Since2013 世界の豊かな生活環境と地球規模の持続可能性に貢献するアクア・イノベーション拠点、新たな環境世紀へ産学官金融連携

革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)

2013年10月、文部科学省と科学技術振興機構の「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)」の中核拠点として選定された「世界の豊かな生活環境と地球規模の持続可能性に貢献するアクア・イノベーション拠点」。
信州大学が得意とするナノ材料科学を発展させ、「革新的な造水・水循環システム」を社会実装することで水循環社会を実現し、世界中の人々の生活の質、QOL(Quality of Life)向上に貢献することを目ざしてきました。
信州大学を中心に、日立・東レなどの企業や、長野県など産学官が一体となって研究開発に邁進した9年間の壮大なプロジェクトは、この春、一旦区切りとなる節目を迎えます。
この後の誌面で、9年の研究開発、成果と展望を発表した第9回シンポジウムの様子をお伝えします。
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第131号(2022.1.31発行)より

アクア・イノベーション拠点(COI)9年間の研究開発、成果と展望を発表 国際シンポジウム(オンライン)
International Symposium of Shinshu University COI Center

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拠点初の国際シンポジウム。研究連携先のサウジアラビアの大学とオンラインで交流した。

 世界中の人々が、いつでも十分で安全な水を手に入れられる社会へ―。将来のあるべき社会像を実現するために、造水と水循環の革新的なシステム創出と社会実装に取り組む壮大なプロジェクトがついに集大成。信州大学アクア・イノベーション拠点(COI)は、大学の豊かな研究基盤と企業の高度な専門技術を融合させ、地球規模の課題に対して研究開発と実証を重ねてきました。
 9年にわたるプロジェクトでは、ナノカーボン材料を使ったロバスト造水膜の開発とモジュール化、フッ素汚染水の浄水技術開発などが進展。
持続可能な社会の実現と世界中の人々の生活の質(QOL)向上に向けて具体的な道が見えています。
 11月30日にオンラインで開催した第9回シンポジウムでは、これまでの研究成果と未来への展望を発表。世界12カ国から延べ600人が参加し、研究開発のさらなる加速化と技術展開への期待を集めて成功裏に幕を閉じました。


環境世紀へ ―造水・水循環システム創出へ道をつける
アフターコロナ支える水創出と循環の試み

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信州大学長
中村 宗一郎

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文部科学省
産業連携・地域振興課長
井上 睦子

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サウジアラビア王国大使館
文化アタッシェ
アリ・アルアナジ

 第9回シンポジウムでは、国際的な課題に対する革新的な取り組みに関心が集まりました。海水淡水化事業では、サウジアラビアとの連携に新たな可能性が示されました。
 開会に際して中村宗一郎学長は「アフターコロナ社会ではグリーンがキーワードになる。グリーンを支える水を創出する本事業が、ますます注目される」と話しました。文部科学省科学技術・学術政策局産業連携・地域振興課長の井上睦子氏は「コロナ禍で安全な水の重要性を世界中が認識した。この拠点が新たなネットワークとなり、さらに今後の取り組みに進んでいくことを期待している」とあいさつ。その上で、大学がイノベーションの中核となり、その力を社会実装することが求められると話しました。
 サウジアラビア王国大使館文化アタッシェのアリ・アルアナジ氏は「信大の研究技術、企業との協力が進むことを願っている。協働によりグリーンサウジ構想を成功に導きたい」と述べました。

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開会挨拶
庄村 栄治 代読
(阿部 守一 長野県知事)

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来賓挨拶
小宮山 宏
COI STREAM
ガバニング委員長

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参画機関挨拶
中津 英司
㈱日立製作所
執行役常務

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参画機関挨拶
阿部 晃一
東レ㈱
代表取締役副社長

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参画機関挨拶
大西 博之
㈱LIXIL
執行役専務

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SPL挨拶
高橋 弘造
サブプロジェクト リーダー/東レ㈱

