あれから1年、果皮蜜は、実におシャレに進化中。産学官金融連携

あれから1年、果皮蜜は、実におシャレに進化中。

あれから1年、果皮蜜は、実におシャレに進化中。

 昨年、第9回「大学は美味しい!!」フェアで取材した信州大学と"あの"電通による「果皮蜜(かひみつ)プロジェクト」は、国立大学と大手広告会社がタッグを組んだ、新スタイルの共同研究として話題になりました。
 あれから1年...今年も10回目となる「大学は美味しい!!」フェアが開催され、「果皮蜜」は実におシャレに進化していました。新宿髙島屋の現場からレポートします。

聞き手・文:谷口博幸(二十二世紀堂)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第106号(2017.7.28発行)より

(※1)「果皮蜜(かひみつ)」豊富なポリフェノールを含みながらも捨てられてしまうリンゴの皮から生まれた高付加価値製品。信州大学が製法特許、電通が商標を取得する。続々と新しい商品開発が進められている

進化① 果皮蜜×鴨肉 名店シェフが使いたい食材

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大島シェフの考案した「合鴨とリンゴと塩麹マリネの人参サラダ」。
会場にイートインとして設営された日本酒バーでも大好評だったそうです。
(期間限定での提供。現在のメニューにはありません。)

 新宿髙島屋で開催された第10回「大学は美味しい!!」フェアに出展された果皮蜜。昨年に続いて、ひときわ注目を集めていました。今年は果皮蜜の可能性をアピールするために、同店内でも「いちばん旬なお店」と評判の発酵デリカテッセンカフェテリア『Kouji&ko(コウジアンドコー)』さんにより、果皮蜜を使った新メニューが開発されました。

 「合鴨とリンゴと塩麹マリネの人参サラダ」。名前の通り、果皮蜜がたっぷりかかった鴨肉が主役の前菜です。「デザートでも使えるけど、果皮蜜の魅力は甘さだけじゃないので、鴨肉と合わせました」。そう語るのはシェフの大島今日さん。「本来、生のりんごは変色が早いので、使いにくい食材です。果皮蜜は変色の心配が無いのが良いですね。りんごと相性の良い鴨肉に清涼感を与えてくれました。また麴と味もマッチしやすいです。なにより果皮蜜は、料理に使いやすい食材。使い方のアイディアは尽きません。第二、第三のメニューも考案中です」と意欲満々。

 「酸味の後に、爽やかな甘さがあります。りんご本来の蜜の味を楽しめる食材ですね。サラダや肉料理に少しかけるだけで、手軽に味のアクセントを生み出せます。プロでなくても使いやすいと思います」と太鼓判が押された果皮蜜。「塩麴の登場によって、料理の幅は広がりました。果皮蜜がさらに料理の幅を広げることは間違いありません」。今後の展開に期待が膨らみます。

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Kouji&ko(コウジアンドコー)
大島今日シェフ



「小さな皿の中で、無限の世界観を表現する料理人にとって、果皮蜜は使い甲斐のある食材です。赤は食欲をそそるし、ハイボールなどの炭酸飲料にも合うのでありがたいですね」

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高島屋 新宿店
藤井幹之主任



「髙島屋として、地域に密着し、発展に貢献していきたいと考えています。果皮蜜プロジェクトの展開と弊社のビジョンが重なっている部分が大きいので楽しみにしています」

進化② 果皮蜜×ポップコーン 美味しく彩る大人のお菓子

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大泉工場プロデュースの「果皮蜜プレミアムポップコーン」
甘酸っぱいりんごの風味そのままの味わいが楽しめる。

 軌道に乗りはじめた果皮蜜の商品化。現在、新たなフェーズとして、果皮蜜を使ったプロダクト「完全商品」の開発も進められています。その一つが、ポップコーン。フレーバーとなる原料は、一度、高温でアメ状に溶かされます。たいていは、その工程で味がぼやけたり、素材が焦げてしまって雑味が混じったりしてしまうそうです。

 「果皮蜜には焦げによる雑味が全くありません。ポップコーンにしたときにここまで味の再現度が高いものは珍しいので、スタッフもみんな驚いています。相性は抜群ですね」。

 お話を伺ったのは株式会社 大泉工場商事部の来海なぎさん。「着色料を使わずに、これだけの発色が出せる食材は他に無いんです」。話は熱っぽく続きます。

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(株)大泉工場 商事部
来海なぎさん



「果皮蜜フレーバーのポップコーンには、ただのおやつにとどまらないスタイリッシュな魅力と物語が詰まっています。新しい風を、ファンフード市場に吹かせてくれると確信しています」

