新しい地方創生スキーム創出への挑戦!産学官金融連携

新しい地方創生スキーム創出への挑戦!

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「信州100年企業創出プログラム」キックオフ&強化合宿

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 通称「信州100年企業創出プログラム」は、大学がハブとなり、地域企業を舞台としたリカレント教育を提供する、新しいスキームの地方創生事業。首都圏の高度な専門性を持った人材に実践型リカレント教育の場と信州大学のリサーチ・フェロー(客員研究員)としての立場を提供、その人材がマッチングした長野県内企業において、持続的発展に必要な課題の研究と事業を展開するという画期的な仕組みです。平成30年11月17日、本プログラムはリサーチ・フェロー全員と、受け入れ企業も多数参加して、報道関係者向けキックオフイベントと強化合宿を実施しました。
 本プログラムへ込めた意気込みや信州の未来について語った、関係者によるパネルディスカッションの様子を中心にご紹介します。
(文・柳澤 愛由)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第115号(2019.1.31発行)より

国内初!大学がハブとなる地方創生の革新的スキーム

 「信州100年企業創出プログラム」は、首都圏で高度な専門性を持って活躍する人材に地方での新しいキャリア(ワーク・ライフ)を実現してもらいながら、長野県の次の100年を担う企業の創出を目指すという新しい地方創生事業です。大学がハブとなり活動をサポートするという点でも、他に類を見ない挑戦的な取り組みです。105名という多数の応募者の中から審査を通過し、今回採用されたリサーチ・フェローは9名。1社につき1~2名、各々マッチングが成立した8社の受け入れ企業のもと、すでに活動を始めています。
 100名を超える応募があったことからもうかがい知れるように、地方での新しいキャリア形成に関心を寄せる首都圏人材は少なくありません。しかし、その多くが将来への不安や結びつきの無さから「地方で働く」という選択肢を選びづらいという現実があります。
 「大学が間に入ることによって、地方と首都圏とが結びつく新しい仕掛けを作ることができた事業でもあると考えています。リサーチ・フェローの皆さんにはこのプログラムのリカレント教育を、いわゆる学び直しではなくアップグレードの場、自分の能力をさらに磨き上げるチャンスとして位置付けて欲しい」。そう話すのは本事業の旗振り役である信州大学学術研究・産学官連携推進機構(SUIRLO)産学官連携・地域総合戦略推進本部 林靖人本部長です。
 リサーチ・フェローには月額30万円を支給。1週間のうち週3~4日は、受け入れ企業での活動に従事し、週1~2日は信州大学が用意する課題解決研究・人材育成プログラムに参加、教員や外部講師らから必要な知識や知見を学ぶことができます。実施期間は平成30年10月から翌年3月までの6ヶ月間。その間、リサーチ・フェローには受け入れ企業の現在課題の解決と、次の100年に向けた新しいビジョン=「100年未来シナリオ」の策定を目指して頂きます。プログラム終了後は、信州大学の産学官連携推進客員教員への昇格のほか、受け入れ企業への就職やアドバイザー契約、パラレルキャリアといった新しい働き方の実現による地域企業への定着の道を想定しています。本プログラムは信州大学を中心に、(株)日本人材機構、(一社)Lamphi、(特非)SCOPの4団体がコンソーシアムを組んで実施しています。
 次ページからは、キックオフイベントで行われた濱田州博信州大学長や(株)日本人材機構の小城武彦社長らによるパネルディスカッションの様子をご紹介します。

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(左から)主催者あいさつを行う信州大学濱田州博学長、信州大学中村宗一郎理事(研究、産学官・社会連携担当)・副学長、来賓であいさつをいただく中小企業庁 経営支援部長 奈須野太氏、同プログラムを紹介する信州大学産学官連携・地域総合戦略推進本部長 林靖人准教授、客室研究員(リサーチ・フェロー)委嘱状授与式、基調講演:中村胤夫氏(株式会社三越 代表取締役社長・信州倶楽部代表世話人)

事前打ち合わせ一切なしの「信州100年企業」に想いを馳せた、パネルディスカッション
企業が「長く続く」ために必要なこととは?