プロジェクトの概要

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プロジェクトリーダー/日立製作所 
大西 真人

「海水淡水化」 「ポイントオブユース浄水」 「フッ素汚染対策」

 当拠点では、水循環社会の実現により世界中の人々の生活の質向上に貢献することを目的に、さまざまな研究開発に取り組んできました。無機・有機、ナノカーボンなどのコア技術を製品化し、社会実装することで、多様な水問題解決を目ざしています。
 この3年間は「海水淡水化」「ポイントオブユース浄水」「フッ素汚染対策」に注力して取り組んできました。海水淡水化では、カーボンナノチューブとポリアミド(PA)によるカーボン複合逆浸透(RO)膜の耐ファウリング(汚れにくさ)性能を評価するため、北九州の実証プラントや東レのシンガポール拠点で性能評価を実施し、卓越した耐ファウリング性を確認しました。
 ポイントオブユース浄水では、PAにセルロースナノファイバーを混ぜることで、水道水圧で運転できる超低圧RO膜を開発し、タイ、中国などで現地実証しました。
 東アフリカ地域の地下水に含まれるフッ素の除去や、現地で簡単にフッ素計測できる技術の検討も進んでいます。いずれも多くの国や地域で製品評価を実施し、並行して研究活動を進めています。

研究成果報告

信大発「Green Desalination」
-環境にやさしい海水淡水化を実現する水処理膜-

高性能のナノカーボン膜開発 汚れにくく環境負荷を低減

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研究リーダー/信州大学特別栄誉教授
遠藤 守信

 世界では日量6550万トンの海水が淡水化されて人々の生活を支える一方、プラスチック分解物が紛れ込むなど原水が劣化して水道水等が汚染されています。こうした問題解決に貢献し、日本発のイノベーションを再び水で起こすため、プロジェクトで蓄積した知見を生かす新たな水処理膜の開発に取り組んできました。
 ポリアミド(PA)の中にカーボンナノチューブ(CNT)やセルロースナノファイバー(CNF)といったナノ物質を混ぜて合成し、新たな逆浸透(RO)膜を作りました。これまでに世界で作られた複合型RO膜は、カーボンナノチューブの含有量が0.3%程度なのに対し、私たちの膜の含有量は最大20%。プロジェクトの目標値である、脱塩率99.8%、透水率従来比50%向上という高いハードルを超え、高機能の膜が誕生しました。大型の機械製膜と、それをモジュール化して評価体制を完備するところまで達成したのです。
 この膜は塩素水に強く、膜トラブルの6割を占めるファウリング(汚れ付着)にも高い耐性があります。カーボンナノチューブとポリアミドの間で電荷移動が起こり、膜が弱くポジティブにチャージするため、ファウラント(汚れ)が付着しないのです。海水淡水化施設ではファウリング洗浄のために使用した大量の薬剤が世界で年間数十万トンも海に廃棄されていました。これを10分の1以下に減らすことができます。信大発の「Green Desalination(環境にやさしい海水淡水化)」です。海に廃棄する薬剤の最小化は、閉鎖系の海洋では海洋の環境保全で重要なコンセプトです。
 海水淡水化膜の膜技術を発展させ、工学用超純水と家庭用浄水器用として展開することも考えました。ポリアミドにセルロースナノファイバーを入れると耐ファウリング性が向上し、高い透水性のある膜ができました。水道水圧で動く超低圧駆動のRO膜の開発は世界で初めてのことで、NSFの認証を得て国際的な用途が期待されています。

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キングモンクット工科大学
ウィナッダ・ウォングウィリヤパン

 遠藤研究リーダーの発表に続き、家庭用浄水器の実証実験を遠藤チームと共同で行っている、タイバンコクのキングモンクット工科大学から、同国の飲料水事情と信大RO膜モジュールを使った水道水浄化実験の優れた結果が報告されました。タイは安心安全なきれいな水が不十分で、多くの市民は水道水を直接飲んでいない現状にあり、低コストでたくさん水が作れる浄水器が必要です。信大膜の浄水器は市販に比べて汚れに強く長く使えて、特に透水性が高いので期待されています。

