化成肥料を削減し環境面・コスト面で環境型アグリビジネスを牽引 知る人ぞ知る「菌根菌」の微生物資材化を実現!産学官金融連携
信州大学の研究シーズを技術移転する信州TLOとのコラボで制作した、特許技術「見える化」映像シリーズの第8弾。
今回ご紹介するのは信州大学学術研究院(農学系)齋藤勝晴教授が開発した、菌根菌の資材化に関する特許です。
アグリビジネス業界ではスタンダードである植物の根に共生する菌根菌。その代表格であるアーバスキュラー菌根菌は、土中のリンを吸収し作物に提供するため、化成肥料の削減に役立ち、環境面でもコスト面でも注目されています。これまで、純粋培養には成功したものの、資材化に必要な冷蔵保存を行うと胞子が発芽しないといった重要な問題が残っていました。
今回、齋藤勝晴教授は、この菌根菌に「複数の脂肪酸をミックス添加する」ことで、胞子の発芽に成功、資材化のための最終課題もクリアしました。
環境アグリビジネスに注目が集まっている今、SDGsの実現やコスト削減にもつながる「微生物資材化」が果たす意義は、非常に大きなものといえるでしょう。
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第139号(2023.5.31発行)より
「菌根菌」の純粋培養成功に続き資材化の最終課題に向き合う
菌根菌の代表格アーバスキュラー菌根菌は、アブラナ科などを除くほとんどの作物の根に共生し、土中のリンを吸収して作物に提供します。そのため化成肥料の削減に役立ち、環境面でもコスト面でも、こうした微生物の資材化が注目されています。
菌根菌は共生菌のため、かつては培養作業がとても難しいという課題がありましたが、信州大学をはじめとする研究機関の連携で純粋培養の研究が進み、「培地に脂肪酸を添加する」ことで効率よく純粋培養できるまでになりました。
しかし、純粋培養の段階には至ったものの、菌根菌を「微生物資材」として製品化するためには課題が残っていました。それは冷蔵保存であり、これまでの純粋培養方法ではその「冷蔵保存後に胞子が発芽しない」という致命的な事実です。
つまり、菌根菌を「微生物資材化」するためには、冷蔵保存しても、きちんと発芽する品質の安定化と量産化が必須であり、この農業現場で高いニーズのある課題を解決したのが、今回ご紹介する特許になります。
脂肪酸のミックス添加で発芽率を共培養に近づける
2022年、齋藤勝晴教授は、菌根菌を冷蔵保存しても十分な発芽率を維持できる「次世代胞子の生産条件」の研究を重ね、この特許を出願しました。
脂肪酸のミリスチン酸にパルミチン酸をミックス添加することで、冷蔵保存後の次世代胞子の発芽率が向上。現状使われている植物との共培養による胞子の発芽率95%に近い70%の効果が得られました。
「アーバスキュラー菌根菌の純粋培養には、ミリスチン酸の脂肪酸が必須。しかしミリスチン酸を単独で与えると、ミリスチン酸は比較的融点の高い脂肪酸であるため、細胞内に取り込まれた後に流動性が低くなると考えられ、これが理由で発芽率が低くなると思われる。しかし、そこにパルミチン酸などの脂肪酸をミックスして添加すると、パルミチン酸はここから不飽和脂肪酸に変換されて融点が低くなり、細胞膜の流動性が高くなる。これにより低温のストレスにあっても発芽率が高くなると思われる」と、齋藤勝晴教授は語ります。
新しい環境アグリビジネスを実現する微生物資材化
この特許の「微生物資材化」は、大幅な化成肥料の削減が期待できることから、高い注目を集めています。
多くの農家は、化成肥料の高騰に頭を悩ませていますが、微生物資材でその使用を削減できれば、肥料にかかる費用を抑えられます。また、微生物資材は土壌が本来持つ微生物の力を高めるという点で、現代の環境型アグリビジネスに寄与するものであり、本当の意味で「環境にやさしい」特許だといえます。
「それぞれの企業で独自に保有する菌根菌を効率的に微生物資材化する技術として、この特許は活用を検討いただけるものと思います。」(齋藤教授)
この特許が活用された菌根菌が資材化される日は近いように感じました。
特許情報
発明の名称:「アーバスキュラー菌根菌の保管方法」
出願番号:特願2022-125147
出願日:2022年8月5日