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中嶋聞多特任教授(以下職名略):パネルディスカッションのコーディネーターを務めます中嶋です。濱田学長より「落としどころを決めてのディスカッションは面白くない」とのご意見を頂きましたので、決まったシナリオは設けず実施いたします(笑)。また必要以上に肩書きを意識しないよう、登壇者の皆さんは、「さん付け」で呼び合うことといたします。
 さて、このプログラムは「100年企業」がテーマですが、本日ゲストには、長野県塩尻市のご出身で、日本を代表する老舗企業である(株)三越の元代表取締役社長で、会長、特別顧問も歴任されている中村胤夫さんにお越し頂きました。中村さんのお話(※キックオフイベント前半では中村さんの基調講演を行いました)をお聞きになって、ポイントとなるところがどこだったか、小城さん、まとめて頂けますでしょうか。
小城武彦社長(以下敬称略):企業とは何か、経営の目的とは何なのか、しっかり軸を持っている会社が長く生き残る、環境にも適応していけるんだと感じました。リサーチ・フェローの皆さんもその企業の存在意義だったり、経営の目的であったり、その辺りをまずしっかりと確認し、磨き上げていくプロセスが大切なのではないかなと思います。
中嶋:濱田さんは信州大学の学長に就任される以前は、繊維学部の教授・学部長を歴任されています。かつて斜陽産業といわれた繊維産業が、今はあらゆるところから注目されていますが、近年の繊維産業の動向から100年企業に対する示唆を頂きたいのですが。
濱田学長(以下職名略):繊維というと、我々の年代は特に斜陽産業というイメージが強いのではないかと思います。しかし、近年、産業用材料としての応用やスマートテキスタイルといった高性能繊維の誕生によって「繊維研究」は各分野から大きな注目を集めるようになりました。でも「長く続けていればいつか復活する時がくる」ということが言いたいのではなくて、産業が長く続くためには「変わらぬもの」と「変わっていくもの」をうまく見極めることが大切なのではないかと思うのです。
 繊維の基盤技術は、実は昔からあまり変わっていません。しかしその応用範囲は大きく変化しています。それが繊維産業の大きな転換点でした。変わらぬ技術を維持しながら、そこに新しく何を付加していくか、社会の変化の中で何をしていくか、その見極めができたかどうかが、長く続く産業と続かない産業との違いではないかと思います。

地方は「課題先進地」その未来を拓くプログラム

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中嶋:これまでのお話を受けて、プログラムに込めた思いについて、小城さん、言及して頂けますか。
小城:実は、このプログラムを作る際の一番のポイントは、「作っている私たち自身が行きたくなるようなプログラムにする」ことだったんです。今私はリサーチ・フェローの皆さんが羨ましい、できれば替わりたい(笑)。
 地方は日本の「課題先進地」だと言われています。でも、地方にいれば東京の情報なんていくらでも入ってくるけど、東京にいると地方の情報はほとんど入ってこない。地方にはこんなにいい会社がいっぱいあるのに、なぜ東京の人間は誰も知らないのだ!って、思わず怒りたくなることもあります。情報発信では、地方は開拓の余地がまだまだある。ぜひリサーチ・フェローの皆さんは、信州にこの企業ありと、東京だけでなくグローバルに発信するくらいの勢いで取り組んで頂きたい。
 今回、短い期間にリサーチ・フェロー希望者は100名を超える応募があり、大きな反響も頂きました。信州大学での取り組みが成功すれば、これがモデルケースとなって各地に広がっていくと思います。そうした意味でも次代を切り拓くプログラムになるのではないかと大変期待しています。
濱田:大学は、根本的に人材を“ミキシング”する場だと思っています。例えば信州大学の場合、約75%が県外出身者ですが、全国から集まり、信州に残る人もいれば、ここから世界に羽ばたく人材もいる。信州大学はいろいろな人材を“ミキシング”し、交流の場となることも大切な役割のひとつだと考えていますので、このプログラムはそうした意味でも画期的なものと思っています。
中村胤夫さん(以下敬称略):私も長野県には本当にいい企業がたくさんあると思っています。リサーチ・フェローの皆さんには、ぜひ、信州の企業をもっと世に出していって欲しいですね。
中嶋:その通りですよね。実は、今回の受け入れ企業8社の中にも、すでに創業100年を迎えるような企業、「100年企業」があるんです。そのため「100年企業創出」という名称には“これから”の100年、200年を作っていくのに、何が肝要なのかを考えて欲しいという思いを込めています。