社会実装に向けた開発技術の成果と実証

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株式会社日立製作所 
北村 光太郎

 地球上で利用可能な淡水は全水量の0.01%で、人口増加などにより水の需要は増大していきます。中東諸国では淡水化が主要な造水方法であることを背景に海洋汚染が進み、安定的な造水と環境負荷低減に寄与する淡水化を模索しています。また、島しょ国では温暖化の影響による海面上昇で淡水化への移行が進むことから、安定的な淡水化と環境資源につながる設備が求められています。
 信大が開発したCNT/PA複合RO膜は、汚れに強く淡水化の前処理を簡易化・省略化することが期待されます。使用薬剤を減らしつつ安定運転を実現するシステムを構築することで、施設全体での低コスト化が実現できます。
 この膜を使った淡水化の社会実装に向け、製膜とモジュール開発、実海水での評価を行いました。信大に設置したセミパイロットスケールでは1~2メートルの平膜ロールを製膜し、基本的な製膜技術を確立。パイロットスケールでは量産化を見据え最大70メートルを超える連続製膜が可能になりました。
 北九州の実証プラントでCNT/PA複合RO膜と市販膜の比較試験を行ったところ、CNT/PA複合RO膜は付着物、菌の量が少なく、膜汚染に強いことが実証されました。本試験により造水コストは従来比20%減、廃棄物量は70%減などといった成果が得られる見通しです。今後は膜、システムに加え、膜汚染予測モデルの構築により、膜汚染を抑制しながら設備を運転するための計画策定などが期待されています。

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実証試験を行っている北九州市の実証プラント

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CNT/PA 複合RO膜モジュール

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水道水圧で浄水できる家庭浄水器の実証試験(タイ)

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世界最大級のSWCC海水淡水化施設

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SWCCで使用しているベッセル

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海水淡水化とグリーンサウジ
緑化構想に膜のテクノロジー活用 信大とサウジが連携へ

 サウジアラビア王国は環境世紀に向け、砂漠を緑化してCO₂の吸収地域とする-などのグリーン構想を提唱しています。同国は海水淡水化では世界の約25%のキャパシティがあり、その中核機関が「サウジアラビア海水淡水化公社(SWCC)」。ここで現在、信大のモジュールを使って評価実験を行っています。グリーン化構想では、緑育成のプログラムに海淡を活用するため信大と広範なテーマで連携協定を結ぶ予定です。
 シンポジウムではグリーン化構想についてサウジアラビア在日本大使館やSWCC、信大と連携予定の現地の大学関係者がオンラインで発表しました。
 2021年3月に発表された「グリーンサウジイニシアチブ」は、砂漠の緑化などを通じてCO₂排出量削減や海洋生物保護に取り組むグリーン構想です。大使館のアリ博士は温室効果ガスによる大気汚染や砂漠化が中東の経済的リスクとなる現状を説明し、水素経済や人工知能、ロボット工学を駆使する未来都市「NEOM(ネオム)」構想についても紹介しました。
 SWCCのアルナマジ氏は、グリーンエネルギーの依存度を高める必要性を強調しました。SWCCは従業員約1万人を擁し輸送パイプラインを持つ淡水化の世界最大の組織で、エネルギー消費の削減と淡水化によってグリーン構想を実現しようとしています。RO膜のテクノロジーを利用してCO₂や化学物質の排出量を削減し、火力発電所等を持続可能なプラントに置き換えようとしています。
 このほかグリーン構想の実現に向けたタイフ大学とメディナ・イスラミック大学の研究分野と人材、信大COIとの共同研究への期待についても紹介されました。

