信州大学発ベンチャー企業特集 ナノファイバーの量産化・製品化はここまで進んでいた!産学官金融連携

話題の高性能マスクも「名刺代わり」と言い切る高い戦略性…ナフィアス。

信州大学発ベンチャー企業特集 ナノファイバーの量産化・製品化はここまで進んでいた!

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 「ナノファイバー」は信州大学繊維学部を代表する研究テーマのひとつ。しかし、研究者の間でも製品化の状況は意外と知られていないようです。
 そんな中、(株)ナフィアスは、今年2月、国際ナノテクノロジー総合展で、ナノファイバーを用いた高いフィルター性能を持つ革新的マスク「NafiaS N-95」を発表。産業系の新聞記事でも話題となりました。関係者からも「もうこんな製品が存在するの?」という驚きの声が上がったそうです。
 信州大学発ベンチャー特集第2弾は、ナノファイバーの量産化、製品化に取り組む(株)ナフィアスと、その創業者2人の恩師である金翼水学術研究院(繊維学系)准教授にフォーカスします。繊維を極限まで細くすることで、未来の産業や暮らしはどう変わるのでしょう……期待の膨らむお話を聞いてきました!
(文・柳澤 愛由)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第111号(2018.5.31発行)より

超高性能マスク、N-95はここまですごいスグレもの!

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 ナフィアスの新製品「NafiaS N-95」は、細かな粉塵や有害な微粒子を通さない高いフィルター性能を持ちながら、呼吸も会話もしやすい理想的な「N95規格(※1)」。さらに「感染症対策マスクは、蒸れやすく呼吸や会話がしにくい」といわれる医療現場での常識を覆す革新的なマスクです。
 さらに大きな特徴は、圧倒的な薄さと軽さ。それを実現したのが、フィルターに用いられている最新ナノテク繊維素材「NafiaS®」。独自の製法で生成した太さ100ナノメートル(0.1マイクロメートル)のナノファイバーで作った新素材です。従来のマスクが、蒸れやすかったり、呼吸がしにくかったりすることが多い要因は、使われている繊維の直径がナノファイバーに比べ大きいため、分厚く、さらに繊維と繊維の隙間が少なく、空気の流れる空間を作ることができないため。微粒子が繊維の間と間のムラに入り込み、目を詰まらせ、より通気性を悪くすることもあるそうです。一方、「NafiaS®」は、花粉の約300分の1の太さのナノファイバーが微粒子をフィルター表面で捕集、さらにナノファイバー間の微細な隙間が空気の通り道のみ確保するため、機能を充分に保持しながら、これまでにない快適性を実現することができるのです。医療現場のほか、防塵が必要な作業や災害時などでの使用が想定されています。これだけの機能性、快適性を備えたN95マスクは、おそらく世界初だといいます。

