信州大学発ベンチャー企業特集 森を空から情報化する会社!産学官金融連携

ICT×林業=「スマート精密林業」を日本林業のスタンダードに―

信州大学発ベンチャー企業特集 森を空から情報化する会社!

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 ドローンの誕生、レーザセンシング、ICT技術の向上により、林業の現場に大きな変化が生まれつつあります。これまでは人力で膨大な労力と時間を費やした森林の調査や管理に新しい計測技術が普及し始めていることがそのひとつ。ICTなどを活用して得たさまざまな情報を駆使して、効率的に森林管理を行う林業のことを「スマート精密林業」といいます。
 その日本におけるトップランナーの一翼を担うのが精密林業計測(株)。信州大学農学部の加藤正人教授が開発した新しい計測・データ解析技術を林業の現場に普及させていくため、平成29年5月に誕生した農学部発ベンチャーです。
 代表を務める竹中悠輝社長と、その恩師で同社技術顧問も務める加藤教授に、現在の事業や今後の目標、日本林業の未来についてお話を伺ってきました!
(文・柳澤愛由)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第112号(2018.7.31発行)より

森林調査に「ドローン」という救世主!

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平成30年6月25日、第1回大学発ベンチャー認定称号授与式が行われ、精密林業計測(株)を含む法人10社が正式に「信州大学発ベンチャー」として認定を受けました。(写真後列右から二人目が竹中社長。)

 林業において必要不可欠な森林調査は、そのほとんどが人力で行われています。立木の位置や本数、樹種の分別、樹高の計測など、笹薮が繁茂した中、目視で行わなければならない森林調査は、多大な調査コストがかかる上、危険も伴うハードな作業。しかし、人力ゆえに、その精度は必ずしも高くはありません。「地上からの森林調査をせずに、空から森林の状況を把握できたら―」。林業従事者や森林官が夢見ていたことが、今、さまざまな技術革新により、現実になりつつあります。
 「これまであいまいだった森林資源情報も、ドローンレーザや衛星画像、航空写真などを使えば、より正確で効率的に測り、解析することができるようになります。加藤先生が開発した、こうした新しい森林計測・解析技術を使うために生まれたのがこの会社です」と代表取締役の竹中悠輝さん。
 精密林業計測(株)が主な事業としているのが、ドローンによる森林のレーザ計測とデータ解析。傾斜地を含む5ヘクタールほどの森林を地上から調査する場合、人力では3人で10日ほどかかりますが、レーザ計測器を搭載したドローンであれば、15分程の自動飛行と1週間程度の解析期間で、撮影範囲全域について客観的でより精密に森林情報を得ることができます。
 特に、同社が強みとしているのが、独自の「データ解析技術」。例えば、高性能な産業用ドローンレーザであったとしても、空からの生データだけでは、密集した樹冠(※1)の輪郭が不明瞭であったり、下層植生が写ったり、どうしてもノイズが生じてしまいます。同社では、得られたデータのノイズを独自のプログラミングで除去し、正確な樹冠を1本1本抽出、さらに計算式などを用いて、樹高や太さ、材積など、単木ごとの森林資源量を算出する、というサービスを提供しています。こうした解析手法こそ、加藤教授が開発した特許技術です。
 「これまで、林業におけるレーザセンシングといえば、航空機を使った計測がほとんどで、県や市町村での広範囲の計測が主でした。ただ森林の間伐や伐採、植林などの施業単位は20ヘクタール以下の小面積であり、将来的に、小型で小回りのきくドローン計測が広がっていくと思います。信州大学が持つ特許技術を用いれば、ニッチな分野ではありますが、必ずビジネスになる。今後、個人の森林所有者や森林組合などの要望に対し機動力をもって対応することができれば、さらなるビジネスチャンスにつながると感じています」と加藤教授は期待を込めます。
(※1)樹木の上部で葉が茂っている部分

