイディアがあり、このアイディアで計測評価できることを検証する研究をすすめています。
「この計測方法が確立されれば、蒸れ感や濡れ感の評価方法の構築に近づく」と熱意を燃やしています。
デザインだけでない衣服 その魅力に気付く
「ファッションとしての衣服が大好き」という諸岡さん。もともとは主にそのような関心から繊維学部に入学しましたが、やがてファッション面だけでなく、“人との関わりの中での衣服”という点に興味を持つようになったそうです。
「衣服は人が着てはじめて完成するものですが、その“人”について実はあまり知らないと気付いたんです」と話します。それで、上條研究室の門を叩き、着心地の研究を通じて人と服の両方を探求できる現在の研究に至ったそうです。
衣服の着心地を探求する諸岡さんの研究は、高い注目を浴びています。2023年度日本繊維製品消費科学会に加え、2023年の第25回日本感性工学会大会で優秀発表賞を受賞しています。また、なんと7社の企業から給付型の奨学金をもらっているそうですが、これも研究の社会的な意義を評価してのことだと言えそうです。現在、修士課程2年生の諸岡さんは、来年から博士課程に進みたいと考えています。社会的にも注目度が高い諸岡さんの研究の今後が楽しみです。