研究成果報告

東アフリカの安全な水環境確保
-新しい水処理技術-

東アフリカでの安全で清浄な飲料水確保に向けて

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信州大学教授 
吉谷 純一

 フッ素は地質由来の化学物質で地下水に含まれています。高濃度のフッ素汚染水を飲用し続けると骨に奇形が生じるなどのフッ素症を発症します。東アフリカのタンザニア、ケニア、エチオピアなどでは高濃度フッ素に地下水が汚染されています。WHOによれば世界には7000万人以上のフッ素症患者がおり、世界的な問題になっています。
 タンザニアの大学との共同研究によりタンザニア・アルーシャで水質分析を行いました。アイソトープの分析によって地下水が涵養された点や水の経路が分かり、多くの地下水源を特定できています。子どもたちの教育も実施しています。フッ素汚染水に関する正しいリスクの知識を教え、将来の水問題のリーダーを育成することが目的です。
 フッ素汚染対策としてRO膜の導入がよく行われますが、発展途上国の村落は電力網が未発達で、高度な機械をオペレートするエンジニアも不足していることから現実的な解決策ではありません。収入が低く安全な水に払えるお金も少ない現実があり、異なるアプローチが必要です。われわれは大学、政府関係者と一緒に、水問題を解決するための実行計画を作っています。都市部と村落部を分け、特に村落部の人口が急増している状況を考慮して、吸着材を使うなどさまざまな技術を生かした将来計画の策定を進めているところです。

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アルーシャのさくら女子中学校でCOI の教授が水に関する講義を行った

高機能で手軽な浄水を可能にした「信大クリスタル」

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サブ研究リーダー/信州大学 教授
手嶋 勝弥

 信大クリスタルは独自のフラックス法により育成した結晶材料で、物質の機能を最大限に生かすことができます。水処理では無機イオン交換体の技術を得意とし、大きく「アニオン系」はフッ素のような陰イオンを吸着する結晶材料、「カチオン系」は重金属を除去する結晶材料です。アニオン系の無機イオン交換体では、8ppmのフッ素を含む水を1.5ppm以下にするという目標値を達成できる材料を開発しました。高いフッ素イオン除去を達成しつつ、構成物質が溶出しないような吸着材ができており、これをティーバッグ型の浄水器に入れてタンザニアでリモート式の試験を行っています。
 1回目の試験では高い性能が確認され、フッ素除去バッグを日常生活で使う利便性が非常に高いと評価されました。コスト面でも、購入して使う場合の許容範囲内とされました。
 「カチオン」を除去する無機イオン交換体については、第一世代の材料を量産化する体制ができ、さまざまな浄水器への搭載が始まっています。1つは手軽に持ち運べる浄水ボトル。ほかにアンダーシンク型としてシンク下につける浄水器にも搭載されています。いずれもエネルギーが不要で水道水圧だけで水をきれいにできる技術です。
 この技術を用いて浄水した水道水を飲むことができるアクアスポット「swee(スウィー)」を国内展開し、長野県内では5カ所に設置しました。2022年中に100カ所の設置を目指しています。

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実証試験

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ティーバッグ型浄水メディアNaTiO

ナノ材料による分離・認識機能デバイスの開発

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サブ研究リーダー/信州大学 教授
木村 睦

 タンザニアの水環境改善については、CVD(化学蒸着)によって薄膜を作る技術開発と並行して3年ほど前から関わっています。
 タンザニアの地下水からはWHO基準の数倍から10倍のフッ素が検出されますが、フッ素イオンを可視化できればリスクを知ってもらうことができると考えました。日本で市販しているフッ素イオンメーターは高額な上、使用には技術が必要です。タンザニアはICT環境が整っていることからICTを活用してデータを蓄積し、スマホで安全情報を提供するシステムの構築を模索しました。
 「MOF(モフ)」という新材料で布を処理した高感度化学センサーを開発しました。フッ素に反応するとブラックライトで検出できるものです。さらにスマホのアプリを開発して連動させ、濃度が記録されてGPSでマップ上に表示できるようにしました。日本で市販している電子部品とタンザニアのオーガニックコットンを使用しています。
 ほかにも、水の安全性を維持するためにフッ素を除去しながら塩素を付加する研究などを進めています。

