林業の未来は 「長野モデル」から産学官金融連携

林業の未来は 「長野モデル」から

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フィンランドの研究者と共に行った世界最先端のレーザセンシング機器による森林計測。信州大学構内演習林にて。左から2番目が加藤教授

 信州大学や北信州森林組合、アジア航測株式会社などで構成された「レーザによるスマート精密林業コンソーシアム」は、平成30年2月27日(火)、林業先進国フィンランドと合同で、「レーザセンシングによるICTスマート精密林業in東京」を開催しました。
 今回のシンポジウムは、信州大学が学術協定を結ぶフィンランドの研究機関との共同研究の成果やコンソーシアムの取り組みを広く伝えることを目指したもの。農林水産省、林野庁、フィンランド大使館、長野県などからも後援をいただき開催が実現しました。当日はフィンランド最先端レーザ研究所長で、信州大学の特別招へい教授でもあるユハ・ヒッパ教授をはじめ、先進的な研究を進める北欧の林業研究者の方々にもご登壇いただき、日本林業の成長産業化について話し合いました。ここでは、主要な話題になった、信州大学が中心に開発を進めている次世代型林業モデル=「長野モデル」に関する研究成果について主にご紹介します。

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第111号(2018.5.31発行)より

信州大学学術研究院(農学系)教授
加藤 正人
1996年北海道大学農学研究科博士課程(農学)修了。北海道立林業試験場資源解析科長などを経て、2005年より現職。研究分野は森林計測・計画学。

日本を代表するICTスマート精密林業に!

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「長野モデル」イメージ。木材の生産から流通までをレーザセンシングやIoTでつないでいく

 ICTを利用したスマート精密林業が、世界的に注目されています。すでに林業大国のフィンランドを初めとした北欧諸国では、レーザセンシング機器を搭載した航空機やドローン、GIS(※1)による森林管理、IoT機能付き高性能ハーベスタや蓄積された森林情報が閲覧できるクラウドサービスなどが普及しており、さまざまな計測機器から取得した膨大なデータの公開・活用方法も確立しています。しかし日本の林業界においては、レーザセンシングやICTの活用はまだまだ進んでいません。そうした中、信州大学が中心となって開発を進めている次世代型の新たな林業モデルが「長野モデル」です。ドローンや航空機などを使ったレーザセンシング技術やICT機器などから得た詳細なデータを用いて、日本の林業特性に適したより効率的で正確な木材サプライチェーンを築くことを目指しています。
 中心となって研究を進めている加藤正人学術研究院(農学系)教授は、平成26年からレーザセンシング技術に関して、フィンランドの研究所との共同研究および技術交流を重ねてきました。平成28年度からは、信州大学、北信州森林組合、アジア航測株式会社などと「レーザによるスマート精密林業コンソーシアム」を作り、より実用化に近いシステム開発を進めています。その成果は民有林の北信州森林組合と国有林の中信森林管理署で実践・実証し、国内初のスマート精密林業「長野モデル」といわれ、日本林業の成長産業化に向けたベスト・プラクティスとして、国内外から高い評価を受けています。塩尻市で実施した実証実験事例を用い、「長野モデル」のフローと参画機関の取組みを右図に示します。

※1)GIS:Geographic Information System. 地理情報システム

これが「長野モデル」塩尻市事例!

1 ドローンレーザによる森林資源の精密計測

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まず、レーザセンシング機器を搭載したドローンで調査対象地を計測。収穫前の森林の画像やレーザによる精密計測を実施します。

2 ドローンレーザ計測のデータで「樹冠解析図」を作成

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ドローンレーザで得られたデータを用い「樹冠解析図」を作成。拡大した解析図を見ると、単木ごと詳細な枝ぶりまで把握できていることが分かります。ドローンレーザは表層の様子を単木レベルで解析するには適しているということが、ここで理解できます。

3 データから、精密な樹冠の抽出と樹高の算出

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作成した「樹冠解析図」から林道や下層植生の情報を除去し、精密な樹冠(樹木の上部で葉が茂っている部分)を単木ごとに自動抽出(特願2016-227207)。詳細な樹木本数を算定します。こうした樹木本数のカウントは森林管理における基本情報。次に、レーザセンシングによって計測されたデータから樹冠内で最も高い所を樹頂点として、高精度な樹高も自動抽出します。

