信州産ソルガムに魅せられて。~信大発ベンチャー「AKEBONO」の挑戦〜                 産学官金融連携

新しい信州の特産品、バイオマス発電…食を通じて目指す循環型地域社会!

ソルガムきび(別名:タカキビ・コーリャンなど)

 長野県で「ソルガム」といえば、信州大学工学部や長野市七二会(なにあい)地区の名が連想されるほど“市民権を得た”雑穀。そのソルガムが今、バイオマス発電の原料や、信州の新しい特産品として、循環型地域社会実現の鍵を握る食物となり注目されています。その研究をリードするのが信州大学工学部と信大発ベンチャー「AKEBONO」。同社の井上 格代表取締役社長とソルガム研究の第一人者、天野良彦副学長に、ソルガムの魅力を伺いました。(文 中村 光宏)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第134号(2022.7.29発行)より

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信州大学副学長(拠点形成担当)
工学部長・学術研究院(工学系)教授
天野良彦(あまの よしひこ)
1994年信州大学大学院工学系研究科博士後期課程修了、2010年信州大学地域共同研究センター長、2018年信州大学学術研究院工学系長・工学部長、2021年信州大学副学長(拠点形成担当)。

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AKEBONO(株) 代表取締役社長
井上 格(いのうえ いたる)
信州産ソルガムの発展のために早稲田大学大学院(物理学専攻)修了後、総合商社にて海外営業職(アジア地域担当)に従事、2018年12月信州産ソルガム普及促進協会設立、2019年8月AKEBONO(株)設立、2019年、経済産業省主催の全国創業選手権にて中小企業庁長官賞を受賞。

工学部発祥のゆえんとは

 ソルガムきび(以下、ソルガム)という植物をご存じですか?タカキビやコーリャンとも呼ばれ、かつて飼料として栽培されていたこのイネ科の穀物は、リラックス効果や血圧を下げる効果があるGABAや抗酸化作用を持つポリフェノール、食物繊維などが豊富なだけでなく、グルテンフリーでアレルゲンフリー。成長も早くて病気や乾燥に強く栽培が容易。山間部や中山間地の急傾斜地にある耕作放棄地でもよく育つため、今、改めて見直されている植物です。
 そんな夢のような穀物を、2008年からバイオマス素材として研究を始め、ソルガム研究の第一人者と呼ばれているのが信州大学工学部長でもある天野良彦副学長。経済産業省や長野県高山村、そして長野市の支援を受け、ソルガムを使って今まさにSDGsの名の元に脚光を浴びている持続可能なエネルギーの開発に従事されてきました。ソルガムという植物の研究が農学系ではなく、工学部が発祥で今なお主導するゆえんはそこにあります。

信州産ソルガムの発展のために

 信大発ベンチャー「AKEBONO」は2019年8月に設立された、そんなソルガムなど長野県産食材による食品の製造・加工・販売を目的とした会社です。ベンチャー認定は2020年のこと。以来、信州産ソルガムの発展に尽力してきました。代表の井上さんは2018年に長野市地域おこし協力隊に着任。翌年からの1年間は食の発展の核となる人材と技術の育成を図るプログラム「ながのブランド郷土食」の社会人スキルアップコースを履修。そこでの学びを元にAKEBONO(株)を起業された人物です。「きっかけは子供の小麦アレルギーでした。米粉にも飽いた我が子のために色々と調べてみると、同じように苦しむ子供が20万人もいたんです。そんな子供たちに食事を楽しんでもらいたいと考えていた時にソルガムに出合ったんです」(井上社長) 
 勤めていた総合商社を辞して長野に移住。ソルガム普及のための地域おこし協力隊に入隊した井上さんは、知れば知るほどソルガムに魅了されていったそうです。「 新しい利用法を研究されている天野先生との出会いは決定的でした。今はもう信州にどっぷり(笑)。当社の事業は3本柱でソルガム製品の開発、販売とそれ以外の雑穀、最後の柱が穀物を問わず長野県産、信州産の商品の普及、販売なんですよ」