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フッ素濃度モニター。色と蛍光の変化でフッ素濃度がわかる。

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フッ素センサーとスマートフォンアプリ。フッ素を含む水を染み込ませた綿を差し込むと、スマホ画面にフッ素濃度が表示される。

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アルーシャでの地表水のサンプリング

タンザニアの概況と実証報告
 タンザニアのアルーシャ県では、地域にある水源の50%がWHOのフッ素基準値を超えています。ほとんどの住民がフッ素の影響を受け、特に子どもたちが運動障害など深刻なフッ素症に直面しています。タンザニア政府は実験施設を設けるなどして最小限のコストでフッ素除去を実現する方法を模索しています。遠隔の水源からアクセス可能な村に良質な水の供給を行う施策を推進する一方、水を供給できない村に対しては、水処理によりフッ素濃度を下げる研究を進めています。信大の吸着技術を用いれば、飲用と料理に使うためだけの少量の水処理が可能で、ローコストが期待されています。また、センサーの開発も注目されており、国内の市場で入手できるようになれば人々の生活の質が大きく向上すると期待が集まっています。
(報告 フッ素除去研究所前所長 ガッドフレイ・ムコンゴ氏)

COI-S成果報告

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COI-S研究リーダー/海洋研究開発機構
高橋 桂子

過去から現在の水大循環と将来予測

 地球上における過去と現在の水の在りようの再現から将来の水の循環予測を行い、持続可能な水環境を提案するためのシミュレーションモデルを作りました。地球上の水は大気から海洋、地下までつながっているため、このモデルによるシミュレーションにより、大気と海洋および地表や地下の水大循環のようすが精緻にわかります。
 ここに人為的なアクションを加えると、そのアクションによって水の流れがどのように変化するかをシミュレーションすることができます。自然の水の循環に人為的な介入が入ると水環境はどのような影響を受けるのかを明らかにして、施策展開の方向性を提案したいと考えています。応用として、アラビア海での高濃度の塩水の拡散シミュレーションでは、ピンポイントで高濃度の塩水が排出されると、約5カ月で約100キロ先まで拡散することがわかります。排出ポイントの移動や海流の季節変化が予想されるため、信大との連携によって拡散のしかたを解析し、水処理プラントの設置計画に役立てる可能性について検討を進めます。

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シミュレーションによる大気と海洋、地表面や地下の水大循環のようす

AxC‒PF概況報告

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AxC-PF会長 
上田 新次郎

 AxC-PFは2019年8月、COIの研究成果を社会に展開し、新事業の創出につなげることを目的に設立されました。会員は2021年11月現在、個人を含め53機関で、水関連や素材、機械、食品関連の企業など多岐にわたっています。交流事業を通じて共同研究の可能性を探り、現在は水処理やカーボン関連で共同研究が行われています。講演会や懇談会を定期的に開催し、21年9月の講演会では、グリーン水処理を目指すシステムのキーデバイスとしてFO膜を活用する可能性について議論を交わしました。

