第6回信州大学 見本市特別企画 池澤あやかさんと信大若手研究者のトークセッション産学官金融連携

第6回信州大学 見本市特別企画 池澤あやかさんと信大若手研究者のトークセッション

 第6回の信州大学見本市は、大学創立70周年記念の特別企画として「新世代がつながる未来」と題したトークセッションを実施。約1時間のステージでしたが、タレント兼エンジニアの池澤あやかさん、信州大学の若手女性研究者であるバイオメディカル研究所の増木静江教授と工学部電子情報システム工学科の宮川みなみ助教の3名が、これからの研究や産学連携について熱い思いを語りました。
(※3名の皆さんがそれぞれの研究内容を紹介した後のトーク集を採録)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第119号(2019.9.30発行)より

一つ目のトークテーマ
若手研究者の強み、弱み、そして企みとは

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池澤あやかさん(以下、敬称略) さて本日のトークセッション、一つ目のテーマについてお聞きします。まずは皆さんの研究に対する「強み・悩み」の部分はいかがでしょうか?

増木静江教授(以下、職名略) 研究の悩みと楽しみは表裏一体ですね。自分が最高だと思った研究論文を投稿して、レフェリーからコテンパンにやられる、というか、戻ってくるケースでは、自分のすべてを否定されてしまったような気がします(笑)。

池澤 う~ん、それはちょっと辛いですね。論文をリジェクトされることって、よくあるんですか?

増木 そうですね。私の場合、今、日の目を見ているのは投稿した2割程度です(笑)。

池澤 苦労して生み出される論文だからこそアクセプトされたときには、喜びも大きいですよね。次はお二人が今メインにされている研究課題に出会ったきっかけをお伺いしましょうか。

宮川みなみ助教(以下、職名略) 私の研究分野は最適化手法の「進化計算」です。学部の頃に指導教員から教わり、工学の分野なのに、自然界の生物の仕組みを使っている点がおもしろいなと思い、とても興味を持ちました。

池澤 その研究を学部の頃から今まで続けられている魅力は何だと思いますか?

宮川 研究で実際に計算中の「解」をプロットしていくと、どんどん「解」が“進化”していくのが見えるんです。その動きを自分で設計して、思い通りに動いていくと、とても楽しいですし、形にできた、という喜びがありますね。

池澤 人が設計したものが進化して、その結果が実際世の中の製品にアウトプットできる、っていうのは面白いですね。この分野、(産学連携の)強みですね。

宮川 私の研究は「進化計算」の中でも"制約"の扱いに注目したものです。例えば"軽い車"を設計するとしたら、安全性とか性能、コスト等の必ず満たさなければならない制約が出てきます。その制約のもとで、最適な「解」をいかに効率よく導き出すかというものです。

池澤 面白い研究ですね。市場に出回る製品もより「進化」しそうですね。増木先生の研究においてはいかがですか?

増木 私の研究は「インターバル速歩」です。社会問題解決型の研究で、高齢化に伴い増え続け、国の財政を圧迫している医療費の問題をどうしたら削減できるか、病気を予防するにはどうしたらよいのかを考えたところから始まりました。よく「1日1万歩歩く」ことが健康に良いと言われていますので、実際に試しましたが、体力は上がらず、個人個人の体力を測定し、その体力に基づいた強度で運動することが大切だとわかりました。健康維持をフィールドで手軽に、継続して行なってもらうにはどうしたらいいか…企業の方にもご協力いただき、現在はスマートフォンのア
プリを開発しながら研究を進めています。仮説を立て、実際に検証結果が出て、健康面に改善が見られた時には、これこそスポーツ医科学の面白さだなと感じました。

池澤 医療費の削減など私たちにとっても身近な問題ですが、それをスマートフォンなどで手軽に始められるのは解決の糸口になりそうですね。研究活動で「仮説を立てたけど失敗!」なんてのはありましたか?

増木 日々あります!!(笑)。でも、その失敗も次につながるステップになることがよくあります。

宮川 私はまだ基礎研究の段階なので、結果が予想外の動きを示したことは少ないのですが、産学連携で生まれた製品が実際に使われることで、人の生活が便利になり、社会に貢献できればいいなと思います。

池澤 企業との共同研究になると環境も対象も変化するので検証が難しい面もありますが、レスポンスがある点ではやりがいがありますね。

増木 そうですね。最終的に研究の成果が人の役に立つことがすごく大事だと思います。

池澤 今後の研究について何か他に考えていることはありますか?

