産学連携による人材育成「車いすで、山あそび。」産学官金融連携

産学連携による人材育成「車いすで、山あそび。」

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 障害のある人や高齢者など、車いすを必要とする人とその家族や友人が、バリアフリー環境の有無を基準とせず『人の手や、道具』を活用して大自然を一緒に楽しめる環境や仕組みを作る、ユニバーサルフィールド(UF)という新たな考え方が、提唱され始めています。信州大学は、平成30年9月、その専門的な知識やスキルを持ち、旅行業者や旅行者へのアドバイスやコーディネートができるユニバーサルフィールド・コンシェルジュ(UFC)を養成する全国初の講座を、産学連携により開講。このUFCの活用により、宿泊施設や、交通、医療・福祉、地域の人材や資源を連動させ地域が連携することで実現する新たな社会形成と、新たな市場の構築が期待されています。
(文・羽場 友理枝)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第114号(2018.11.30発行)より

信州大学ならではの新講座 全国初のユニバーサルフィールド・コンシェルジュ養成講座とは…

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開講式にて受講生の自己紹介に耳を傾ける(左から)長野県観光部観光誘客課丹羽克寿課長、観光庁田村寿浩参事官、信州大学濱田州博学長、信州大学中村宗一郎理事、信州大学学術研究院(総合人間科学系)加藤彩乃助教

 信州大学が新たに開講した「ユニバーサルフィールド・コンシェルジュ養成講座」の目的は、バリアフリー環境の整備が困難な山岳資源を、車いすユーザーとその家族や友人が、障害の有無や年齢を問わず、共に楽しめるものとする専門知識を有する人材ユニバーサルフィールド・コンシェルジュ(UFC)を育成することにあります。障害者に対応する専門的知識のほか、ユニバーサルフィールドツアー(UFT)に関わる旅行商品の企画、観光事業者へのアドバイス、また、観光事業者と旅行者のコーディネートなど、UFCに求められる能力は多岐にわたります。
 この講座は9月から2月まで全6回行われ、UFCが持つべき基本的な知識や、アウトドア用車いすなどの専門機材の取り扱い講習のほか、実際にツアーを組み、実施、検証も行う、基礎から実践までを幅広く網羅した内容となっています。
 観光立国を掲げる日本では、2006年より観光においてもユニバーサルデザイン化に取り組んでおり、2018年は特にユニバーサルツーリズム(UT)対応型の旅行商品化に向けた、コンテンツ調査や経済活性化に資する商品の検証等を行ってきています。なかでも、山岳などの観光資源はハード面の整備だけではUTの実現は難しく、専門的な人材の育成が必要不可欠です。しかしながら、今まで観光庁が採択を行う「中核人材育成講座」で「山岳観光のユニバーサル化」がメインに取り上げられたことはありませんでした。そこで、日本でも有数の豊富な山岳資源を持つ長野県にあり、日本の国立大学としては最も高地に位置する信州大学だからこそできる、このUFC養成講座を立ち上げました。
 長野県、白馬村などと連携し、実際の観光地をフィールドにした、より実践的な内容になっていることも、この講座の特徴です。講師には各々UTを実践してきた一般社団法人ataAlliance、日本航空(株)、クラブツーリズム( 株)、(株)finetrackなどが名を連ねています。

ユニバーサルツーリズムの高い専門知識やスキルを習得し旅行業者へのアドバイスやコーディネートも!

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講義のディスカッション風景

 受講者は、①UFやUFTに関わる専門的な知識、②企画力、③調整力、④発信力、⑤コミュニケーション力、⑥評価・改善力の6つの能力を身に付けることが求められます。この6つのポイントが身についているか、その都度評価をしながら講義が進みます。講座の修了者はUFTやインクルーシブイベント(※)の企画・監修、UFの調査・監修、観光事業者と旅行者のコーディネート業務、専用機材(HIPPOcampe)の取り扱いが習得でき、業務として行うことができます。
 今年度の受講者は17名。定員に対し全国から2倍の申込みがあったため、その中から選考して受講者を決定しました。長野県内だけでなく、大分県、東京都からの参加者もいます。車いす使用者2名も参加しており、障害のある当事者の目線も加わったより実用的な講義になることが伺えました。他にも、自治体の観光協会やバス会社、旅館組合など、宿泊業、観光業に従事している人が受講者として集まっています。なかには、実際に講義の中で扱う地域からの参加もあり、受講者にとって、より実践に結び付けやすい講座となっています。
 9月18日に行われた第1回目の講義で主な話題となったのは、アウトドア用車いす「HIPPO campe -ヒッポキャンプ(HIPPO)」とデュアルスキー(着座式スキー)。アウトドア用車いすHIPPOは、利用者の安全性と介助者の負担軽減に配慮された設計で、スタイリッシュでありながら、あらゆる不整地で利用しやすい車いすです。講義の中では、この車いすを使って登山を行った事例の発表もありました。
 デュアルスキーは、重度な障害のある人にも対応可能なしっかりとした背もたれや、体への負担を軽減するためにサスペンションが装備されています。そして厳しいトレーニングを積み、ライセンスを取得したプロのパイロットが操作を行います。先進事例紹介として登壇した八ヶ岳富士見高原リゾート株式会社の福田敏明さんは、このデュアルスキーについて、「障害のある子どもが生まれてから大好きだったスキーをしなくなったお母さんが、富士見高原で一緒にスキーをできて感動していた」というエピソードを語り、障害のある人とその周りにいる人達の観光に対する需要の大きさを語りました。
 今後の講義では、アウトドア用車いす「HIPPO」の取り扱い方法など、実技も含め行われる予定です。
※インクルーシブイベント:合理的な配慮のもと健常者、障害者ともに参加できるイベント

山岳地帯信州だからできるユニバーサルツーリズム

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第1回目の講義の様子

 日本ではこれまでバリアフリー旅行という選択肢しか存在しませんでした。信州大学は、もう一つの選択肢ユニバーサルフィールド(UF)という概念を提唱し、このUFC養成講座を行うにあたって、観光から現在、日本社会にある障害者と健常者の関わり方やその意識に変化をもたらしたいと考えています。いずれ、この講座を通し、真のUTが各地で広まり、一般的になることで、障害者を巡る社会のあり方が変わる可能性があると考えているからです。例えば、障害者の積極的・戦略的雇用機会の創出。障害者とその家族や友人が、あきらめてしまうことの多かった観光コンテンツを提供できるUTは、観光業にとっても新しい市場です。その需要は大きく、市場はまだまだ広がりをみせると考えられています。今後、その市場が大きくなり、障害当事者とその家族らの活動が活発になれば、その経験は観光業のみならず社会形成においても重要な指針となります。もちろんUTの市場の拡大は、障害者の新しい分野での雇用の創出という点でも期待が持てます。またUFにおける車いす利用者への応対など、より専門性の高いボランティアの発掘・確保など、新しい人材の需要が生まれるかもしれません。UFが一般的になることで、インクルーシブ野外教育の有効性についても議論が活発になり、幼少期から日常的に障害者と関わることで共生社会を無意識に受け入れる社会環境が構築されます。
 このような観光をきっかけにした共生社会の実現が、この講座の最大の目標です。
 多様な人々に、日本の美しい大自然を享受する権利が保証され、真の共生社会を実現するために、山岳地帯信州からUFの可能性を広げていきたいと思います。

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デュアルスキー(着座式スキー)(左)とアウトドア用車いす「HIPPOcampe」(右)

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