実は世界5大穀物のひとつというメジャー性

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たわわに実を付けたソルガム。収穫後の茎はキノコの培地となり、バイオマス発電用のメタンガス原料へと姿を変えていきます。そして最終的には、その残渣は肥料となって次のソルガムを育てます。

 現代のスーパーフード、ソルガムは、実は世界に4000種類以上もあるそうです。「長野だけでも西山地区のもちきびや南信濃遠山郷のおおみだれなどソルガムと呼べる品種は数多くあります。実は世界5大穀物のひとつで、欧米ではポピュラーな食べ物なんですよ」(天野副学長)。しかし副学長が着目するのは、穀物ではなくバイオマスとしてのソルガム。そこで、キノコの菌の研究というライフワークから発案したのが茎を使ったキノコの培地でした。「 現在はトウモロコシの芯をペレットにしたコーンコブが多く、ほとんどが輸入です。それを国産に戻したい。一方ソルガムは、成長が早くて病気に強い。水もそれほど必要ないので栽培が容易。だから収穫後の茎をカスケード利用して培地にできれば地産地消だし、輸入資金を地域に還流できると考えました」(天野副学長) 
 さらに天野副学長は、使用後の培地と食物残渣でメタンガス発酵させ、そのガスで電気と熱を得るというバイオマス発電の絵図を引きます。発酵済残渣は肥料として再び農業資材に戻るというストーリーで、持続可能な循環型地域社会のモデルをつくり上げたのです。
「 そんな時に長野市から耕作放棄地の有効利用の相談を受けたんです。ソルガム栽培は地球温暖化対策にも効果的で、すぐにプロジェクトが始動しました。その時からの栽培地で、今なお地区を挙げて協力してくれているのが七二会地区です。ここは過去にソルガムの一種、もちきびを栽培しており、その経験も助けになっています」

美味しい信大発新品種が誕生間近

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子供に喜んでもらうための「ソルガムドーナツ」は最近のヒット商品。井上社長自身の経験が活きています。現在はリニューアルを予定。
写真提供:AKEBONO株式会社

 理論的には実現可能となったソルガムによる循環型地域社会モデル。しかしまだ、大きな問題が横たわっています。「 エネルギーだけではコストが合わないんです。長野市のソルガム畑は約9㌶ですが、バイオマス利用としての採算を考えると1000㌶は必要です」(天野副学長)。だから現在は、食用としての普及に注力し、増産体制を整えているとお二人は話します。天野副学長は過去、最優秀賞「ソルガムなっとう」などが話題となった「ソルガムきび健康食品コンペティション」も企画し、以降多くの加工食品が生み出されています。飲食トレンド製品の展示会「FOODEX JAPAN」に出展したことも。
 井上さんも「クッキー、チーズケーキ、ワッフルなど小麦の代替菓子の開発を進めています。中でも売れ始めているドーナツは、近々パッケージデザインを一新し、拡販したいと考えています」と加工品開発に自信をのぞかせます。現在はほぼ大豆が使用されている代替肉にも挑戦。試食会でも高評価で、販売まであと少しだそうです。
 そして、お二人にはさらなる秘策も……。「現在、品種登録を申請中なんですが、農学部の春日重光教授が収穫しやすい草丈で実が多く、餅系の食感で美味しいという固有品種をつくり出したんです。私も、小規模なバイオマス設備を準備して、ソルガムによる循環型地域社会モデルの試験運用を計画中です」(天野副学長)
 アレルギーフリーなスーパーフードというだけでなく、食べて良し、エネルギー活用して良し……循環型社会の実現に一役買う信州産ソルガム。この雑穀が家庭生活で日常的に身近に感じられる日もそう遠くないかもしれません。

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井上社長が、次の一手と意気込む最有望株がソルガムの代替肉利用。現在の代替肉市場はほぼ100%が大豆肉ですが、ソルガムでも十分に代替可能だと言います。ちなみに右写真中央が、ソルガム代替肉を 使用したハンバーグの試作品。
写真提供:信州産ソルガム普及促進協会

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