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ドローンによる精密計測で得た情報で作った1本ごとの精密樹冠図と、計算式で得た樹高や立木位置などの森林資源表

停滞する林業の突破口となるようなイノベーションが進行中

 現在の社員は、技術顧問の加藤教授を含め3名。竹中社長のほか、香港出身の留学生(総合理工学研究科修士課程2年在学中)でもある張桂安さんが技術主任を務めています。
 「『大学で学んだことを活かした仕事に就きたい』とずっと考えていました。もともとは公務員志望だったのですが、修士2年の頃、会社設立の動きが出て。研究していた技術自体とても実践的なものだと思っていましたし、ベンチャーの方が大学で学んだことを活かしていけると感じ代表就任を決意しました。大分悩みはしましたけど(笑)」(竹中社長)
 現在、主な顧客ターゲットとしているのは行政機関。すでに長野県や伊那市など、県内自治体との共同事業が進んでいるほか、岩手県、石川県、山口県など、県外からの問合せもあり、実演を交えた研修会や実証実験などを随時行っています。
 「ドローンレーザの普及はまだまだ進んでいません。この会社も始まったばかり。研修会を重ねながら、普及を進めている段階です。でも今後爆発的に広がっていく可能性があると考えています。この会社が大学の特許技術の受け皿となってくれていることは、技術普及にとって大きいことだと感じています」(加藤教授)
 長野県内では各森林組合にドローンを配置する動きも進んでいます。今後、安価な普及型ドローンを使った計測は森林組合などの林業事業者自身が行い、得られたデータの解析を同社が担う、というビジネスモデルも想定しています。さらに標高など、さまざまな地表データが取得できる高性能な産業用ドローンレーザの購入も決定しているそうです。普及型ドローンの場合は、航空レーザなどで得た標高などの測量データと組み合わせて解析を行う必要がありますが、この産業用ドローンであれば、航空レーザによる測量データが整備されていない地域や、小面積の森林でも計測が可能となります。さらなる事業の拡大が期待できるといいます。

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ドローン計測を実演している様子。ドローンを操縦するのが技術主任の張桂安さん(中央)。(提供:長野日報社)

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ドローンでの計測だけでなく、そこから得た画像やデータを解析し、森林の状況を可視化することが、竹中社長の仕事のひとつ

50年、100年先の豊かな森づくりのために

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 木材価格の下落、安価な外材の輸入や木材需要の減少、担い手不足や高齢化など、さまざまな課題を抱えてきた日本の林業は、長く産業として停滞を続けてきました。しかし、終戦直後から高度経済成長期に植林された日本の人工林の多くが、今、伐採適期を迎えています。木材資源量が増加している今だからこそ、「林業の成長産業化」が求められているのです。
 先人たちが未来の私たちに残してくれた森林資源。精密林業計測(株)が担う仕事は、その資源をいかに使い、そして50年後、100年後の未来へ、受け継がれてきた地域資源をいかにバトンタッチするかを考える仕事でもあります。「この技術で森林が正確に維持管理されていけば、50年後もきっといい森になっていると思います。未来を見据えて技術を普及させていくことがこの会社の役割だと思っています」と竹中社長。信州大学発の技術が、林業の未来を拓く確かな足掛かりを築き始めています。

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信州大学先鋭領域融合研究群
山岳科学研究所
学術研究院(農学系)教授
加藤 正人
1957年北海道生まれ。1996年北海道大学農学研究科博士課程修了。農学博士。2005年より教授。研究分野は森林計測・計画学。

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精密林業計測株式会社
代表取締役社長
竹中 悠輝氏
2013年信州大学農学部に入学。3年次から加藤正人教授のもとで森林計測の研究に携わる。修士課程2年在学中の2017年5月、精密林業計測(株)の代表取締役に就任。2018年3月信州大学総合理工学研究科農学専攻(修士課程)修了。2018年4月から信州大学総合医理工学研究科総合理工学専攻(博士課程)1年に在学中。

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