4 得られた情報から「森林資源量」を算出

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得られたデータから、樹幹直径、樹冠面積を自動算定。統計解析から胸高直径(DBH)を推定し、DBH、樹高、樹種から計算式を用いて、1本ごとの材積を算出。こうした単木ごとのデータを、解析結果を現場で使いやすいExcelで出力します。

5 計測結果の精度査定のため、現地での森林調査

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実証実験ではドローンレーザの精度査定のため現地での森林調査も併せて実施。実際の森林の立木位置と本数を目視で確認し、ドローンレーザによる検出率を算出しました。結果、現地調査=70本、ドローン検出立木=57本で、ドローンレーザによる検出率は81%。ドローンレーザは、下層木こそ抽出できていませんでしたが、上層木と中層木、孤立木は全て検出できていました。また、樹高に関してはドローンレーザでの計測の方が優れていることも分かっています。これまで膨大な労力をかけ人力で行っていた森林調査を、ドローンレーザでも行える可能性が示唆された結果です。

6 森林の状況が可視化。3Dモデルの作成も

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伐採後と伐採前の違いがはっきりと分かる3Dモデルを作成することもできます。写真だけでなく、詳細なデータに基づいた3Dモデルを作成することで、より収穫前後の変化を可視化することができます。

平成29年度は「長野モデル」を現場で実践!

レーザセンシングとIoTが林業現場で力を発揮

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 平成29年度は、参画機関が個別取組みを体系化してスマート精密林業のイメージを具体化し、現地検討会で開発技術を公開しました。林業現場での実用化に向け、ドローンレーザによって得られたデータを用いて間伐計画を策定し、それに基づき実際に間伐作業を行うという実証調査を行いました(調査地:北信州森林組合管轄の中野市牛首カラマツ人工林)。
 調査内容は次の通り。まずドローンレーザによって森林を計測し、精密な樹冠画像を作成します。そこから間伐基準(※2)に基づいた間伐木を選定し間伐計画を立てます。伐採に用いたのはIoT機能付きハーベスタ。北欧などでは既に普及しており、IoT機能とモニターが付属しているため、事務所から計画に基づいた伐採木の情報を送ったり、オペレータが作業指示を出したりすることもできます。
 この実証調査によって、ドローンレーザによる間伐木の選定でも問題なく間伐を実施できることが確認されました。今後より計測精度を上げ、平成30年度での実用化を目指しています。

※2)間伐はおおむね5年後に樹冠疎密度が10分の8以上に回復することが見込まれる森林において立木材積の35%以内を伐採することが適正であるとされている

川上から川下まで。 新たな「木材サプライチェーン」 を築くために

 実証調査で用いられたIoTハーベスタは、木材の樹種、寸法、価格などの造材(伐採木を適当な長さに切って木材にすること)情報が収穫中に自動集計され、即座にモニターに映し出されます。クラウドシステムを経由すれば、収穫した木材情報を現場からリアルタイムで配信することもできます。将来的には、作業者間だけでなく、製材工場や木材センターなどとも情報を共有し、需要と供給のコミュニケーションを生み、新たな木材サプライチェーンを築くことを目標としています。
 その際に必要になるのが、情報の閲覧、検索、出力などができる窓口となるようなシステム。コンソーシアムの一員でもあるアジア航測株式会社が開発しているシステムが、「ALANDIS NEOFOREST」です。ALANDISは、レーザセンシングやGISによって得られた森林情報の閲覧や施業履歴の管理などが行えるシステムで、実証実験でも実務の際に用いられました。タブレット端末で連携し、現場での作業支援を行うほか、さまざまな森林情報の閲覧、分析、評価が行えます。
 今後、こうしたシステムやICT機器との連携開発、森林情報のデータベース化を進めることで、林業における川上(生産)、川中(製材)、川下(建築など)までを網羅した「長野モデル」の確立が目指されます。加藤教授は、「林業を日本の成長産業にしていくために、このコンソーシアムをより骨太なものにしていきたい」と目標を語りました。

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