信大特許Vol.4 再生医療などに役立つ新技術!「シルクナノファイバー」産学官金融連携

信大特許Vol.4 再生医療などに役立つ新技術!「シルクナノファイバー」

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 iPS細胞の開発以降、再生医療技術は加速的に進化し続けています。しかし、細胞だけではすべての組織や器官の再生が難しいため、組織再生を担う細胞を支えるための足場材料の開発も重要な課題となってきました。今回ご紹介する特許は、信州大学学術研究院玉田靖教授(繊維学系)が開発した「シルクナノファイバー」です。キーワードは、「シルク」と「水(シルク水溶液)」、そして「ナノファイバー」。天然資源を用いた、人にも環境にもやさしい再生医療用材料として期待されています。シルクとナノファイバー研究の融合という、繊維学部ならではの深い造詣から生まれた、再生医療の未来を支える技術です。
※信州大学の研究シーズを技術移転する(株)信州TLOが、特許技術の見える化を推進する特許の試作と動画制作(平成29年度中小企業知的財産活動支援事業)により実施

(文・柳澤 愛由)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第111号(2018.5.31発行)より

この記事の内容は、映像でもご覧いただけます。(信大動画チャンネルより


生体に優しいシルク。その構造を徹底解析

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 ご存知の通り、シルクはカイコという生物が生産する生物資源で、なんと約8,500年以上前から利用されてきた優れた天然由来の材料です。衣服だけでなく、絹糸は外科手術で傷を縫合する糸として、古くから、そして現在でも臨床で使用されています。それほど生体への安全性、親和性が確かな材料であり、最近の研究では、シルクから作られた材料が再生医療における細胞の足場材料として、優れた性質を示すことが多く報告されています。
 玉田教授は、シルクの構造や性質を新たな視点で解析し、化学修飾でその機能を変化させたり、タンパク質工学や遺伝子組み換えなどの手法を用いて、再生医療分野でのシルクの活用を目的とした、機能性シルク素材の創出を目指す研究を進めてきました。その中で生まれたのが、今回ご紹介する「シルクナノファイバー」です。このシルクナノファイバーの最大の特徴は、シルクと水のみを原料に使用しているという点にあります。
 「一般的に、再生医療用材料は人体や環境への悪影響が懸念される溶剤を用いているケースが多いのです。しかし、今回のシルクナノファイバーは人体への親和性が高いシルクと、無害な水を原料に使っているので、より安全な材料となります」と玉田教授は話します。

「シルク水溶液」が、実はすごい!

 シルクナノファイバーの原料は、シルク水溶液(※写真1)です。
 シルクはカイコの体内では水溶液の状態ですが、一旦糸になると不溶性に変わります。しかし高濃度塩水溶液には溶解するため、それで溶解させ透析で塩溶液を取り除けば、シルク水溶液ができあがります。“水で加工できる”という性質もシルクだからこそ。シルクを水に溶かすことによって、ナノファイバーだけでなく、フィルム状やスポンジ状など、さまざまな形状への応用も可能となります。例えばシルクスポンジ(※写真2)は、シルク水溶液を凍結融解させ作った多孔質構造の材料です。(※写真3)「シルクスポンジはシルクならではの柔軟性、風合い、手触り感も優れた材料だと思っています。穴の大きさや構造はコントロールすることもできます。このシルクスポンジも再生医療細胞の足場材料として利用出来ますが、その他、さまざまな応用の可能性があると考えています」と玉田教授は期待を寄せます。
 再生医療に用いられるiPS細胞などの幹細胞は感受性が強く、移植するのみでは細胞が接着する前に死滅してしまい、十分な効果が得られないことが懸念されています。その課題を解決するには、細胞周辺に生体環境に近い環境を与え、その機能を最大限発揮させるための優れた「足場材料」の存在が不可欠です。シルクスポンジなどはその有効な材料として期待されているのです。

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(※写真1)これがシルク水溶液、多様な形状のシルク材料の原料

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(※写真2)これがシルクスポンジ

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(※写真3)シルクスポンジの構造を3次元解析、多孔室構造とわかる

信州大学を代表するナノファイバー研究との融合

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ナノファイバー製造装置の前でシルクナノファイバーマット(※写真5)を手に持つ玉田靖教授

 シルクと水(シルク水溶液)、そして信州大学を代表するナノファイバー研究との融合によって生まれた特許技術が、シルクナノファイバーです。ナノファイバーは、1本の太さが500ナノメートル以下、髪の毛の200分の1の細さの極細繊維(※写真4)。液体や気体のろ過、電池材料や疎水性に優れた高機能繊維材料、複合材の強化材料など、用途は非常に幅広く、産業的にもいろいろな所で用いられています。ナノファイバー研究は信州大学を代表する先端研究のひとつでもあり、材料研究、製造、評価解析に至るまで、多彩な研究が行なわれています。特に再生医療用材料として最適なのが、シルクナノファイバーで作ったマット(不織布)です。シルクナノファイバーマット(※写真5)は、シルク水溶液を電界紡糸(エレクトロスピニング)(※1)装置で霧状に噴射(紡糸)し、マット状に加工することで出来上がります。
 「シルクナノファイバーマットは生体組織に非常に近い構造をしているので、再生医療用材料として最適だと考えています。水とシルクのみが原料なので、環境に優しいプロセスで製造できることも、この技術の特徴ですね」と玉田教授は話します。これまで述べてきた通り、人にも環境にも優しいさまざまな再生医療用材料の開発に最適な特許技術だといえます。
 再生医療分野や新しい視点での新材料開発にご興味のある方は、信州大学発の特許技術「シルクナノファイバー」の活用を検討してみてください。
※1)溶媒に材料を溶解した溶液を注射器(シリンジ)に入れ、高電圧をかけながら射出する(※写真6)ことで、ナノファイバーを作成する方法

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(※写真4)ナノファイバー

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(※写真6)ナノファイバー製造装置、高電圧下で水溶液が霧状に噴出されマット状になる

ナノファイバーで広がる用途、イノベーション!

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ナノファイバーの研究領域、非常に広い範囲に展開されている

 信州大学のナノファイバー研究は再生医療分野に留まりません。信州大学には試作設備もあるので、サンプルの作成も可能で、ワンストップで企業のニーズにお応えすることができます。
 今回ご紹介した特許、シルクナノファイバーも信州大学を代表するナノファイバー研究のひとつ。産業界からの新しいアイデアや用途開発で、さらにナノファイバーの応用範囲が広がり、新たなイノベーションにつながっていくのだと実感しました。

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