アクア・イノベーション拠点(COI) 第5回シンポジウム in Tokyo産学官金融連携

アクア・イノベーション拠点(COI) 第5回シンポジウム in Tokyo

アクア・イノベーション拠点(COI) 第5回シンポジウム in Tokyo

 アクア・イノベーション拠点と信州大学が主催する第5回シンポジウムが11月9日一橋講堂(東京都千代田区)において開催され、水・膜産業関係者ら約200人が出席しました。本プロジェクトは、2013年から9年間のプロジェクトであり、5年目を迎えた今回のシンポジウムは、これまでの研究成果を水・膜関係者に広く紹介する目的で開催されました。冒頭の開会挨拶には、上田新次郎プロジェクトリーダー、濱田州博学長、来賓挨拶には、文部科学省より信濃正範審議官、また、佐藤順一ビジョナリーリーダーからもお言葉をいただき、続いて成果報告、社会実装に向けたパネル討論、最後に遠藤守信特別特任教授より閉会挨拶がありました。並行して、研究成果の詳細を報告・議論するポスターセッションも実施されました。

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第109号(2018.1.31発行)より

成果報告~プロジェクト5年間の研究成果を一斉公開~

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研究成果を報告する遠藤守信RL

 成果報告ではアクア・イノベーション拠点の研究成果について、木村睦教授、手嶋勝弥教授、遠藤守信リサーチリーダー(RL)、Rodolfo Cruz Silva特任教授、AaronMorelos Gomez研究員、手島正吾氏、前田瑞夫氏より各研究開発テーマごとに発表がありました。COI-S採択拠点「水」大循環をベースとした持続的な「水・人間環境構築拠点」の高橋桂子氏(COI-S RL)より、「人と水大循環の相互作用」と題して報告がありました。いずれも、社会実装に向けた研究開発が着実に進展していることが報告されました。
 最初の報告として、木村睦教授より「表面重合を用いた新規ナノ濾過機能有機ナノ薄膜の創成」の報告がありました。その中で木村教授は、「海水や資源採掘の汚染水に含まれる無機イオンを通さない膜を、簡単かつ大面積化も可能な方法で作製することを目指している。簡単に薄膜が作れるパリレンという高分子に側鎖や架橋構造を取り込むことで、孔径および空孔率を制御することに成功した。孔径の制御により様々な用途への展開が可能になる。架橋構造を取り入れることで機械的強度が10倍になり圧力により膜の孔がつぶれて詰ることも防げる。今後、企業等と密接に連携して本技術の用途拡大を目指してゆく。」と、研究の進捗および展望を示しました。続いて、「無機材料で挑む水をキレイにする化学~社会実装を目指すフラックス育成結晶~」として手嶋勝弥教授より報告がありました。手嶋教授は、「世界で水道水をそのまま飲める国は15か国しかない。水のきれいな日本の長野から、水で本当に困っているボトムオブピラミッド(BOP)と呼ばれる国々にアプローチできる携帯型の浄水器で貢献したい。その進展として、飲み水等から有害な金属を除去できる無機結晶で構成される重金属吸着剤の開発に成功した。溶液から無機結晶材料を育成するフラックス法を用いることで、従来品より高性能かつ長寿命な重金属吸着剤を実現できた。これを搭載した浄水器を企業とともにアンダーワンルーフで研究開発し製品化したい。スパウトインと呼ばれる蛇口一体型浄水器は、すでにモニターテストを完了している。さらに、携帯型の浄水器を具現化しBOPの国々における安全・安心な水の供給につなげたい。」と、社会実装に向けた具体的な進展と、その将来像について紹介しました。

産学連携による革新膜開発が造水・水循環システムを根底から変える

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CNT/PA複合RO膜の構造モデル

 遠藤守信RLの報告;「ナノカーボンRO膜の新しい展開」では、本プロジェクトの目指す革新的造水・水循環システムの実現に向けた大きな進捗が披露されました。ポリアミド(PA)にカーボンナノチューブ(CNT)を15%以上複合したCNT/PA複合膜は、①膜洗浄に用いる塩素に耐える、②膜表面に汚れが付着しにくい耐ファウリング性がある、というこれまでの膜にないロバスト特性を有しつつ、市販膜に匹敵する脱塩性・透水性を達成したと紹介されました。CNT/PA複合膜の耐ファウリング性については今年9月に米国化学会等の論文誌に掲載された実験とスパコンシミュレーションの詳細な説明がありました。
 今後の展望として、遠藤RLは「本プロジェクトは企業人をリーダーに据えたこれまでにない研究・開発システムによるものであり、その成果が生まれつつある。我々は革新的な膜を作り、モジュール化し、さらにシステム化して、海水淡水化・随伴水の浄化に研究展開していく。世界の人々が合理的なコストで安全・安心な水を手に入れるために、水のコストを現状のさらに半分(0.5ドル/m3)とすることを目指す。」と意気込みを表明しました。オールジャパンの産学官連携による革新的イノベーション創出に向けた取り組みが、信州大学を中心に強力に展開されています。

