研究開発は新たな局面に アクア・イノベーション拠点(COI)第7回シンポジウム~膜開発の成果とアフリカ水環境への新しい展開~産学官金融連携

研究開発は新たな局面に アクア・イノベーション拠点(COI)第7回シンポジウム~膜開発の成果とアフリカ水環境への新しい展開~

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信州大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています

 安全な水を適正な価格で世界の全ての人々に-。海水、排水、表流水など、多様な原水から安全、安心な水を造り、最小の自然負荷で提供できるシステムの開発と事業化を目指す、信州大学アクア・イノベーション拠点(COIプログラム)。造水イノベーションを目指す本プロジェクトは7年目を迎え、ナノカーボン膜の研究開発は実証試験設備における実海水での評価試験を開始するに至りました。また、国際貢献を視野に、アフリカ・タンザニアにおいて地下水から高濃度のフッ素を除去し安全な水を安定供給するシステムの研究開発にも着手しました。2019年12月17日に、中心企業である株式会社日立製作所の中央研究所日立馬場記念ホール(東京都国分寺市)においてシンポジウムが開催され、研究成果の社会実装に向けて加速する開発の概況が報告されました。

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第121号(2020.1.31発行)より

PROGRAM

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12:00~13:00 ポスターセッション
13:00~13:15 開会挨拶 濱田 州博
         来賓挨拶 斉藤 卓也 氏(代読 西岡ましほ氏)、矢川 雄一 氏
13:15~13:30 プロジェクト説明 都築 浩一
13:30~15:00 研究概況報告
●高い耐ファウリング性と塩素耐性を有するカーボンナノチューブ/架橋芳香族ポリアミド複合逆浸透膜(CNT/PA複合RO膜)
 遠藤 守信
●スパコンを利用したCNT/PA複合RO膜の透水性のシミュレーション
 山中 綾香
●RO膜のファウリング機械学習モデルの構築
 前田 瑞夫
●CNT/PA複合RO膜モジュールを用いた実海水での淡水化実証
 大西 真人
15:00~15:20 休憩・ポスターセッション
15:20~16:20 研究概況報告
●タンザニアにみる飲料水源のフッ素汚染とその対策
 吉谷 純一
●表面重合膜で切り拓く分離・センシング機能
 木村 睦
●水大循環シミュレーションの応用展開
 高橋 桂子
16:20~16:35 アクア・ネクサスカーボン-プラットフォーム(AxC-PF)の構築
  上田 新次郎
16:35~17:15 招待講演 
●逆浸透法巨大海水淡水化プラント(メガ-SWRO)の時代到来-日本はどう対応するか
 栗原 優 氏
17:15~17:25 講評  佐藤 順一 氏
17:25~17:30 閉会挨拶  中村 宗一郎

【研究概況報告】カーボンナノチューブを複合―耐ファウリング性・塩素耐性に優れた「逆浸透膜」

 研究リーダーの遠藤守信特別特任教授は、各種ナノ材料を造水膜に応用して新機能の発現を目指す研究成果を紹介しました。
 膜を使った海水淡水化技術は、半世紀に渡るポリアミド(PA)水処理逆浸透(RO)膜の実績を背景に、更なる高性能化を目指す研究が世界的に広く展開されています。そうした中で遠藤教授の研究グループは、カーボンナノチューブ(CNT)などのナノサイズで炭素の構造を精緻に制御して得られるナノカーボンなどを用いて、PAと複合化して高性能RO膜を開発しました。
 とりわけ、PAとの界面重合の際にCNTを複合する新しい方法が確立されました。これまでの研究ではCNT含有量が最大でも0.1%程度だったのに対し、10~20%を含有させることに成功。これが、RO膜の活性層に多層CNTとPAを複合させた新開発の「CNT/PA複合RO膜」です。CNTが入ることで、透過する水分子の経路がより直線的になり高い透水性をもたらすほか、塩素耐性にも優れています。独特な膜内の電子構造や平滑な表面組織によって、汚濁物質が付着しにくくなることも大きな特長で、従来の膜性能を凌駕する新技術となりました。
 また、このようなナノカーボン膜の知見をRO膜モジュール構成部材として重要な原水スペーサにも応用し、防汚性に優れた原水スペーサも新たに開発。スパコンによる理論解析によって、膜、スペーサともにその優れた諸機能が証明されました。