(※1)「N95規格」は米国労働安全衛生研究所が規定。ウイルスなど直径0.3マイクロメートルの粒子を95%以上捕集できる性能を持つことを示す。国際基準。

弓や刀の時代にロケットを作った!?「 量産化」とはそういうことらしい。

 大きな注目が集まる最新の高機能マスクですが、「マスクは名刺代わり」だと代表取締役の渡邊圭さん。ナノファイバー素材は、繊維の密度を制御するだけで、用途に合わせた薄さや軽さをコントロールすることができることも特徴のひとつ。形や材料を変えれば、全く異なる性能を生み出すことも可能です。例えば、空気は通しても水は通さないアウトドア用ジャケット、自動車などの工業用フィルター、電池のセパレーター、再生医療用材料、エネルギーデバイスなど…、その可能性は今なお広がり続けています。変幻自在のナノファイバーですが、製品化には「量産化技術」が必須、そこが誰もなしえなかった快挙、ということになります。
 実は、ナノファイバー自体は、80年程前から研究が続けられてきた、とても歴史のある技術。代表的な作成方法のひとつにエレクトロスピニング(電界紡糸)法(※2)がありますが、長年この方法での均一的な量産化は難しいとされてきました。この常識を覆したのが、渡邊さんの恩師、金翼水学術研究院(繊維学系)准教授が開発した「ナノファイバー量産機」です。この技術・装置の存在が、ナフィアス最大の強みでもあります。
 「弓や刀の時代に…」の見出しも、ナノファイバー研究の権威の先生がおっしゃったもの、と金准教授。ナノファイバー量産化成功は、それほどインパクトのある出来事だったそうです。
 「2011年に量産機が完成し、当初その販売をメインにした事業を考えたのですが、最初から事業者向けにビジネスするのはなかなか難しくて。まずはナノファイバーが量産できる事実を実感してもらう必要があったんです。そのために製品化したのがマスクでした」(渡邊さん)
 2014年、最初に完成した製品が、高機能サージカルマスク「aerumask(アエルマスク)」。一般向けのマスクではありますが、もちろん先述した「NafiaS N-95」同様、フィルターには「NafiaS®」を採用。マスクをしながらジョギングをしても全く息苦しくない快適さが売りの製品です。このマスクの存在が「名刺代わり」となり、その後の起業を後押ししてくれたそうです。
 「ナノファイバーを大量生産できる特許技術と実績、スピード感はベンチャーならではだと思っています」と渡邊さん。現在は量産機のカスタマイズや設計、製造といった事業者・研究者向けのビジネスや、工業用フィルターの開発といった企業との共同研究も展開。3期目となった昨年は2期目の倍に売上を伸ばしており、今後も、垣根を作らず可能性の数だけ事業の広がりを作りたいといいます。

(※2)多様な材料(主にポリマー)の溶液をシリンジ(注射器)に入れ、高電圧をかけることでノズルからナノファイバー形状へ紡糸する作成方法。

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(株)ナフィアス 取締役
大澤 道 氏
2010年信州大学大学院工学系研究科機能機械学専攻(修士課程)修了。2010年より米系半導体製造装置メーカーに4年間勤務後、(株)ナノアを経て2015年に(株)ナフィアスの立上げに参画。現在に至る。2018年4月より信州大学大学院総合医理工学研究科総合理工学専攻(博士課程)在籍中。趣味は革靴作り。

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信州大学学術研究院(繊維学系)准教授
金 翼水(キムイクス)
2000年名古屋大学大学院工学研究科物質制御工学専攻(博士課程)修了。全北大学(韓国)研究員などを経て、現職。蘇州大学(中国)客座教授を兼務。

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(株)ナフィアス 代表取締役
信州大学繊維学部特任助教
渡邊 圭 氏
2013年信州大学大学院総合工学系研究科生命機能・ファイバー工学専攻(博士課程)修了。2014年信州大学繊維学部特任助教に就任。2015年に(株)ナフィアスを立上げ、現職に就任。座右の銘は「初志貫徹」と「臨機応変」。

専門外の領域でも相談できる研究者がいる。大学発ベンチャーのメリット

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国際ナノテクノロジー総合展
2018.2月 東京ビッグサイト

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金准教授が持つのは量産化したフィルター素材のロール。右にある衣服もナノファイバー試作品。空気は通して水は通さないスグレもの。

 「以前は三重の外資系企業で働いていたのですが、現在ナノファイバーの製造委託を依頼している三重県亀山市の亀山製絲の工場に、渡邊君がちょうど訪れたことがあり、その時の話でナノファイバーの実用化が進んでいることを知って…。学生の頃はまだまだナノファイバーの製品化がここまで進むなんて思っていませんでしたから、ひどく感動しました」。取締役の大澤道さんは、ベンチャーに合流するきっかけとなった出来事をそう振り返りました。
 「大澤さんも渡邊さんも、私の自慢の学生でした。この2人がいたから私が蒔いた種が(実用化という)花を咲かせることができた。私1人では絶対できなかったこと。いずれ研究室の後輩たちも合流していけたらいいなと思っています」と金准教授。実は、協力企業である亀山製絲には信州大学卒業生や同じ研究室の後輩も働いているのだとか。金准教授のナノファイバー研究に対する情熱、そしてそのもとに集う学生たち、研究者、企業人など、学内外に広がるさまざまな関係者のネットワークは、同社にとっても大きな資産。こうした人のつながりも大学発ベンチャーのメリットだと思います。ナノファイバーが持つ多様性は、未来の世界の可能性を無限大に広げてくれる…長い歴史のあるナノファイバーですが、量産化のステージをクリアしたことで、その製品は加速度的に進化しているように感じました。

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