日本初!霊長類のCAR-T・iPS細胞を用いた安全性評価研究施設産学官金融連携

日本初!霊長類のCAR-T・iPS細胞を用いた安全性評価研究施設

信州大学遺伝子・細胞治療研究センターイナリサーチラボ誕生!

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テープカットの様子(左から)信州大学学術研究院(医学系)教授 中沢洋三、株式会社イナリサーチ代表取締役社長 中川賢司氏、長野県産業労働部長 林宏行氏、京都大学iPS細胞研究所顧問 中畑龍俊氏、株式会社イナリサーチ会長 中川博司氏、信州大学長濱田州博、日本医療研究開発機構創薬戦略部医薬品研究課長 塩川智規氏、自治医科大学免疫遺伝子細胞治療学講座名誉教授 小澤敬也氏、信州大学理事(研究、産学官・社会連携担当)中村宗一郎、信州大学医学部副学部長 花岡正幸

 次世代のがん治療薬として世界的に注目される「CAR-T」細胞。オプジーボと同じ、がん免疫療法のひとつで、急性リンパ性白血病と悪性リンパ腫に対する劇的な効果が証明されています。白血病やリンパ腫の治療が大変革期を迎え、さまざまな種類のがんに対するCAR-T細胞の臨床試験が世界中で進行する中、信州大学は国内での研究開発をリード。このほど「信州大学遺伝子・細胞治療研究開発センター」を開設し、同分野では日本初となる霊長類を用いた安全性評価試験を実施する関連研究施設「イナリサーチラボ」を(株)イナリサーチと共同で設置しました。CAR-TやiPS細胞に関するシーズを学内外から広く集め、早期の創薬を目指して研究を加速させる試み。世界に伍する信州大学の取り組みに期待が集まっています。

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挨拶、祝辞、講演をいただいた方々(左から)信州大学長 濱田州博、株式会社イナリサーチ代表取締役社長 中川賢司氏、京都大学iPS細胞研究所顧問 中畑龍俊氏、日本医療研究開発機構創薬戦略部医薬品研究課長 塩川智規氏、長野県産業労働部長 林宏行氏/基調講演講師 自治医科大学免疫遺伝子細胞治療学講座名誉教授 小澤敬也氏

世界が注目する次世代がん治療薬

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信州大学遺伝子・細胞治療研究開発センター長
信州大学学術研究院(医学系)教授 医学部小児医学教室
中沢 洋三
PROFILE
1996年旭川医科大学卒業、2003年信州大学大学院医学研究科修了、2004年信州大学医学部助手、2007年同助教、2014年同講師、2016年同教授、2019年より現職

 CAR-T細胞は、最も有望な次世代がん治療薬のひとつとして現在世界中で300以上の臨床試験が行われています。免疫機能の中心的な役割を果たす白血球中
のT細胞を改変し、特定のがん細胞に対する攻撃性を加えた上で治療薬として体内に戻す方法で、急性リンパ性白血病と悪性リンパ腫に対する効果は証明済み。日本でも今年3月に「キムリア」が薬事承認され、これまで治療が難しかった難治性がんの患者に、光明をもたらしました。
 ほかにもさまざまながんに対するCAR-T細胞の開発が行われる中、信州大学学術研究院(医学系)中沢洋三教授(医学部小児医学教室)は、従来に比べて安全性が高く製造コストがかからない方法での開発に成功。効果が認められてきた血液がんだけでなく骨肉腫などの固形がんに対する遺伝子改変細胞の研究開発や治験を行い、国内の遺伝子治療や再生医療を牽引しています。
 現在は、成人の生存率が40%といわれる急性骨髄性白血病に対するCAR-T細胞開発を進めており、医師主導治験を計画中です。

早期の創薬へ、サルを用いた安全性試験

 松本キャンパスにこのほど開設した「信州大学遺伝子・細胞治療研究開発センター」は、遺伝子改変細胞の実用化促進を目指す教育研究拠点。遺伝子組み換えに用いる媒体を開発する「ベクター開発部門」のほか「改変細胞開発部門」「非臨床試験部門」「臨床試験部門」の4部門で構成し、サルを用いた非臨床試験で実績のあるイナリサーチ社内に関連研究施設「イナリサーチラボ」設置の運びとなりました。
 「遺伝子改変細胞の創薬においては、バイオベンチャーが次々と治験を行う米国に比べて日本は規制が厳しく、大きく遅れをとっている」とセンター長の中沢教授。ヒトに近い霊長類を用いた安全性試験により、信頼性が高いデータを示すことができれば早期の実用化につながると期待しています。
 イナリサーチ社は既存の試験棟を一部改修してカニクイザル約150頭を飼育する飼育室や検査室などを整備し、10月31日にラボのオープニングセレモニーを実施。11月末にも稼働開始する予定です。これまで大学の研究室で行っていたマウスによる安全性試験に比べ、必要な投与量の設定や副作用について、より具体的なデータを得られるとしています。

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(株式会社イナリサーチ本社全景)
※信州大学遺伝子・細胞治療研究開発センターは実験動物を用いた研究(非臨床試験)が必要となるため、長野県伊那市西箕輪の株式会社イナリサーチ本社内に関連研究施設「イナリサーチラボ」を設置した。

国内の知見集める研究拠点に

 霊長類を用いて遺伝子改変細胞などの実用化に向けた安全性試験を行う研究施設は国内第1号。これまで、国内で実用化を目指す遺伝子改変細胞の安全性試験や品質管理は海外に発注するしかなく、多額の費用や時間がかかることから規模の小さなベンチャーや研究機関が参入することは困難でした。国内で品質評価を実施できる研究基盤が整えば実用化が加速します。
 施設はオープンラボとして、信大だけでなく国内の研究機関や企業が活用することを想定しており、国内のシーズを治験へと橋渡しするアドバイザー的役割も期待。CAR-T細胞のほか、iPS細胞やゲノム編集などさまざまな遺伝子治療製剤、再生医療製品の非臨床試験と品質試験を担い、研究開発の国内拠点として展開することを目指しています。
 これらの取り組みは、2018年度の日本医療研究開発機構(AMED)採択事業で、2022年度までの5年間で、霊長類モデルを用いた安全性評価系に関する一定の基盤整備を行う方針です。

PARTNER INTERVIEW
株式会社イナリサーチ 代表取締役社長 中川 賢司氏

海外の品質管理を受託できるラボに

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 当社は1974年に創業しました。ラットやマウス、モルモットなどを扱って非臨床試験を受託してきましたが、1980年代にバイオ医薬品が登場すると遺伝子や免疫系がよりヒトに近いサルでの薬効や安全性を確認する必要が生じ、業界に先駆けて霊長類の飼育施設を立ち上げました。
 今、世界中で300以上の臨床試験が行われているというCAR-T細胞を、いずれはイナリサーチの事業の柱にしたいと考えています。AMEDの支援をいただいた、霊長類モデルによる安全性評価系の基盤整備に集中し、日本の医療を盛り上げていきたいと思います。
 国外に目を向ければ、さまざまな国でCAR-Tの研究が行われています。周辺国の品質管理や安全性試験を受託できるラボになることが目標です。海外の仕事も含めていろいろな技術のタネがここに集まれば、いずれ大きな研究や成果につながっていく。私自身も信大の出身です。信大がさらに飛躍できるよう、これからの関係を作っていきたいと願っています。

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