白米でも玄米とほぼ同等の栄養価 「高圧加工米」という画期的新技術!産学官金融連携
信州大学の研究シーズを技術移転する信州TLOとのコラボで制作した、特許技術「見える化」映像シリーズの第9弾。
今回ご紹介するのは信州大学学術研究院(農学系)藤田智之教授が開発した新しい高機能米「高圧加工米」に関する特許です。
高圧加工米は、白米の見た目・食味でありながら、玄米の健康機能性を持たせることができるお米で、玄米や籾を高圧力下で処理してぬかの栄養成分を胚乳(白米)に移行させるという画期的な技術で実現します。さらに高圧処理することで、精米しても割れにくく製品ロスが防げるといったメリットや、最近では、健康運動と組み合わせることで血糖値の上昇を抑制する効果も確認されています。近年、お米の需要が減少傾向にあるなかで、米の新たな市場開拓にも貢献しそうな高圧加工米。その技術を詳しくご紹介します。(文・佐々木政史)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第142号(2023.11.30発行)より
玄米の栄養素を白米でも!
日本人の主食であるお米は、言うまでもなく、私たちの食生活に欠かせない栄養源で、特にエネルギーの源となる炭水化物を得るために必要不可欠です。加えて、精米する前の玄米には、ビタミン・ミネラル・ポリフェノールが豊富で、食物繊維の不足も補えるため、健康維持にはうってつけ。ただ、玄米は長時間水に浸す手間や、食味の点から、日常的に食べることにハードルの高さを感じている人が多いのが実情です。
そのため、「白米の食味と手軽さで、玄米が持つ栄養を得られたら―」こう考える人も多いのではないでしょうか。実はこの夢のような願いを叶える技術があります。信州大学学術研究院(農学系)藤田智之教授が開発した「高圧加工米」です。
ちょっとした工夫はありますが、「作り方はいたってシンプルです」と、藤田教授は話します。高圧処理装置の中に玄米と水を入れ、変質しない温度まで加温して100MPa(水深1万メートルの水圧に相当する圧力)の圧力をかけます。その後、取り出して冷まし、元の玄米の重量まで乾燥させたうえで、あとは精米するだけです。
ポリフェノールは玄米の7割も
「高圧加工米」には3つの特許があります。一つ目の特許は、玄米の栄養成分を白米に移行させる特許です。具体的には、玄米に加水・加温して加圧処理させることで、ぬかの栄養成分であるビタミンやアミノ酸などを、内部の胚乳に移行させるというものです。特にポリフェノール類は玄米の7割近くが移行、元の白米の約3倍に増えることが確認されています。
二つ目の特許は精米時に割れにくくして、精米ロスを減らせるというものです。玄米を加水・加温、100MPa程度の加圧下で処理することで、精白米の歩留まりが向上、精米時のロスを削減することができます。
三つ目の特許は、インターバル速歩と組み合わせることで血糖値を制御しやすくなることが分かりました。インターバル速歩とは「さっさか歩き」と「ゆっくり歩き」を数分間ずつ交互に繰り返すウォーキング法で、信州大学の能勢博特任教授が考案したものです。インターバル速歩を行うことで血糖値を下げる効果が分かっていますが、血糖値が下げ止まっている人に「高圧加工米」を4か月間食べてもらいました。
結果、なんと通常の白米食に比べて食後の血糖値上昇が抑えられ、高圧加工米食に血糖調節機能があることが分かっています。
高圧加工米についての研究が進み、特許技術も出揃ってきたことで、藤田教授は「これからは、いよいよ技術を本格的に普及させていきたい」と話します。
既に、発芽玄米や金芽米などの健康面で機能性を持ったお米が流通しており、一定の市場があります。ただ、これらのお米は長時間の浸水などの調理の手間や、食味などがネックとなっている部分もあります。一方で高圧加工米はこうした従来の課題をクリアできるため、「高機能米の新たなスタンダードになるくらいのポテンシャルを秘めている」と藤田教授は自信を滲ませます。
また、藤田教授は高圧加工米を通じて、日本のお米の消費量向上に貢献したいという想いもあります。お米の消費量減少や、販売価格の低迷などでお米づくりから撤退する農家が増え、以前にも増して休耕田が目立ってきています。こうしたなかで、「日本人の主食であるお米に関する課題は日本の課題」と捉え、高圧加工米を通じて新たな付加価値を提案し、お米の消費向上に寄与できたらと考えています。
<研究パートナーからのMESSAGE>
多くの可能性を秘めた「高圧加工米」
様々な形でサポートしていきたい
実用化へ向けた最終段階を支援
私たちの会社は“高圧”をキーワードに、他にはないオンリーワンのものづくりに取り組んでいます。「高圧加工米」については、藤田教授が研究を始めた当初から、高圧加工機器「まるごとエキス」の提供などで関わらせていただいています。まるごとエキスには、用途に応じていくつかのサイズを用意していますが、研究の初期段階では比較的小型の10リットルタイプをお貸ししました。高圧加工米の研究成果を実用化に結び付けるためには、それより大きな容量で試し、実際に販売に必要なロットで生産できるかを試すことが求められます。実用化に向けいよいよ研究も最終段階に差し掛かったということで、今回、まるごとエキスのラインナップで最も大型の300リットルタイプで、実証実験に協力させていただきました。300リットルの大きなロットでも高圧加工米の製造が可能であることが実証されたとお聞きし、弊社としても喜ばしく思っています。
専用製造機の開発や自社販売も検討
弊社はグループ内に研究所を持っており、高圧処理に関する研究に力を入れています。食品に関連した研究はまだまだ未解明な部分が多く、注力分野のひとつで、高圧加工米については、特に大きな可能性を感じています。一方で、実用化へ向けて販売価格を抑えるためにも、増産体制の仕組み作りも必要になります。弊社でも高圧加工機器の提供を通じて、これに貢献していきたいと考えています。具体的には、例えば、より高い圧力を掛けて製造に掛る時間を短縮するなどし、一日に機器を複数回稼働できる仕組み作りや、高圧加工米の製造に特化した専用機の開発も検討しています。
この他にも、実用化へ向け、様々な面からサポートしていきたいですね。
例えば、特許を使って高圧加工米を製造して販売したいと考える事業者がいれば、事業者ごとに仕様をカスタマイズすることも可能です。また、グループ会社を通じて、自社での製造・販売も検討しています。健康に寄与する機能食品を販売するうえで重要になるのは客観的なバックデータです。高圧加工米は大学の研究室という信頼できるデータの提供元があり、これは大きな強みになります。
いずれにしても、高圧による食品加工の新たな可能性を見せてくれるという点で、高圧加工米の今後の展開には大きな期待感を持っており、これからも様々なかたちで藤田研究室をサポートしていきたいですね。