サステナブルな"水素社会"に向けた注目の新技術!「ソーラー水素製造」高効率化を実現する新光触媒・新表面修飾方法の開発産学官金融連携

信州大学の研究シーズを技術移転する信州TLOとのコラボで制作した、特許技術「見える化」映像シリーズの第10弾。

今回ご紹介するのは信州大学学術研究院(工学系)影島洋介准教授、錦織広昌教授が開発した「ソーラー水素製造」に関する新技術です。
太陽光と光触媒で製造する「ソーラー水素」は、化石燃料に頼らずCO₂を排出しない“グリーン水素”として注目を浴びています。しかし、主に生成効率や製造コストの点から、社会での本格的な普及へ課題があるのも事実です。影島准教授、錦織教授が開発した新技術は、こうした課題を解決するものであり、サステナブルな水素社会実現への貢献が期待されています。どういった技術なのか、詳しくご紹介します。(文・佐々木 政史)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第144号(2024.3.29発行)より

グリーン水素製造の課題を解決。低コストかつ高生産性を実現する新技術

 政府が掲げる2050年までのカーボンニュートラル実現に向け、産学官を挙げて取り組みが進められています。その中で、化石燃料に代わる新たなエネルギーのひとつとして注目されているのが水素。枯渇しない元素であることや、利用時にCO₂を排出しないなどの理由から、脱炭素社会実現のための新エネルギーの代表格となっています。

 こうしたことから、サステナブルな水素社会の実現に向け、水素を人工的に製造する研究が進められていますが、環境面への負荷を考えると、化石燃料に頼らず、風力・太陽光などの再生可能エネルギーを活用した、いわゆる「グリーン水素」の製造が重要になります。

 「グリーン水素」の製造方法は、太陽光をエネルギー源としたもの(ソーラー水素)が主流ですが、粉末光触媒を使用する方法がシンプルでコストも抑えられるため、注目されています。太陽光の大部分は可視光~近赤外光が占めていますので、将来的に生産効率を向上させるためには、こうした長波長の光の有効利用が必要になります。しかし、従来の方法では、太陽光のうち紫外線領域から比較的短波長の可視光しか利用できませんでした。こうした中で、影島准教授と錦織教授は、従来の課題を解決する新技術を開発し注目を集めています。

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「グリーン水素」は太陽光をエネルギー源とした製造方法が主流。粉末光触媒を使う方法がシンプルで、コストも抑えられ注目されていたが、太陽光の紫外線領域しか利用できなかったため、生産効率面で課題が残っていた。

太陽光の可視光領域をほぼ全て使える光触媒と表面修飾方法を開発

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粉末光触媒を使う従来との比較図。この特許は、CTGSと呼ばれる新開発の光触媒を使うことで、太陽光の波長をほぼ近赤外線領域まで使い水分解させることができ、さらに「ホスホン基含有シランカップリング剤」を用いた新たな表面処理方法を開発することで、水素生成活性を向上させることができる。

 この新技術では、「CTGS」と呼ばれる新開発の光触媒を採用することで、太陽光の波長をほぼ近赤外線領域まで使用して、水から水素を生成することができます。

 「このCTGSという材料は、結晶構造は同じですが、バンドギャップの異なるスズ体、ゲルマニウム体の2種類の半導体の固溶体とみなすことができます。そのため、広い範囲で組成の異なるCTGSを合成することが可能で、組成に応じて光吸収特性や活性などの特性をチューニングすることができます」と、影島准教授は説明します。また、CTGSは銅、スズ、ゲルマニウムといった比較的安価で無毒な元素からできています。そのため、「将来的に安全かつ高効率な人工光合成系の実現に寄与するのではないか」と影島准教授は期待しています。

 現在、影島准教授らはCTGSの水素生成活性のさらなる向上を目指した材料開発を進めています。

 もうひとつ、影島准教授らは、水素生成活性の向上を実現する新技術も開発し特許を取得しています。

 従来は、光触媒の表面修飾方法は、助触媒などによるものでしたが、「ホスホン基含有シランカップリング剤」を用いた新たな表面処理方法を開発することで、水素生成活性を向上させています。

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信州大学学術研究院(工学系)
先鋭材料研究所
影島 洋介准教授

影島准教授の技術解説の様子。広い範囲で組成の異なるCTGSを合成することができるため、組成に応じて光吸収特性や活性特性をチューニングできるのが特徴、とのこと。

新エネルギーの社会実装や人工光合成の普及にも貢献

 影島准教授らが開発した技術は、グリーン水素製造の高効率化や、実用水準までの価格の低減を実現するものであり、水素社会の実現に大きく寄与する可能性を秘めています。

 それは、グリーン水素の新エネルギーとしての社会実装という点はもちろんですが、それだけにとどまりません。例えば、グリーン水素を活用し、工場や発電所などから排出される二酸化炭素をプラスチック等の原料となる基礎化学品に作り替える「人工光合成」に注目が集まっています。

 影島准教授らの新技術を活用しローコストのグリーン水素を生成できれば、人工光合成の社会への普及を後押ししそうです。

 この他にも、影島准教授らの新技術は、環境浄化のための有機物分解への応用など、様々な用途での活用が考えられるということです。太陽光エネルギーを利用した事業を行う企業、これからこうした事業への展開を考える様々な企業にとって有益な技術と言えそうです。

 従来のグリーン水素製造の課題を解決し、サステナブルな水素社会の実現へ向け、様々な観点からの貢献が期待できる新技術―。影島准教授は「半導体材料の分析技術を持つ企業や、シランカップリング剤などの有機合成の技術を持つ企業との共同研究の用意もできている」と話しており、さらなる技術の発展も含めて、今後ますます注目を集めそうです。

信州大学と大学が持つ特許を管轄する信州TLOとのコラボで制作した、特許技術「見える化」映像シリーズ第10弾の紹介映像もご覧ください。

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