信州大学次代クラスター研究センター「社会基盤研究センター」産学官金融連携

信州大学次代クラスター研究センター「社会基盤研究センター」

信州大学次代クラスター研究センター「社会基盤研究センター」

 信州大学は平成28年10月、本学の特色ある研究分野を先鋭化した先鋭領域融合研究群(5研究所)の次の研究所を目指す5つの「次代クラスター研究センター」を設立しました。シリーズ3回目の今回は「社会基盤研究センター」をご紹介します。
 社会基盤研究センターは、①法制企画部門、②経済産業部門、③地域ブランド部門、④地域計画部門の4つの部門によって構成されており、経法学部を中心に、人文学部、医学部、繊維学部、農学部など、文系・理系の学際の枠を超え、研究者が集結した研究センターです。
 社会基盤研究センターが対象とするのは、地域社会。そのミッションを端的に表現すると「データの分析・解析を通じて社会課題のソリューションとその仕組みのモデル化を図る」ことといえます。地域社会の中に溢れる膨大かつ多様なデータを集積し、社会科学、自然科学などの各分野の手法を用いて分析、解析、活用することで、地域が抱える課題を解決に導く道筋が見えてきます。また、社会基盤研究センターの各部門が、地域のテーマごとに、部門間、または産学官連携でコンソーシアム的な組織をフレキシブルに立ち上げ、プロジェクトや研究を進めていくというアメーバ的な性格も持っており、扱うテーマは今後ますます多彩になっていくことと思います。
 「地域社会が抱える課題は、ひとつの分野だけでは解決することはできない。名称に『社会基盤』という言葉を使ったのは、地域社会の基盤を築くあらゆる研究分野の専門家が集まり、幅広い提案を行っていきたいと考えているため」と、センター長の丸橋昌太郎学術研究院(社会科学系)准教授は語ります。今回、社会基盤研究センターの部門長会議にお邪魔し、そこで、具体的なセンターのミッションや取り組みなどを伺いました。そのうち具体的な例として、今回は「信州ワイン」のブランド確立のための事例をご紹介します。

(文・柳澤 愛由)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第105号(2017.5.31発行)より

まず千曲川ワインバレーで「信州ワイン」ブランディング

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(※図2 長野県内のワインバレー特区
「千曲川ワインバレー特区連絡協議会」は千曲川流域一帯の8市町村からなり、県内でも先駆けてワ インバレー構想が打ち出された地域。現在、10社のワイナリーがある)

 意外に知られていないのですが、長野県はワイン醸造用のブドウ栽培適地。ワイン用ブドウの生産量は全国1位(※農林水産省統計)を誇ります。同調査によるとワインの出荷量は全国6位なのですが、ワイナリーの数では全国2位。近年、その立地を活かした個人経営のワイナリーも増えており、県を挙げて「信州ワイン」のブランド化が進められています。その一環で、長野県では4つの地域からなる「信州ワインバレー構想」を策定。そのひとつに、「千曲川ワインバレー特区(図2)」があります。
 社会基盤研究センターの目標のひとつとしては、この千曲川ワインバレーの中核となるワイナリーと連携し、ワイン生産に関するデータの解析やマーケティング調査などを通じ、「信州ワイン」のさらなる付加価値の創出と販路拡大を目指します。
 さらに特色のひとつに、平成28年8月に信州大学経法学部が東御市に新設した「千曲川ワインバレー分析センター」とも連携しており、圃場の土壌分析やブドウの糖度、熟度などの成分データの解析を通じてワイン生産に関わる科学的エビデンスを蓄積しています。同時に、教育(経法学部)+研究(社会基盤研究センター)という役割分担で、地域課題と向き合える専門性を持った人材育成にも取り組んでいきます。

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千曲川ワインバレーで栽培されるワイン用ブドウ
(写真提供:東御市産業経済部農林課)

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千曲川ワインバレーで生産されたワイン
( 写真提供:(株)ヴィラデストワイナリー)

IoTを活用した地域ブランド創出の新スキーム構築

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(※図3 世界の消費の裏側でおこる絶滅危惧種への影響を、世界経済モデルと絶滅危惧種のデータ(レッドリスト)というビッグデータを組み合わせて、マップ上で可視化するという研究手法)

 また、同時に総務省の「IoTサービス創出支援事業に係る委託先候補」に、長野県等とともに申請した平成29年2月「IoTを活用した地域ブランド創出スキームの構築~千曲川ワインバレー特区におけるワインの地理的表示取得に向けて~」が採択されました。
 人工知能(AI)や環境モニタリングなど、近年、IoTから生み出される新しいサービスやビジネスが急成長しています。しかし、農業分野でのIoT活用は、まだまだ発展途上。各種データ利活用のルール整備も未成熟です。
 このプロジェクトでは、千曲川ワインバレーをフィールドに、IoTを活用し、ワイナリーや生産者から得た生産過程データと、圃場の気象データとの相関分析などを行うことで、ブドウの品種、圃場ごとの特徴を導き出し、やがては、科学的データに基づき「適切な防除や収穫タイミングの予測サービス」の提供、「ワインの地理的表示制度における地域特性判断基準の明確化」など、地域ブランド創出のための新しいスキームを構築します。
 また、副センター長を務める経法学部の金本圭一郎学術研究院(社会科学系)講師は、平成29年1月に、世界的に話題となった「経済が及ぼす生物多様性、絶滅危惧種への影響を世界地図で視覚化」(図3)に用いたサプライチェーン研究を活用して、次世代的な付加価値、新たな地域ブランドの創出を図っていきます。
 社会基盤研究センターは、こうした世界規模のビッグデータを取扱う研究者の視点を地域に向け、数理的知見を通した地域課題の解決を図っていく場であることも大きな特徴のひとつです。さらには心理学や感性工学的手法も用いることにより、データ分析結果をいかに公表すれば消費行動に結び付くのか、といった社会実験的な検証も想定されています。まさに、社会科学と自然科学の融合的研究といえます。

