八面六臂!DNAは分野を超えて愛される?信州大学×理化学研究所の連携研究室誕生産学官金融連携

八面六臂!DNAは分野を超えて愛される?信州大学×理化学研究所の連携研究室誕生

八面六臂!DNAは分野を超えて愛される?信州大学×理化学研究所の連携研究室誕生

 平成28年4月、信州大学工学キャンパス国際科学イノベーションセンターに信州大学と理化学研究所(※)による連携研究室が誕生しました。文部科学省革新的イノベーション創出プログラム(COI-STREAM)をきっかけに、昨年度末、連携・協力の協定を締結、共同研究や人材交流・人材養成などを目的として設置されました。理化学研究所が2015年5月に「科学力展開プラン」を発表して以降、外部にサテライトの研究室を持つのは初めてのこと。期待の高さが覗われる、最先端の研究室に訪問、4月から信州大学に来られた若手研究者、金山准教授を中心にお話しを伺いました。

(※)国立研究開発法人理化学研究所

(文・柳澤 愛由)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第101号(2016.9.30発行)より

あのDNAを、ケミカルやエンジニアリング分野でも使う?

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信州大学大学院総合工学系研究科・准教授(国)理化学研究所 前田バイオ工学研究室・客員研究員
金山 直樹(かなやま なおき)


2002年、東京工業大学大学院総合理工学研究科修了。博士(工学)。科学技術振興事業団CREST研究員(東京大学工学部マテリアル工学科)、名古屋大学大学院工学研究科・助手、筑波大学学際物質科学研究センター・専任講師、(国)理化学研究所 前田バイオ工学研究室・協力研究員、研究員などを経て、2016年より現職。

 「面白そうなことなら何でもやります!」そう笑顔で話す金山直樹准教授は、2016年3月まで、理化学研究所でバイオ関連分野の研究を続け、2016年4月、信州大学との連携研究室設立に合わせ、信州大学大学院総合工学系研究科(兼工学部物質化学科)准教授として着任しました。

 専門はDNAを中心とした生体関連高分子化学。DNAと聞くと、誰しも「生物の遺伝子情報を持つ神々しいもの」と思うはず。それ以外の側面を思い浮かべる人は多くはないでしょう。しかし、そのDNAに、昨今、研究の“新たなツール”として各方面から熱い視線が注がれている」といいます。

 「DNAはその塩基配列を適切に設計したり、化学的に修飾したりすることで、まさに“八面六臂”の活躍をしてくれるようになります。遺伝子診断やバイオマテリアルといった医療分野から、物理や情報、工学、環境、エネルギー分野に至るまで、そのフィールドは様々です。DNAは周辺環境によって“変わった振る舞い”を示すことが分かっています。その原理が徐々に解明されてきている今、それを上手に利用しようと世界中の研究者がしのぎを削っています」このように、金山准教授は、DNAをひとつの化学物質として扱い、その特性を活かした新しい材料や技術の開発を行うという研究を行っています。

 その一例で、DNAを使って環境汚染物質である「水銀」を検知するという技術について伺いました。もととなったのは、DNAがある条件下でみせる以下のような“不思議な現象”。金の微粒子にDNAを固定化した粒子(DNA金ナノ粒子)を、水溶液中に分散させます。溶液の色は最初は「赤」ですが、これにどんどん塩を加えていくと、固定化したDNAが完全相補鎖(※1)である場合には、粒子が凝集・沈殿し、溶液の色が「赤色」から「薄紫色」に変化します。しかし、DNAの末端塩基配列にたった1対でもミスマッチの配列を作ると、粒子は分散した状態を保持し、溶液の色は「赤色」 のままで変化しません。

 こうした“現象”を応用して、ミスマッチを含む塩基配列を適切に設計したDNA金ナノ粒子を塩水に分散させた溶液(赤色)を作ります。そこに、環境汚染物質である「水銀イオン」を加えると、DNAのミスマッチ部分に水銀イオンが取り込まれます。すると、ミスマッチ配列のあるDNA金ナノ粒子であっても完全相補鎖の場合と同じように粒子が凝集・沈殿を始め、溶液が素早く「薄紫色」に変化するのです。

 このDNA金ナノ粒子を用いれば、特別な測定装置やエネルギーを用いることなく、溶液に混ぜるだけで、有害な水銀イオンを目視で検出することが可能となります。また、DNAの配列設計を工夫することで、他の有害物質の検出も可能になるそうです。

 このDNA金ナノ粒子の設計と合成を行ったのが金山准教授で、理化学研究所の特許技術のひとつとして登録されているそうです。

※1)相補する配列とは、塩基Aに対してT,Gに対してCが対応する配列のこと。完全相補鎖とは、塩基数が等しく、配列が全部相補するDNAのことを指す

光ピンセットという“超すぐれもの”で見えること

 理化学研究所との連携研究室ならではの最先端機器もあります。それが、日本に3台程しかないという一風変わった「光ピンセットシステム」です。

 「DNAは、本来マイナスの電荷を持った分子です。でもちょっとした条件がそろえば、マイナスの電荷をもつDNA同士でも引力が働いているように振る舞います。この装置は、光の放射圧を使って、そうした物質間に働く非常に微弱な力を数値化することができます。しかも顕微鏡でその様子を観察することもできるのです」

 マイナスの電荷をもったDNA同士がなぜくっつくのか、なぜ離れるのか―、微小な世界の中で発生している力学を覗きみることができれば、その物質や現象の“本質”が見えてくる可能性があるといいます。

 「光ピンセットシステム」は非常に高価な分析機器。「かなり思い切って投資しました(笑)」と金山准教授。その好奇心は尽きることがありません。こうした特殊な機器を信州大学で使いながら「学生の自由な発想にも出会いたい」と大学での教育・研究に期待を持っています。

「化学」を通じて信州大学の研究室と異分野コラボレーション開始!

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連携研究室には、金山准教授が理化学研究所時代に所属していた前田バイオ工学研究室の前田瑞夫主任研究員(写真右)も参画。前田主任研究員は信州大学とクロアポイントメント契約を結び、大学院総合工学系研究科教授として週に1日ペースで、連携研究室の教育・研究に従事しています。共同研究第1弾として、共に研究を進める天野良彦教授(写真左)

 連携研究室での共同研究第1弾として現在進めているのが、天野良彦学術研究院(工学系)教授、水野正浩学術研究院(工学系)助教の酵素研究とのコラボレーション。

 天野・水野研究室のテーマのひとつに、「おがくず」などを使ったバイオマスの分解を促進する酵素の研究があります。「DNAを上手に活用することで、異なる種類のバイオマス分解酵素を複合化して分解機能を高めることが期待できます。」と天野教授。

 また、共同研究第2弾として、伊原正喜学術研究院(農学系)助教の藻の育種研究をサポートする新しいバイオ高分子素材の開発に関する研究がスタートしています。部局を超えた異分野融合研究に期待が膨らみます。

信州に引っ越しちゃいました!新幹線の駅からも歩けて近い(笑)

 「妻と娘の家族三人で信州に引っ越してきましたが、思ったより東京にも近いですね。新幹線の駅からキャンパスまで歩いて来られますし(笑)」。もともと自身も奥様も富山県の出身だという金山准教授。信州の山々に囲まれた雰囲気はどこか故郷の様子にも似ているのだとか。

 「4月から今までは、空っぽの部屋に機器類を設置し、研究室として作り上げるのに手一杯でしたが、これからは各キャンパスにもどんどん宣伝に行きたいと思っています。様々な先生方との出会いから、信州ならではの“面白い”共同研究が実現できたら」と、今後への期待をにじませました。

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