 長年ファンフード事業にかかわってきた来海さんは、飽和状態になっているファンフード市場に一石を投じる存在としての果皮蜜に期待されています。「ポップコーンも珍しいフレーバーだけでは売れにくくなってきています。果皮蜜の良さは、色や味だけではありません。おしゃれなイメージがあるので、従来のポップコーンとは違った客層、異なったシーンにリーチできると感じています」。声を弾ませて語る来海さんの笑顔からは、子供や家族連れだけでなく、大人の女性に合せた商品開発への意欲が伝わってきました。

進化③ 果皮蜜×地産地消 果皮蜜がつなぐ地域と地域

 「信州大学には農学部もあるのに、工学部の教授が開発したというストーリーは面白い」。ルーツから開発後の取り組みまで異彩を放つこの商品は、2年前、電通ビジネス・クリエイション・センターのエグゼクティブ・ディレクター金井毅さんによって、日の目を見ました。以来、信州大学が製法特許出願、電通が商標取得と、手を取りながら着実に事業を展開してきた果皮蜜プロジェクト。捨てられてしまう果皮を、高付加価値食品素材としてよみがえらせる。この取り組みを、きちんとビジネスの形に作り上げてきた金井さん。

 プロジェクト立ち上げから二年。育ての親としての愛情だけでない、ビジネスのプロとしての視点でも、果皮蜜を磨き続けています。「髙島屋さんやKouji&koさん、大泉工場さんなど、新たな協力者を得られて、果皮蜜のビジネス展開も見えてきました。現在、大手メーカーや海外のバイヤーからも引き合いが来ています。課題は生産量の向上と安定ですね。これまでは長野県産のりんごにこだわってきましたが、大きなスケールで考える段階に入ったと感じています。大量生産を実現するため、他県産のりんごも使って試作もしています。素材を他県から安定して仕入れるためには、現地の農家さんとの信頼関係が欠かせません。りんご以外の名産の果実を使ったご当地果皮蜜なんかも面白いかもしれませんね」。

 来年は、更なる進化をご報告できそうです。

進化④ 果皮蜜×夢 心が伝わる、つながる喜び

 「果皮蜜」の生みの親・信州大学工学部の松澤恒友特任教授には、果皮蜜の課題について伺いました。「果皮蜜をりんごジュースの残渣からも生産する技術が確立されつつあります。これでコストをおさえられますし、供給量の増産が見込めます。皮だけを使った高級ラインと、ジュースの残渣を使用したリーズナブルな商品に分けることも出来ますね。実は、りんご以外の果実でも果皮蜜を作ることに成功しています。

 高知県産ゆずの果皮蜜は酸っぱそうなイメージがありますが、甘味を加えずに糖度60度をマークしています。軟骨生成促進作用のあるガラクツロン酸が多く含まれています。新潟県産洋ナシの果皮蜜も開発中です。皮のあるものなら何でも作れますから、シリーズ化の構想もふくらみます。それぞれの生産者さんが心を込めて育てた果実を、無駄なく美味しく召し上がっていただけることの喜びが広がっています。生産者にとっては夢のような話ですよ」。

 「果皮蜜を通じて、新たなつながりが生まれる」。目を輝かせながら語る松澤教授。果皮蜜に秘められた使命の深さを垣間見る思いでした。一歩ずつ成長を遂げ、新たな仲間と時を得て、一足飛びの進化を遂げる果皮蜜。今後の展開に、ご期待ください。

仕掛け人はこの2人!

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信州大学・松澤恒友特任教授(右)
& 電通ビジネス・クリエイション・センター・金井毅氏(左)

「大手メーカーからの引き合いに応えるには、安定した生産量を維持する仕組みが必要。これをクリアすればビジネスとして成立する可能性がグンと上がる」

司会・コーディネーター

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藤島淳さん
(信州大学広報スタッフ会議外部アドバイザー)


電通クリエーティブディレクター、上海電通赴任等を経て、2014年に電通退社。
ブランディングを主たる業務とする、ブランドア株式会社設立、代表取締役。 上智大学講師(メディア・広告論)。

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