宮川 制約付き最適化問題のための「進化計算」の研究で今後も継続して成果を出し、"制約付きといえば宮川”といわれるような研究者になりたいと思っています(笑)。

増木 私の場合は、健康維持は歩いた数ではなく、“運動強度が大事”という概念を、常識にできたらいいなと思っています。私たちの開発したスマートフォンアプリで、誰でも簡単に、個人の目標レベルの強度を把握しながら楽しく運動できるよう、「インターバル速歩」を核にした新しい予防医学を確立できたらと思います。

二つ目のトークテーマ
これからの未来、産学連携はどう変わっていく?

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池澤 ここからはこのテーマで。増木先生はこれまでにも産学連携を実践しておられますが、どんな風になっていくとお考えですか?

増木 そうですね。私達の研究は共同研究でないと成しえなかったものです。例えばカロリー計やアプリの開発などは全て企業に協力していただきました。少しの運動で最大限の効果を得たい、というのは誰でも思うテーマですので、今は、その効果を高める食品に関する企業や、運動量による健康の未来予測ができることに注目した保険会社などと連携をさせていただいています。

池澤 今まで産学の連携で難しかった点はありますか?

増木 そうですね。企業の方と大学の研究者では、結果が出るまでのスパンに対して考えに差があります。企業の方は半年程で結果を出したいと思われるかもしれませんが、順調に進めたとしても実際には実証実験をし、論文を通し、認められるまでには長い時間がかかります。長期的なスパンに立って一緒に研究を進められたらいいなと思いますね。

池澤 宮川先生は、どうお考えですか?

宮川 そうですね。私の研究は産業分野と相当親和性が高いように思いますし、幅広く応用可能な内容なので、今後は積極的に企業とも連携していきたいと思います。

池澤 どうやったら自分の研究とマインドが合う企業が見つかるのでしょうか?

増木 そうですね。まず、研究者が自分の研究のエビデンスに基づいたデータを蓄積していくことと、それを積極的に外部発信することが大切だと思います。

池澤 アウトプットする上で(企業の方に)わかりやすさも重要かなと思いますが、基礎研究では少し難しい点もありそうですね。

宮川 そうですね。基礎研究では普段、学会などで研究者向けに発表しているので、今日の見本市のように企業と研究者をつなぐマッチングの機会があるととても伝わりやすいのかなと思います。

池澤 企業と大学が協業する上で、企業の販売分野と大学の研究分野で考え方にズレが生じることもあるかと思うのですが、そこを埋める工夫などはありますか?

増木 そうですね。研究者側はその研究を社会に実装したときにどのように役に立つかを常に意識している必要があると思います。実際、企業さんと共同開発した製品があまり売れず(笑)疎遠になってしまった、ということもありましたが、うまくいけば社会への広がりは大きいですし、お互いの立場を理解しあい進めていければいいなと思います。

池澤 市場で売れるということにはなかなか難しいこともあるのですね。

増木 ただ企業単体の研究開発と比べ、大学は社会的に中立の立場にあるので、大学と共同で行った研究は、対外的なエビデンスが重みのあるものになると思います。企業の方にはそうした価値も感じていただいて大学を利用して欲しいと思いますね。

池澤 企業と共同研究を行ってよかったことはありますか?

増木 そうですね。私達は研究するために研究費が不可欠ですが、公的な資金は期間が短いことも多く、企業は長期的にサポートしていただけるのでとてもありがたく、支えていただいているなと実感します。

宮川 研究者は研究内容に関する知識はたくさんあっても、現実の問題点は企業の方が詳しい、ということも多いので、連携することでよりお互いの強みをしっかり活かしていけると思います。

池澤 企業との共同研究件数の多さは信大の特徴のひとつと伺いました。信大の産学連携が今後ますます活発になっていけばいいですね。
今日は、どうもありがとうございました。 

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タレント兼エンジニア
池澤 あやか さん
1991年東京都生まれ
2006年第6回東宝シンデレラ審査員特別賞受賞
2014年慶應義塾大学環境情報学部卒業
2019年4月からはNHK Eテレ趣味どきっ!「そろそろスマホ」の講師を務める
公式ツイッターアカウントは@ikeay

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信州大学先鋭領域融合研究群
バイオメディカル研究所
ニューロヘルスイノベーション部門
増木 静江教授
2003年信州大学大学院医学研究科修了
2018年信州大学学術研究院(医学系)教授

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信州大学工学部 電子情報システム工学科
宮川 みなみ 助教
2016年電気通信大学大学院情報理工学研究科修了
2019年信州大学学術研究院(工学系)助教

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