信州大学「信州産学共創フェローシップ制度」企業との連携で、高度イノベーション人材を一緒に育てる。産学官金融連携

博士課程の学生を支援する信州大学独自の取り組み

 信州大学「信州産学共創フェローシップ制度」は、本学の優秀かつ意欲のある博士課程の学生を「共創フェロー」として認定し、企業の理解と協力、連携を通じて、経済的支援や研究力強化支援、さらにキャリア形成支援を行うことで、高度イノベーション人材の育成を目指す新制度です。
 この制度は、企業に事業経費の一部をご負担いただく一方で、本学と実施している共同研究に認定した「共創フェロー」が参画することが大きな特徴の1つ。企業にとっては本事業にご協力いただくことで、当該の共同研究に対して、専門的な知識、スキルを有した優秀な博士課程の学生の協力が得られ、研究に一層の深化と進展が期待できます。
 また、希望者にはインターンシップ参加、共創フェローを交えた研究発表会等にも参加いただくことができ、信州大学とのより密度の高い連携で、良好なエンゲージメントが実現できます。
 今回はその「共創フェロー」のひとり、総合医理工学研究科(博士課程)の学生と指導教員に登場いただきこの1年間を振り返り、制度の魅力を語っていただきました。
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第134号(2022.7.29発行)より

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本事業へ参加するメリット

①信州大学と実施する共同研究に、専門的な知識・スキルを有した優秀な博士課程の学生(共創フェロー)の協力が得られます。
②共創フェロー等を交えた研究発表会や意見交換会を通じて、大学の最先端の研究活動を知る機会が得られます。
③今後の社会を牽引する高度イノベーション人材の育成に貢献できます。
④優秀な学生との接点を構築し、人的ネットワークを構築することができます。

目指せ!世界でワン&オンリーのししとうドクターDr!

信州大学博士課程支援制度「信州産学共創フェローシップ制度」ロールモデルインタビュー

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近年、経済面や就職面の課題から博士課程に進学する学生が減少し、大問題に。国を挙げての対策がとられる中、信州大学も独自の支援制度、「信州産学共創フェローシップ制度」を設置、産学連携での制度設計は企業との共同研究の多さを誇る本学ならではのもの。今回は初年度に制度を活用した信州大学大学院総合医理工学研究科博士課程2年の近藤文哉さんと指導教員の松島憲一教授にインタビューさせてもらいました。近藤さんは日本三大七味に数えられる七味とうがらしの製造企業「八幡屋礒五郎」(本社・長野市)の共創フェローとして共同研究に励まれ、発見や気づきの多い実のある1年になったようです。

研究力強化支援の中で七味とうがらしの品質安定化に貢献

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信州大学学術研究院(農学系)教授
松島 憲一

※手にするのは教授昇進記念に八幡屋礒五郎さんから送られた特別仕様缶

 とうがらし研究の第一人者である松島教授に師事し、“ししとうの辛味”に関する研究に取り組む近藤さんが、信州産学共創フェローシップ制度に採用されたのは2021年春のこと。以来、産学連携による研究力強化支援の一環として、八幡屋礒五郎の社員の方々と共同研究を行ってきました。
 八幡屋礒五郎と松島教授が開発した、とうがらしのオリジナル品種を守るための種取りなどのメンテナンス作業や、収穫したとうがらしの品質や収量の評価など、共創フェローとして多様な仕事に携わりました。中でも、近藤さんが力を注いだのが専門のとうがらしではなく、同じく七味とうがらしに欠かせない山椒の研究です。
 山椒の辛味成分の含有量を測る方法が定まっていないことが、喫緊の課題になっていました。そこで近藤さんは、自身のししとうの研究で得ていたノウハウや、すでに山椒畑で蓄積されていた技術をもとに、試行錯誤を重ねて独自の定量方法の開発に成功。商品の品質安定化に貢献する結果を出しました。待ち望まれていた成果だけに、八幡屋礒五郎の皆さんからも「本当にありがとう」と喜ばれたそうです。
 「自分だけで進める研究と違い、共創フェローとしての研究は社員の方々のレスポンスがあり、とても新鮮でした。企業から依頼され、それに応えていくことにやりがいを感じました」と、近藤さんは共同研究の魅力を語ります。

企業文化を感じた瞬間「とうがらし業界全体に役立つことだから…」と。

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信州大学大学院総合医理工学研究科
総合理工学専攻生物・生命科学分野
近藤 文哉さん(博士課程2年)