東京という看板を捨て、地方の現場で一から始める

中嶋:リサーチ・フェローの方々が活動することにあたり、留意して欲しいことがあれば、教えてください。
小城:リサーチ・フェローの皆さんには、東京という看板を一回捨てて、現場に没入するところから始めて欲しいですね。過ごした環境が違えばコミュニケーションギャップは必ず生まれます。でもその環境に入ったからには、いかに同じ目線、同じ気持ちで話せるかが大切です。
 しかし外から入るからには、やはり変革を起こして欲しい。このままでは地方の人材不足は解消されない。従来の延長線上に解が無いのならば、これまでとは違った視点が必要になります。それがリサーチ・フェローの皆さんの役割です。自分自身に何ができるのか、見つめ直すいい機会でもあります。しかもこのプログラムには信州大学というサポーターがいます。こんなに心強いことはない。かつ9人も同じ境遇の仲間がいる。孤独ではありません。本当に恵まれた環境だと思いますので、ぜひ皆さんには頑張って欲しいと思います!
中嶋:受け入れ企業に心がけて欲しいことはありますか?
中村:「先生が来て教えてもらえるんだ」という関係ではいけないと感じますね。壁を作らず、自由に発言できるムードを作って頂くことが大事なのではないかと思います。
小城:外部から入った人が変革を起こそうとすると必ず摩擦が起こります。トップの方には、現場の人たちにどういう思いで外部の人を入れるのか、しっかりとした説明をして欲しい。そしてリサーチ・フェローはお客さまではありませんから、しっかりその能力を活用してもらいたいですね。
濱田:トップの皆さんの考えは重要ですね。ぜひ、彼らが充分に活躍できる場を作って頂きたいと思います。

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【コーディネーター】信州大学 特任教授中嶋 聞多 
慶応義塾大学大学院文学研究科修了。地域活性化のためのまちづくり構想を得意とする。2003年信州大学人文学部教授、2014年事業構想大学院大学研究科長・副学長などを歴任。2016年より現職。

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信州倶楽部代表世話人・(株)三越元代表取締役社長
中村 胤夫 氏
1936年長野県塩尻市生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、三越に入社。2002年に代表取締役社長に就任。相談役や特別顧問を歴任。

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(株)日本人材機構 代表取締役社長
小城 武彦 氏
1984年通商産業省(現経済産業省)入省。(株)ツタヤオンライン代表取締役社長、丸善(株)代表取締役社長などを経て、2015年より(株)ミスミグループ本社社外取締役(現職)、(株)日本人材機構代表取締役社長(現職)などを兼任。

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国立大学法人信州大学 学長
濱田 州博
東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了。信州大学繊維学部助手、助教授を経て2002年より同学部教授。2010年4月から繊維学部長、2012年6月から副学長を兼任。2016年より現職。

matching interview

リサーチ・フェロー(客員研究員)佐竹 宏範さん

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 2011年の震災以来、地方で何か役に立てないかとずっと考えていましたがなかなか一歩踏み出せないでいたところ、このプログラムのことを知りました。将来、大学の客員教員としての道もあるという点は大きかったですね。
 これまでベンチャー企業など3社の新規事業立上げを行ってきました。食品業界(信栄食品受入)は初めての経験ですが、どうやって企業の良さを伸ばしていけるのかを考えながら提案を続けています。今の課題は“工場で働く人たちのチームづくりと管理体制”について。増産に伴い、工場で働く人からは疲弊する声も挙がっていました。増産に対応しながら工場で働く人たちが活き活きと働けるよう、ひとりひとりからヒアリングをしたり、会議に出席して会議の進め方を変えるなど課題の抽出と改善を図っています。
 今は長野と東京の2拠点生活。夢でもあったパラレルキャリアを実現しつつあります。

受入企業(株)信栄食品 代表取締役 神倉 藤男氏

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 当社は冷凍ギョウザを専門に扱う社員40名の食品メーカーです。おかげさまで増産を続けていますが、当社が100年企業となるには、従業員がしっかりと定着し、活き活きと働き続けられることが一番大切だと考えています。そうした体制をもう一度構築し直したいという思いに対して、佐竹さんはまさに私たちが求める経験と知見をお持ちでした。良いマッチングが成立したと感じています。
 まだ数週間ですが、すでに工場で働く社員の雰囲気が変わってきていることを感じます。佐竹さんの人柄もあり、社員の良い兄貴分的存在となって意見を吸い上げてくれています。これをきっかけに、会社がしっかりとした一枚岩になれるのではと感じています。今はさらなる課題のあぶり出しをしているところ。すでに社員からいろいろな意見が出てきているので、私も一喜一憂しているところです(笑)。

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