より高機能の医療用シルク縫合糸を!~完全水系湿式紡糸でのモノフィラメントの開発~産学官金融連携
信州大学×信州TLO特許紹介映像シリーズVol.13

信州大学の研究シーズを技術移転する信州TLOとのコラボで制作した、特許技術「見える化」映像シリーズの第13弾。
手術に使うシルクのマルチフィラメントは抜糸や菌増殖の課題も
シルクの主成分である「シルクフィブロイン」は人体との親和性が高く、長年高級アパレル材料として使用されてきました。また、今回ご紹介する医療分野では外科用縫合糸として使われています。外科用縫合糸の形状は、細いフィラメント糸を撚った「撚糸(ねんし)」をさらに編み込んだ「マルチフィラメント」で、高い強度があるため医療分野で長年重宝されています。
ただし、マルチフィラメントは分解が非常に遅いため、施術後には抜糸が必要になります。また、糸表面の凸凹部分で菌が増殖しやすいとも言われています。
もし、適した強度を保ちながら表面が平滑で、分解性に優れるシルクの「モノフィラメント」(一本糸)を作ることができれば―。今回ご紹介する特許は、従来の課題を解決し、これまでになかったシルクのモノフィラメントを作る画期的な技術になります。
ゲル化の課題を乗り越えシルクのモノフィラメントをついに実現
紡糸の方式は様々ありますが、シルクで可能な方式は限られます。具体的には、水溶液を用いる「完全水系湿式紡糸方式」と、水溶液を用いない「乾式紡糸方式」があります(図1)。前者はシルクをつくるための溶剤として有機溶媒や酸・アルカリを使わないことから環境にも優しいというメリットがありますが、ゲル化してしまうことから、モノフィラメントの開発は実現できていませんでした。今回、橋本准教授は独自の工夫を施して「完全水系湿式紡糸方式」でのモノフィラメントを作ることに成功しました。図2は従来の縫合糸と、今回の特許で作製するモノフィラメントの構造の違いです。シルク縫合糸はモノフィラメントが撚られた状態でできており、分子鎖も整然と並んでいます。
今回の特許は、分子鎖が不規則になっているシルクの水溶液に一定のカチオン化多糖を混ぜることで、分子鎖の配列を変化させ、モノフィラメントを製造するというものです。図3は、そのメカニズムを概念図にしたものです。この一番左の図のように、添加材として用いたカチオン化多糖がシルクフィブロインより少ない状態では、シルクフィブロインの分子間相互作用が下がり、両高分子がより混ざり合うためと考えられます。
「これまでゲルになっていましたが、今回私たちの開発した方法により、1本の糸を作ることができました。この糸は人の毛髪より少し細いくらいの直径で、縫合糸ですと6-0程度の規格です。曲げることもできますが、強度は改善の余地があり、さらに改良を進めてより良い糸を作りたいと考えています」と橋本准教授は話します。
新しい医療用シルク縫合糸、さらにアイデア次第で活用方法が広がる
この特許で製造されたシルクモノフィラメントの大きな特徴は、「分解性に優れること」「菌の感染場を提供しないこと」です。この特徴を利用し、抜糸が必要ない新しい医療用縫合糸の開発が期待されます。
また、他にも応用展開できそうです。例えば、自然界に放棄されたとしても分解する釣り糸、一度しか着ないイベント用の使い捨て衣類やウェディングドレス。さらに、分解を前提とした一時展示用のアート素材などにも活用できるかもしれません。メディカル業界に限らず、アイデア次第で新しい製品化が期待できそうです。
【特許情報】
本技術に関する知的財産権
発明の名称:生分解吸収性形成体の製造方法
および生分解吸収性形成体
特許番号:特願2025-053818
出願人:信州大学
発明者:橋本朋子、玉田靖、清田朗子