※手にするのは七味缶スツール

 産学連携を基本とする信州産学共創フェローシップ制度には、企業の理解が欠かせません。近藤さんの受け入れ先である八幡屋礒五郎は、江戸時代創業の七味とうがらしの老舗企業。松島教授とは、約20年来の親交があります。その交流の一端を担うとうがらしの共同開発は、2006年に「長野県産の原料をできるだけ使いたい」という、地域に根ざした八幡屋礒五郎の意向から始まったものです。
 今回、信州産学共創フェローシップ制度への参加をお願いした際には、同社の室賀栄助社長から「とうがらし業界全体にとって役立つことですから、どんどんやってください」と力強い賛同をいただきました。また、近藤さんが共創フェローとして研究した山椒について論文化したいと申し出た時も、権利が独占できなくなるといった躊躇はみじんもなく、快諾が得られたとのこと。自社だけではなく、広く業界全体の未来を見据え、行動する。そんな老舗企業の懐の深さを感じさせるエピソードには事欠きません。
 松島教授の研究室の卒業生も社員として活躍していることから、近藤さんにとっても馴染みやすい環境だったようです。もちろん仕事面では妥協がなく、とくに数字に関わるデータのチェックは厳しく行われました。「納品するデータに間違いがないか、しっかり確認する習慣が身についた」という近藤さん。アルバイトや単なるインターンシップとは違う、共創フェローとして参画したからこそ得られた経験
が数多くあったといいます。

見えてきたキャリアパス ワン&オンリーの「ししとうDr.」を目指す!

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 信州産学共創フェローシップ制度では、経済的支援として、不安なく研究に励めるように授業料が免除されるほか、研究専念支援金と研究費が支給されます。「経済面がいちばんの不安だったので、本当にありがたかった」と、ほっとした表情をのぞかせる近藤さん。
 さらに、メンター教員との面談を通して論文の書き方や進路についてアドバイスを得たり、同じフェロー仲間との交流会で刺激を受けたりするなど、キャリアパス支援も有効に活用したそうです。
 実は、近藤さんは、ししとう研究の論文で園芸学会年間優秀賞を受賞するなど、頭角を現し始めた学界の注目株。目指すは、研究者への一本道です。しかし、優秀な学生ほど研究に没頭しがちになるもの。「信州産学共創フェローシップ制度は、自分の研究以外にも目を向け、視野を広げる良い機会になったはず」と松島教授はいいます。
 近藤さんも「企業の現場で、どのような悩みがあるのかを知ることができて良かった。研究はそういう課題を背景に取り組むべきものなので、研究者を目指すうえで貴重な財産になりました」と話します。
信州産学共創フェローシップ制度の細やかな支援を通して成長した近藤さんが、ししとうドクターとして、さらに飛躍する日が期待されます。

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Column

博士課程の学生が共同研究に参画したこの1年を振り返って…

株式会社 八幡屋礒五郎 製造部 農業部門 
畠山 佳奈実 さん(2018年入社)
信州大学大学院総合理工学研究科 農学専攻生物資源科学分野修了

 植物遺伝育種学研究室の皆さんとは、長い時間をかけてトウガラシの新品種開発に取り組んできました。2016年に最初の共同開発品種“八幡屋礒五郎M-1(商標:信八)”が登録された後も、七味唐辛子としての処理加工特性や品質などに着目した新しい品種の開発を進めています。
 そのような活動の中で昨年は、トウガラシ生産者にオリジナル品種“信八”を栽培してもらい、実際の栽培で感じたことを聞き取り、近藤さんをはじめとした開発担当者の皆さんにフィードバックするという機会を設けました。共同研究する過程で私たちが良いと思って育成してきたことが生産者には響かなかったり、反対に「こういう声が多かったけど、今開発中の品種ならそれをカバーできるよね」と新しい発見にもつながったり、充実したディベートができたと感じています。
 近藤さんはトウガラシに関する知見も広く、育種の方法のアドバイスはもちろんのこと、最新のトウガラシ研究事情についても教えてくださいました。私たち現場に近いものと、近藤さんのようにトウガラシ研究に明るい方、双方が協力して研究することで、多角的な育種につながることが実感できた1年でした。この経験から、さらによりよいトウガラシ品種の開発に努めたいと思います。

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製造部農業部門のスタッフ。右端が畠山さん。

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広大な八幡屋礒五郎「信八畑」。トウガラシの鮮烈な赤が美しい。

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