信州の伝統食「凍り豆腐」が肥満、 脂肪肝の予防に有効!産学官金融連携
信大の“医農産連携”… 旭松食品との研究成果発表
豆腐を凍結、低温熟成してつくる「凍り豆腐」は、冬場の寒冷地の特性を生かした信州の伝統食であり、長野県の生産量は全国の9割以上を誇ります。この凍り豆腐を食べることで肥満や脂肪肝の予防に効果があることが、信州大学学術研究院(医学系)の田中直樹教授の研究チームと旭松食品(本店・長野県飯田市/本社・大阪市)との共同研究で分かりました。
昔から親しまれている信州の伝統食に対して、信州大学と食品産業が連携し、最新の学術研究で“健康”という観点から光を当てて、その魅力を再発掘する―。そんな取り組みをご紹介します。(文・佐々木 政史)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第143号(2024.1.31発行)より
食・生活習慣病の専門医師と信州伝統食研究者のコラボ
日本でメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)が問題視されて久しいですが、未だに40歳から74歳では、男性の2人に1人、女性の5人に1人が、その該当者あるいは予備軍と推定されています。メタボリックシンドロームは、心臓病や脳卒中、糖尿病、肝癌・肝硬変、腎不全といった重篤な病気のリスクが高まるため、我が国において特に対処が求められることは言うまでもありません。
今回、信州の伝統食である「凍り豆腐」(高野豆腐、凍(し)み豆腐とも言う)を食することが、メタボリックシンドロームにつながる肥満や脂肪肝の予防に効果があることが分かりました。
その研究を行ったのは、食・生活習慣病の専門医師である信州大学学術研究院(医学系)田中直樹教授の研究チームと、飯田市に本店を置く食品メーカー旭松食品株式会社の研究開発本部研究所・石黒貴寛副主任研究員のグループ。2020年から実施している両者の共同研究により、今回の研究成果につながりました。
もともと、旭松食品は凍り豆腐に多く含まれる、消化されにくいタンパク質である「レジスタントプロテイン」が、生活習慣病予防につながることを解明する研究を独自に行っていましたが、さらに生活習慣病からの視点や学術的なエビデンスを得て研究を深めようと、田中教授との共同研究に踏み出しました。
凍り豆腐の難消化性タンパク質がどうも“痩せ”に機能しているようだ…
今回、田中研究室と石黒副主任研究員のグループは、通常食(通常、マウスに与える餌)、高脂肪食、高脂肪食に凍り豆腐を加えたもの、高脂肪食に凍り豆腐から抽出したレジスタントプロテインを加えたものをマウスに4ヵ月間与えました。
高脂肪食を与えた群は、通常食に比べて体重が平均10グラム多くなりました。一方、凍り豆腐やレジスタントプロテインを高脂肪食に加えたところ、通常食に比べて平均6グラムの体重増加にとどまりました。また、マウスの脂肪組織の重量や、肝臓の中性脂肪の量、脂肪細胞の肥大量、脂肪組織の炎症の度合いについても、高脂肪食を食べたマウスに比べて、高脂肪食に凍り豆腐を加えたものと、高脂肪食にレジスタントプロテインを加えたものを食べたマウスの数値は低くなりました。
次に、マウスの腸内環境を調べたところ、凍り豆腐やレジスタントプロテインを加えたマウスでは、「グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)」を作り出す物質が腸のなかで著しく増えていることが分かりました。
GLP-1は小腸から分泌されるホルモンの一種で、血糖を下げたり脂肪を分解する効果があることから、糖尿病の薬として使われています。
また2023年11月から、GLP-1作用を有する(持つ)肥満症治療薬「ウゴービ」が保険適用となりました。
実際、凍り豆腐やレジスタントプロテインは、これらのマウスにおいて、小腸でのGLP-1の産生と血中のGLP-1を増やしました。一方、GLP-1を腸で作り出す物質は、もともと凍り豆腐やレジスタントプロテインには含まれていませんでした。「おそらく凍り豆腐の中のレジスタントプロテインが腸内細菌に作用し、GLP-1を作り出す代謝物を増やしたのではないか」と田中教授は話します。
今後はフレイル予防にもチャレンジ!凍り豆腐で腸活+健康推進!
今回の共同研究の今後の展望について、田中教授は「健康に“美味しい”をプラスしたことにも取り組みたい」と話します。例えば、凍り豆腐をそのまま料理に使うだけでなく、粉末にしてハンバーグにするなど、旭松食品と信州大学で凍り豆腐を活用した食材、そして信州オリジナルのヘルシー弁当や総菜などの中食の開発にも意欲を持っています。
一方、旭松食品の石黒副主任研究員は、「凍り豆腐の健康維持増進効果について、今回の肥満予防以外にも範囲を広げて研究したい」と話します。旭松食品は農学部とともに、凍り豆腐の腸内環境を整え、免疫力を高める効果について、共同研究を行ってきました。田中教授との共同研究により、腸活だけでなくフレイル(筋力や心身の活力が低下し、健康と要介護の間の虚弱な状態)対策にも取り組みたい考えです。そして、信州大学の医学部と農学部、旭松食品が協力し、“医農産連携”を図りながら凍り豆腐の健康増進効果の研究に取り組むことに、田中教授と旭松食品の石黒副主任研究員は強い意欲を持っています。
健康長寿を誇る信州は、農と結びついた独特の伝統的な食文化があります。アカデミアである信州大学医学部や農学部、そして信州の食品産業界が連携することで、信州の食を通した病気の予防や健康寿命の延伸を目指した研究成果が発信され、国内外の多くの皆さんのwell-beingに貢献することが期待されます。今後の展開に目が離せません。