東京大学 先端科学技術研究センターを強力なパートナーとして

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社会基盤研究センター センター長
学術研究院 社会科学系



准教授 丸橋 昌太郎

 国立大学が、地域を中心とするL型、グローバルに展開するG型に分け評価される動きがある中で、社会基盤研究センターが、グローバルな研究を地域に還元し、また地域の研究を世界に発信することを目指したいと考えている一方、東京大学先端科学技術研究センターも先端研究を地域に還元することに高い関心を持っており、両者の思惑が一致した形でパートナーシップを組むことになりました。
 特に東京大学先端科学技術研究センターの玉井克哉教授には、その研究・教育の中核となるべく、経法学部総合法律学科と人事交流(クロスアポイントメント制度)を始め、自らのブランド研究の中核を担っているほか、大町市の「水」ブランド研究について、東京大学先端科学技術研究センターの水研究の専門家である小熊准教授の参画をコーディネートするなど、東京大学と信州大学の架け橋となっていただいています。

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データ利活用などにからむ契約や法整備、運用ルールづくり

【法制企画部門】

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法制企画部門 部門長
学術研究院 社会科学系



准教授 大江 裕幸

 「データには様々な可能性がありますが、そこには必ず機密保持契約や知的財産の保護、利活用のルールづくりが求められます。逆に、既存の法制度がデータの利活用の支障となっているケースもあります。法制企画部門は、データの活用には付き物の法整備やルール作りを行うため、法的アプローチから研究を俯瞰し、法律的な課題はないか、またはどのような法的整備が必要かなどを検討していきます」と部門長の大江裕幸学術研究院(社会科学系)准教授は話します。
 例えば、ワイン生産で蓄積されたデータを、地域特性を表す基準として表示したりする場合や、生産者や企業が持つ生産情報をオープンにしていく場合、その契約方法、さらには取扱いのルール作りなどの整備が不可欠です。
 千曲川ワインバレーを対象とした研究では、地域データを利活用した事業の法的モデルケースを作っていくことになるといいます。データ利活用に限らず、地域社会が抱える様々な課題に対して、法的なアプローチによって、将来を見据えた事業展開を模索していく部門です。

ブランド価値の向上と人・社会を動かす仕組みづくり

【地域ブランド部門】

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地域ブランド部門 部門長
学術研究院 総合人間科学系



准教授 林 靖人

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地域ブランド部門は、人文学部、教育学部などの心理学系の教員が中心メンバーです。「『社会基盤』のもととなるのは人間の動き。何を付加価値として捉え、どのように人は動くのかを科学するのが、我々の分野です」と部門長の林靖人学術研究院(総合人間科学系)准教授は話します。
 地域ブランド部門では、法律やデータ解析で他の部門が確立してきたエビデンスをベースにして、それらをどのように表現すれば人は価値を感じ、消費行動に移るのか、といったことを、科学的に測定して検証していきます。
 例えば、「フェアトレード」。社会的な課題を解決する目的ではありますが、すでにこれ自体がひとつの付加価値として捉えられています。その他にも、欧米ではエシカル・コンシューマリズム(環境や社会に配慮した工程・流通で製造された商品を選択し、そうでないものを選択しない)という考えが、意識の高い消費行動として認識されています。こうした、「次世代的な価値」ともいえるものを地域の中から拾いだし、その表現方法やプロモーション方法などを、心理学的手法から導き出すことで、新たな「地域ブランド」として確立させていくのが本部門の役割だといえます(図4)。
 千曲川ワインバレーを対象とした研究では、従来のラベリング制度では取り扱われていなかった環境負荷へのエビデンスや新たな成分的優位性などが、消費者にとって次世代的な価値を感じさせるものとなるのかどうかを、実験的に検証していきます。

複合的な地域計画の成功事例を研究

【地域計画部門】

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地域計画部門 部門長
学術研究院 農学系



准教授 上原 三知

 地域計画部門は、農学部を中心に、流域保全、造園学、建築、経済地理学、農業経済学などを専門とする教員が集まる、まさしく社会の空間的基盤となるテーマを扱う部門です。
 特に、近年注目が集まる災害にも対応できる街づくりは主要テーマのひとつ。自然災害が多い長野県では特に、レジリエンス(回復力・抵抗力・復元力などの意)の高い土地利用モデルの確立が求められています。
 「海外ではグリーンインフラストラクチャーという自然の防災や水質浄化などの力を活用した再開発により、地域の課題の解決と新しい街づくりを両立する手法が注目されています。こうした海外の事例などを自治体などに情報発信しながら、複合的な町づくりを進めることで、空間的観点からの地域ブランド化、地域の魅力づくりにも寄与したいと考えています」と部門長の上原三知学術研究院(農学系)准教授は話します。
 他にも、英国の研究で、身近な公園緑地を利用しやすい地域ほど病気の罹患率が低く、医療費が低いという研究事例があります。こうした、街づくりや地域計画的な観点を通して、地域の医療課題と、森林の未活用を総合的に考える自治体との共同研究を期待します。

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 取材協力いただいた信州大学学術研究・産学官連携推進機構リサーチ・アドミニストレーション室の鳥山香織助教。社会基盤研究センターの活動をURAとしてサポートする。

※取材後に、新たに「地域医療部門」が設置されることになりました。より充実した学際研究を目指していきます。

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