社会実装に向けたパネル討論

環境・産業・地域づくり…多様な分野における新世代膜のさらなる社会実装の進展に向けて

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信州大学COI拠点プロジェクトリーダー
株式会社日立製作所
上田 新次郎

 上田新次郎信州大学COI拠点プロジェクトリーダーをモデレータとして行われたパネル討論では、産学官各分野から5名のパネリストが登壇。逆浸透膜(RO膜)をはじめとする次世代膜の社会実装の状況と課題ならびに世界を視野に入れたイノベーションの可能性について意見が交換されました。
 まず上田リーダーから具体的な社会実装の取り組みとして、海水・かん水淡水化、エネルギー、エレクトロニクス、医療・医薬品・食品製造などの産業、上下水、再生水など多様な分野が提示され、「各分野での社会実装を進めるための将来像をバックキャスティングし、次世代膜の研究をさらに進展させていく提案を」との投げかけがありました。

現状のクリアすべき課題と研究開発の進展がもたらす将来への展望

 東レ株式会社の山田氏は、RO膜・供給水流路材・ろ過水流路材の3部材によって構成される、円筒状「モジュール」が既に多様な産業分野のプラントに装填され、稼働している状況を紹介し、各用途での要求と課題を示しました。使用環境や対象とする除去物の違いに応じ、市場要求は細分化されますが、「すべての分野でモジュールの耐久性が求められている」と現状を分析。また、拠点開発膜の大型化、更にはモジュール化にも成功した旨を報告し、「今後モジュールサイズを徐々にスケールアップしながら社会実装に向けた性能実証を進めたい」と展望を語りました。
 株式会社日立製作所の大西氏は、「海水淡水化システムにイノベーションを起こすには、革新的な造水コストの削減が不可欠」と提言。プラントの小型化、運用コストの低減を実現するために「カーボンを用いたRO膜の脱塩性・透水性の飛躍的向上とロバスト(頑健)性の抜本的向上に期待したい」と述べました。また、エネルギー(オイル・ガス)分野の社会実装については、原油価格低迷による投資抑制の側面もあるが、自噴のみの原油採掘が限界となった油田からの更なる油回収を目的とした「石油増進回収(EOR)」や環境汚染防止を可能にする水処理技術、水質制御技術が求められることを明らかにしました。
 栗田工業株式会社の加来氏からは、産業用分野の水処理の中でも特に半導体の製造工程等で使用される超純水の製造技術の将来像に関し具体的な可能性と課題が提示されました。「超純水の高純度化、排水回収、省エネルギー化、薬品使用量の削減、膜の長期使用といったニーズに応えていくため、次世代の水処理膜にはさらなる高透水性、低圧化、脱塩率向上、高耐久性等が期待される」と話しました。

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東レ株式会社
山田 博之 氏

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株式会社日立製作所
大西 真人 氏

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栗田工業株式会社
加来 啓憲 氏

膜技術の水平展開による医療・食品分野への応用と都市の水循環への期待

 ナノカーボン膜およびパリレン表面重合膜等の新規開発膜の医療・医薬品・食品製造への応用については、信州大学COI研究推進機構の田中教授より具体的な可能性が提案されました。「開発中の優れた特長を持つ膜や素材を幅広い産業分野に水平展開することを目標に、拠点内で議論を重ねた成果」として、革新的分離膜を既存膜と置き換えるメリットを具体的に想定。食品の品質向上、高付加価値化、低コストで簡便なオペレーションを実現する可能性を示唆しました。
 さらに医薬品・医療分野における人工透析器等の医療機器、細胞治療・再生医療、安価で効率的な医薬品製造プロセスへの応用の可能性にも言及しました。
 上下水分野への社会実装については、東京都市大学の長岡教授が都市における水循環の現状を示し、国内の膜浄水(UF・MF)※の施設数、施設能力とも向上している実態を説明しました。「上水の原水に、かつては地下水を用いていたのが、昨今は河川水等の地表水を用いることが多くなり、浄水技術革新には水質の悪い原水への対応、耐ファウリング化による維持管理コストの低減、化学物質・臭気原因物質への対応への期待が大きい」と話しました。一方、膜利用による下排水処理には現状4つのパターンがあり、「中国など水資源が逼迫している地域ほど普及が進んでいる」と説明。耐ファウリング化、長寿命化に加え、「処理水を水道水源とする際のリスク低減を実現できる性能」への期待が高いことが伝えられました。

※UF膜:限外ろ過膜、MF膜:精密ろ過膜

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COI研究推進機構副機構長
信州大学工学系教授
田中 厚志

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東京都市大学 工学部 都市工学科 教授
長岡 裕 氏

社会実装に向けた方向性 各分野における実証の重要性や市場性を再確認

 パネリストの発言を受け、上田リーダーは「膜の耐ファウリング化、ロバスト性向上による低コスト化、省エネ化は分野の枠を越えた共通の課題。COI拠点としてさらなる性能向上をめざし、革新性を高めていくとともに、企業、自治体の皆さんと連携し、社会的なニーズに応えるソリューションを提供していきたい」とまとめました。
 続く質疑応答では、マーケティングの観点から膜の主戦場が海外にとの指摘を受け、今後の市場性や社会実証の重要性について意見が交わされました。

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