現役医師による 新スタイルのトレーニングジム、 予防医療の「医者ジム」が話題!産学官金融連携
信州大学発スタートアップ企業 MedSciSportLab(医者ジム)
医学部卒業生の内田晃司さんが2022年にオープンした「医者ジム」。松本市内にあるこのジムは、医師が利用者それぞれの健康状態に合わせてトレーニング方法・食事メニューを考え、利用者の体質改善を支援する、全国でも類を見ないトレーニングジムです。現役の医師であり、信州大学発スタートアップ企業「MedSciSportLab」の代表を務める内田さんに、医者ジムが提供する新しいサービスとその可能性について聞きました。(文・平尾 なつ樹)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第153号(2025.9.30発行)より
MedSciSportLab(メッドサイスポーツラボ)代表取締役 内田 晃司(うちだ こうじ)さん PROFILE
医師のエビデンスに基づいたパーソナルな運動・食事メニュー
インターネットやSNSの普及により情報があふれている現代―。何が本当に正しいことなのか判断が難しいこの時代に、「エビデンスに基づき、現段階で最も適切であろう運動メニュー・食事メニューを伝えたいと思ってこのジムを開設しました」と内田さんは話します。医者ジムには、体のどこかが痛む人、健康的に痩せたい人、健康診断等で何かしらの指摘を受けた人など、さまざまな利用者が来るといいます。こうした方々に対し、予防医療を専門に研究している内田さんは、最新の医学的見地から、一人ひとりの健康状態にあった運動・食事メニューを考え、利用者の体質改善を支援しています。
「有酸素運動・筋力トレーニング・食事を3本の柱として、体質や疾患に合わせた最適なメニューを組んでいます」と内田さん。どういう疾患の時に、どこの筋肉を鍛えるのが良いのかを考え、時には論文の情報も精査しながら、最も効率が良いと思われるトレーニングメニューを利用者に提案しているそうです。
さらに、トレーニングメニューを提案して終わりにするのではなく、1週間に1度、利用者と面談の機会を持ち(リモート面談含む)、トレーニングの進捗度合いを確認しながらアドバイスを行っているとのこと。一人で行うトレーニングはモチベーションを維持することが壁になりがちですが、利用者に寄り添う“伴走型支援”を行い、モチベーションを保つためのサポートをしています。
ジムを訪れなくても大丈夫!リモートトレーニングも可能
医者ジムでは、直接訪れてトレーニングすることも可能ですが、それ以外の場所で行う「リモートパーソナルトレーニング」も推奨しています。利用者にスマートウォッチを付けてトレーニングをしてもらうことで、カロリー消費量や心拍数、血中酸素レベルなどの様々な値を確認できるため、ジムを訪れずとも状況を把握できるのです。このため、松本市外はもちろん、県外から医者ジムを利用している方々もいらっしゃるといいます。
食事においては、3食すべてのメニューをアプリに記録してもらい、どんな栄養が足りず、どんな食材をとる必要があるかをアドバイス。「負担感がなく続けてもらえるように、各々が実現できそうな食材の取り入れ方を考えて指導しています」と話します。
オプショナルサービスで、管理栄養士による1週間のレシピも提供しているそうですが、メニューを実際に作るための“まとめ買いリスト”まで提供しているというのだから、サービスの細やかさに驚かされます。
「医者ジム」で予想した以上の大きな変化を目の当たりに
「病院を訪れる“患者”となる前の段階に介入して、病院に行かなくても良いひとを増やしたい」という思いから医者ジムを造ったと話す内田さん。
実際に医者ジムを始め、前述したようなメニューを提供する中で、その効果の高さに「自分でも驚いている」と話します。
「3か月に1度の外来診療に来てもらうだけではほとんど変化しないという方を多く見てきました。でも、医者ジムでメニューを組んで、1週間に1度面談しながら支援を続けていくと、こちらが想像していた以上に体が変わっていくんです」。
利用者の中には、血糖値が下がった人、糖尿病の薬を減らすことができた人、血圧が下がった人、骨密度が上昇した人までいるといい、自身が予想していた以上の変化に「病院では経験できないことでした」と実感を込めて話します。
医者ジムのように、医師が実際に利用者の様子を確認しながらトレーニングを支援するサービスは、国内で他に例を見ないといいます。予防医療のための公的な機関がほとんど存在しないのです。しかし、実際は病院側からもこうした需要はあるそうで、松本市内で不妊治療を実施している病院2件との連携が今年から新たに始まったといいます。加えて、人間ドックをメインにしている病院との連携も予定しており、健診での数値が思わしくない方の受け皿になったり、運動・食事による不妊リスクの改善にも今後取り組んでいく予定です。
データベース拡充から医療費や保険料負担の軽減へ広がる可能性も
医者ジムにおける利用者の変化に、時として薬以上の効果を実感しているという内田さん。「薬に頼りたくない人や、病院の薬では効果が出なかった人にも通用し得る、将来性のある事業だと思っています」と語り、今後の展望についても教えてくれました。
食事内容・運動量から利用者の身体的な数値がどのように変わっていったのかというデータを蓄積することで、「アカデミック分野への進出」という展開も視野に入れているそうです。
実は現在、別の研究者から医者ジムのサービスをシステムに組み込んだ研究をしたいという申し出があり、科学研究費を申請中だといいます。これが実現すれば、データベースの飛躍的な拡大も見込めます。それによって、「より確証度の高いメニューを推奨したり、過去の論文に頼らずに自前のデータからメニューを考案することもできます」と期待を込めて話します。
また、国の医療費が増え続けるなかで、予防医療によって実際に医療費が下がったという結果が出れば、市町村等の行政と連携できる可能性も見えてきます。現在日本では、平均寿命と健康寿命との間に10年ほどの幅があります。「自宅で楽しく老後を過ごせる人が増えるように」と、内田さんが口にする願いは、この国の多くの人々の念願でもあります。
大きな可能性を秘めた内田さんの新しい挑戦が、今後どのような広がりと変化を生んでいくのか―今後の展開に期待が膨らみます!
※信州大学の職員を対象に、2025年10月から2026年3月までの半年間限定で、1ヶ月5,000円(通常2万5,000円)で医者ジムのサービスを受けられるキャンペーンを実施中。