【研究概況報告】海水の淡水化に挑む―九州で実証試験スタート

 日立製作所の大西真人氏は「CNT/PA複合RO膜」を用いた海水の淡水化実証試験の進捗を報告しました。プロジェクトでは海水淡水化のための脱塩処理に適用する、革新的なRO膜の開発を第一義として取り組んできたと説明。淡水化に際する技術面の課題を提示しました。
 海水淡水化施設では、造水コストの低減と省エネルギー化が求められるほか、安定的な稼働に向けては、膜の汚れ(ファウリング)をいかに抑制するかがカギになると話し、耐ファウリング性に優れた「CNT/PA複合RO膜」を使うことで課題をクリアできる可能性があるとしました。今後は従来の前処理設備などを簡略化することでプラントを軽量化し、システム全体のコストを現状の4割削減することを目指すとしています。
 2019年に北九州市の実証施設「ウォータープラザ北九州」で開始した実証試験では、現在、第一世代の膜をモジュール化して実環境に耐えられるかどうかを実験しているところです。

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【研究概況報告】汚染された飲料水源からフッ素を取り除く

 吉谷純一教授は、アフリカ・タンザニアの飲料水源が、特に村落でフッ素に汚染され住民の健康被害が生じている現状を説明し、統合水資源管理を通した水の安定供給の必要性を訴えました。
 地質由来の高フッ素濃度地下水はアフリカ大地溝帯など世界各地にみられ、飲用することで斑状歯や骨の変形、複雑骨折などの「フッ素症」を誘発します。世界保健機関(WHO)の推計では世界で約2億人が危機にさらされています。タンザニアは水源のフッ素汚染に加え、特に村落での人口急増に伴う水不足も深刻で、地下水資源の枯渇や非効率な水源開発もみられます。水の量と質を確保するためには、フッ素除去が必須です。タンザニア政府は骨炭を利用したフッ素除去法を開発しましたが、骨炭の大規模生産ができないために実用化は限定的。今後は現地材料だけで過剰フッ素を除去でき、電力網が未発達な村落でもアフォーダブル(現地適用可能)な吸着材とその運用システムを開発する必要があるとしました。

【招待講演】逆浸透法巨大海水淡水化プラント(メガ-SWRO)の時代到来―日本はどう対応するか

◇東レ株式会社フェロー 栗原 優氏

 2009年、内閣府の総合科学技術会議が創設した「最先端研究開発支援プログラム」で採択された「メガトン水システム」。省エネや低環境負荷、低コストで国際競争力のある大規模海水淡水化システムの基幹技術構築を目指すプロジェクトで、企業や大学が参加。1日当たり100万トン規模の「逆浸透法巨大海水淡水化プラント」の研究開発を行いました。
 これまでの研究により、20~30%の省エネ化と無薬注で信頼できる運転を可能にしたシステムを提案。造水コストについては1立方メートル当たり0.50ドルを達成できる目処がつきました。
 一方、ビジネスモデルとしては、プラント建設事業(EPC)からディベロッパー中心の民活型造水事業(IWP)にシフト。プラントのエネルギー源として太陽光発電も注目されています。こうした新しい状況にどう対応していくのかが今後の課題となるでしょう。

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左から、開会挨拶 濱田 州博信州大学学長、来賓挨拶 西岡 ましほ氏 代読(斉藤卓也 文部科学省科学技術・学術政策局産業連携・地域支援課長)、来賓挨拶 矢川 雄一氏 株式会社日立製作所研究開発グループCTI副統括本部長、プロジェクト説明 都築 浩一プロジェクトリーダー 株式会社日立製作所、研究概況報告 遠藤 守信研究リーダー 信州大学特別特任教授

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左から、研究概況報告 山中 綾香 高度情報科学技術研究機構 研究員、前田 瑞夫 理化学研究所前田バイオ工学研究室 主任研究員、大西 真人 株式会社日立製作所水・環境ビジネスユニットCTO、吉谷 純一 信州大学教授、木村 睦 サブ研究リーダー 信州大学教授

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左から、研究概況報告 高橋 桂子 COI-S研究リーダー 海洋研究開発機構 地球情報基盤センター長、プラットフォーム構築 上田 新次郎 エグゼクティブアドバイザー 信州大学特任教授、招待講演 栗原 優氏 東レ株式会社フェロー、講評 佐藤 順一氏 ビジョナリーリーダー、閉会挨拶 中村 宗一郎 信州大学理事

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