信大特許Vol.5 活性酸素で油が微生物のごちそうに
クロロフィルで油を分解!
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活性酸素で油が微生物のごちそうにクロロフィルで油を分解!

 土壌や河川を汚染した石油系オイルの除去は、非常に大変な作業です。工場などから重油が漏れ海や河川が汚染されるケースがまず想定されますが、そのほか、新潟市など、かつて石油の産出地域として知られた地域では、今でも重油が自然に土壌に染み出できてしまうこともあります。
 石油系オイルの除去には、吸着パット(吸着剤)や微生物を用いた方法などがありますが、今回ご紹介するのは、植物に含まれるクロロフィルを使った新手法。信州大学の伊原正喜学術研究院(農学系)准教授の研究によりその有効性が確かめられました。環境にもやさしい新技術として期待が寄せられています。

(文・柳澤 愛由)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第121号(2020.1.31発行)より

この記事の内容は、映像でもご覧いただけます。(信大動画チャンネルより


油による土壌などの汚染は浄化するのがとても大変

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伊原 正喜
信州大学学術研究院(農学系)准教授
大学院総合医理工学研究科生命医工学専攻
農学部農学生命科学科生命機能科学コース
先鋭領域融合研究群バイオメディカル研究所
2002年京都大学大学院工学研究科修了(工学博士)。日本学術振興機構特別研究員、理化学研究所、東京大学などを経て、2009年10月より信州大学農学部に着任。2018年より現職。タンパク質や酵素を改造し、光合成生物の物質生産能力を高める技術開発に関わる研究を進める。

 土壌や河川を汚染した石油系オイルの除去には、吸着パットを使った方法や、微生物の散布による分解といった方法が知られています。しかし吸着パットによる除去は、手間がかかる上、廃棄コストも大きいことが課題でした。一方、微生物を散布するだけでは、油が完全に分解・浄化されるまでに1~2か月間かかることもあり、長期間、汚染の影響が続いてしまいます。また微生物の働きを活性化させる物質を与えなければ、思ったような効果が期待できないこともあります。
 これらに対して、クロロフィルを用いる方法ならば、流出した油をたった数時間で分解・浄化することができます。

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油による土壌などの汚染

 「クロロフィルとは、植物や藻などに含まれる緑色の色素のこと。天然物を用いた技術ですから、環境負荷も少なく、従来の方法に比べ、各段に短い期間で浄化が可能です」(伊原准教授)
 やり方はとても簡単。油分を除去したい場所にクロロフィルを散布し、太陽光などの光を照射するだけです。光が届く場所であれば、水中や路面上など、さまざまな環境下で効果が確認されています。

クロロフィルにより活性酸素が発生し、油が酸化されていく

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 その仕組みはいたってシンプル。クロロフィルは光が当たることで活性酸素を発生させる性質があります。この活性酸素の作用で油が酸化し、分子構造が変わります。すると自然界にいる微生物に分解されやすくなります。そのため、従来の方法に比べ短時間での浄化が可能となるのです。さらに伊原准教授は、精製品のクロロフィルではなく、粗く抽出したクロロフィルでも有効であることを実証しました。
 先述した通り、クロロフィルは藻類や植物などから抽出できるため、資源量は豊富です。実用化間近の画期的な特許技術であるといえます。

クロロフィルを散布、光を当てるだけという簡単さ

 伊原准教授による実験の様子を見てみましょう。水に浮かせた数滴の油に対し、水に混ぜたクロロフィルを霧吹きで吹きかけ、投光器で光を照射します。すると2時間ほどで油が微生物で分解されやすい構造に変化。油分は完全になくなり、成分的にも2日程で完全に無害になりました。
 「実験では、油1000分子に対し、1分子程のクロロフィルを投与しています。油の分子構造が変化するのにかかる時間は、わずか数時間。分子構造が変化した油は微生物にとって食べやすいごちそうですから、その後は自然界の微生物が分解し、無毒化してくれます。クロロフィルという天然物を使い、自然界の浄化作用を加速させる方法だといえます」(伊原准教授)
 また、クロロフィルは油の凝集性を低下させることも分かっています。凝集していた油が分散し細かくなることで、より微生物が取り込みやすくなり、分解されやすくなります。分散材(界面活性剤)を使って油を細かく分散させる方法もありますが、環境への負荷が大きいことが課題でした。これまでも述べてきた通り、天然物であるクロロフィルであれば、環境への負荷は大幅に小さくできます。
※実験で使用したクロロフィルは蚕の糞から抽出した物を使用しています。

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1.油にクロロフィルを吹きかける

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2.光を当てる

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3.段々溶けていく(分解される)

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4.数時間後、油はほぼ溶けていた

多目的な用途に使える!油分解製品製造メーカー募集中!

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ビニールハウスやコンテナハウスでの藻類栽培

 この技術を応用すれば、工場内でのオイル漏れ処理、オイルタンクの洗浄、畜産・農業現場の殺菌、外壁に付着した苔や藻の除去など、さまざまな用途に使うことができます。
 現在、特許技術の実用化に向け、クロロフィルを用いた油分解製品を共同開発する製造メーカーを募集しています。自然の力を引き出しながら汚染環境を浄化する、人と環境に配慮した特許技術であり、SDGsに掲げられたいくつもの目標に貢献する新しい製品開発が期待できます。
 伊原准教授は藻類バイオマスを利用したバイオ燃料生成を専門にする研究者であることから、低コストでのクロロフィル大量生産の実現にもつながる、藻類栽培などを通じたバイオマス調達の研究も同時に進められています。
 この特許技術を使って、未来のための新製品を作ってみませんか?

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