特別講演

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東レ株式会社 フェロー
栗原 優

急成長する海水淡水化と新たな技術課題への挑戦
 海水淡水化の市場は急激に動いています。世界の海水淡水化プラントの実績をみると2010年頃から逆浸透膜法(RO)が蒸発法の累積容量を超え、2015年頃からはROだけが伸びています。
 海水淡水化プラント(SWRO)は、2009年当時、2020年には造水量100万トン/日規模が要求されると”Mega-ton Water”プロジェクトで予測しました。実際に最近では「Mega-SWRO」という言葉が定着しています。
 40万トン/日以上のメガトンプラントの実績をみると、RO膜の技術競争と市場シェアの競争が激しくなっていることがわかります。政府機関の支援もあり、メガサイズのプラントが普及していますが、造水コストが最小$0.28/㎥まで下がってきたことが、SWROが伸びている理由です。2019年には累計600万トンの海淡プラントがサウジアラビアなどでつくられました。この勢いは続き、2022年が次のピークで900万トンのビッグプラントが計画進行中です。
 海水淡水化RO膜のシェアは、4000トン以上のプラントで、日本勢が約70%、アメリカは約20%です。
 技術開発について、”Mega-ton Water”プロジェクトでは、省エネルギーに加え塩素及び脱塩素剤を使わない運転プロセスの開発を進め、サウジアラビアのガルフ湾でもバイオファウリングを抑えることで、ポリアミド膜が効率的に運転できることを確認しました。各国の取り組みでは、韓国はFO膜を前処理に使った海淡プロセスを国家プロジェクトとしてアラブ首長国連邦で技術開発等を進めています。アメリカでは、UCLAの研究者はMBRを前処理に使用したSWROを提案しています。また、ブライン活用のため高圧ROの検討が進められています。サウジアラビアでは、SWCCが方針として、①蒸発法からRO法へのリプレイス、②RO膜は中空糸膜からスパイラル型膜への変更、③新しいRO技術の開発、薬品低減、またブラインの活用を進めようとしています。太陽光発電による再生可能エネルギーの活用が注目されており、Green Desalination、Green EnergyなどをNEOMプロジェクトで進めています。

総評

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科学技術振興機構 COI STREAM
総括ビジョナリーリーダー代理
水野 正明

 フェーズ3は社会実装がテーマで、タンザニアやサウジアラビアでトライアルを行い、情報がほとんどない中で現地に赴き、現地の課題を受け止め、答えを打ち出しつつあることは大変な努力の成果だと評価しています。整備された人材や制度、体制を踏まえ、新しい大きな展開につなげることを期待します。これから日本の大学は、教育研究だけでなく社会的課題を解決できる拠点としての役割が求められています。信大がその力を発揮して世界の課題解決に取り組んでほしいと思っています。

閉会のあいさつ

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信州大学副学長 
天野 良彦

 9年間にわたり、海水淡水化の革新的な膜プロセスの開発と、この技術の多方面での応用に向けて水に関わる技術開発をしてきました。私たちの生活用水の確保、発展途上国の水環境改善に貢献する技術開発につなげ、技術の一部が実用化しています。これらの知見を活用して参画する企業とともに世界に発信し、持続可能な社会づくりに貢献していきたいと思っています。

PROGRAM

13:00 開会あいさつ    中村 宗一郎、阿部 守一
    来賓あいさつ    井上 睦子氏、アリ・アルアナジ氏、小宮山 宏氏
    参画機関あいさつ  中津 英司、阿部 晃一、大西 博之
13:30 プロジェクト説明  大西 真人
13:45 成果報告
   「PAとCNTあるいはCNFで構成する環境配慮型の海水淡水化ならびに新型超低圧高透水性POU用のナノ複合逆浸透膜とモジュール」
    遠藤 守信、手島 正吾(高度情報科学技術研究機構)、ウィナッダ・ウォングウィリヤパン
    「海水淡水化向けCNT/PA複合RO膜の実証」
    北村 光太郎、武内 紀浩(東レ)、菊地 淳(理化学研究所)、竹内 健司(信大)
    「東アフリカでの安全で清浄な飲料水確保に向けて」 吉谷 純一
    「信大クリスタル with swee」 手嶋 勝弥
    「ナノ材料による分離・認識機能デバイスの開発」 木村 睦
    「タンザニア連合共和国での実証事例」
15:25 COI‒S成果報告
    「過去から現在の水大循環と将来予測」 高橋 桂子
15:45 アクア・ネクサスカーボン-プラットフォーム(AxC-PF)概況報告 上田 新次郎
16:10 海外機関との連携「海水淡水化とグリーンサウジ」
    サウジアラビア王国大使館、タイフ大学、メディナ・イスラミック大学、SWCC/DTRI
16:40 特別講演
    「急成長する海水淡水化と新たな技術課題への挑戦」 栗原優氏
17:10 総 評               水野 正明氏
    サブプロジェクトリーダーあいさつ  高橋 弘造 
    閉会あいさつ            天野 良彦

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