信大特許Vol.3 剛性が変化する新素材!「繊維複合流体」産学官金融連携

信大特許Vol.3 剛性が変化する新素材!「繊維複合流体」

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ゆっくり泳ぐ金魚の尾びれは、もちろん柔らかい。

 魚の尾びれは、水中を進む速さによって硬さが変わるという特性があります。例えば、水中を高速で移動するイルカの尾びれは、鋼のように硬そうですが、金魚の尾びれのように、ゆっくり移動している時のイメージはとても柔らかそうです。もし、速い動きも遅い動きも、一つの尾びれで再現しようとするのなら、速さに応じて硬さを変化させる必要があります。このようなことを可変剛性と呼び、その方法の一つとして「ダイラタント流体」という物質の特性を利用します。
 いつもは存在すら忘れていても、いざという時には強力に機能する…このユニークな特性を、より便利で新しい製品開発に活かせたら…今回ご紹介する特許は「ダイラタント流体」+「繊維」=「繊維複合流体」。信州大学学術研究院(繊維学系)小林俊一教授に、お話を伺ってきました。
※信州大学の研究シーズを技術移転する(株)信州TLOが、特許の試作品と特許技術の見える化を推進する動画制作(平成29年度中小企業知的財産活動支援事業)により実施

(文・柳澤 愛由)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第110号(2018.4.5発行)より

この記事の内容は、映像でもご覧いただけます。(信大動画チャンネルより


海にいる、あの“ゴカイ”のロボット製作をきっかけに

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小林教授が作った、海にいる「ゴカイ」の動きを再現したロボット。見事に水中を泳いでいる。

 まず、特許を取得した「繊維複合流体」の構造をご説明します。写真(※1)が、繊維複合流体のサンプルです。弾性のある資材の内部に繊維を入れ、繊維の周りを「ダイラタント流体」で満たした構造をしています。
 この繊維複合流体を開発するきっかけは、釣りえさなどにもよく利用される海洋生物“ゴカイ”の遊泳を再現したロボットの製作でした。まるで本物のように水中を動くロボットのフィンの動きと流体の関係性がヒントとなり、今回の技術開発に至ったといいます。
 魚の尾びれの動きの速さのことを「揺動速度」といいます。自然界の生物は、この揺動速度によって尾びれ(フィン)の柔軟さを変化させています。力学的には、ねじれや曲げに対する変形のしづらさを「剛性」と呼び、剛性を変化させることのできる特性を「可変剛性」といいます。小林教授は、長年、水中を動く生体のメカニズムを活かしたロボットの開発や研究を行っており、その中で、自然界の生物のような柔軟な動きを実現する、可変剛性機能を備えたフィンの開発を進めていました。しかし、これまで可変剛性機能を備えるには、何かしら機械的な機構を必要とすることがほとんどでした。
 「生物が水中を進むときの尾びれの柔軟さ、つまり可変剛性を、機構を用いずに実現するよりスマートな構造体ができれば、さらにさまざまな応用が期待できます。そこで着目したのが『ダイラタント流体』でした。そこに『繊維』を組み合わせることで、その特性をより助長させています」と小林教授は説明します。

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魚の尾びれ(フィン)の動きの速さを「揺動(ようどう)速度」と言い、動く速さで、フィンの硬さ、柔らかさなどが違う。速く泳げばフィンは硬く、ゆっくり泳げば柔らかい。今回の特許の原点とも言える。

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※1)ダイラタント流体を用いて作った「繊維複合材料」のサンプル。写真ではわかりにくいが、入っている繊維の方向で曲げる力が変化する。特に速く曲げるとその差は際立つ

非ニュートン流体の「ダイラタント流体」に着目

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いろいろな「流体」がある。水=ニュートン流体を基本に考えるとわかりやすい。(図)

 それでは、繊維複合流体のベースとなっているダイラタント流体の特性についてご説明します。ダイラタント流体の最も身近な典型例は、水と粉末の濃度の高い混合物。例えば、非常に濃い水溶き片栗粉もダイラタント流体のひとつです。図は、せん断速度(流れる速さ)によって粘度のある物質がどのように変化するのか、その特性ごとに分け表したものです。
 まずニュートン流体とは、いわゆる水やアルコールのような液体が該当します。せん断速度が変わっても粘度は一定です。ビンガム流体とは、私たちがよく使う歯磨き粉のような流体のこと。チューブをゆっくり押せば(せん断速度が小さければ)粘りが強く、速く押せばと急激に粘度が下がります。次に、擬塑性流体は血液のような流体のことです。ゆっくり流れるとき(せん断速度が小さいとき)は粘度がありますが、速く流れれば流れるほど、徐々に粘度が下がります。
 そして、ダイラタント流体は、その他の流体とは異なり、せん断速度が大きいほど粘度が大きくなる、つまり硬くなっていくという性質を持っています。逆にせん断速度が小さければ粘度も小さく、だらりと流れてしまいます。このような「高いせん断速度が加わった瞬間だけ硬くなる」という性質は、衝撃吸収材として適用できると、各方面でさまざまな研究開発が行われています。

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片栗粉で作った「ダイラタント流体」。速く動かすと固まり、放置すると自然と溶けていくように液体になる。

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本物の魚のように水槽内で泳ぐ、魚のフィンの模型。揺動速度と推進力のデータがとれる。

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フィンの内部には繊維の束と片栗粉を溶かしたものが入っている。

繊維複合流体の特徴①衝撃吸収の力が曲げ方向で異なる

小林教授が開発した繊維複合流体は、先述したダイラタント流体に「繊維(親水性の動物性繊維、現状では馬毛)」を組み合わせているという点にも、大きな特徴があります。繊維を封入することで、力を加えると、狭い繊維間でダイラタント流体が動きます。そのため、何も封入しない状態よりもせん断速度が増し、剛性変化の範囲を拡大させることができるのです。また繊維の方向によって、その特性に変化を持たせることもできます。
 例えば、封入した繊維方向に曲げると曲げにくい(硬い)、繊維に沿って曲げると曲げやすい(柔らかい)といった特徴を出すこともできます(写真※1)。つまり、曲げ方向によって、衝撃吸収の力を変化させることができるのです。
 この特性を活かせば、さまざまな商品開発の可能性が生まれてきます。例えば、プロテクター。ひじの関節部分に使用すれば、曲げてはいけない方向には曲がらず、曲げたい方向には楽々曲がる―、など関節を守りながら動きやすいプロテクターを作ることができます。

繊維複合流体の特徴②繊維密度を制御することでさらに変化が生まれる

 2つ目の特徴は、繊維密度を制御する、つまり意図的に不均一にすることで、部分ごとの強度をコントロールすることができるという点です。
 例えば、人が装着するヘルメットならば、頭を守る頭部周辺はいざとなれば最も衝撃に強く、それ以外の箇所は比較的柔らかい、など、目的や用途に応じた硬さや曲げの方向を、繊維の密度を変えることで容易に制御することができるのです。

通常は存在すら忘れていても突然の衝撃に機能する…アイデアで広がる用途

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例えば関節など、曲げてはいけない方向に機能するプロテクター、車などの高速走行時に機能する速度抑制装置…用途はアイデア次第だ。

 通常は装着すら忘れていても、突然の衝撃には強い。車のシートベルトのように、通常は意識していない存在でありながら、いざとなったら大切な体やモノを守るため機能する…そんな用途はたくさんありそうな気がします。例えば、高速走行時のみ機能する速度抑制装置、強い衝撃のみに対応する緩衝材――、そんな新しい発想で用途開発を考えるといろいろな製品が浮かんでくるのではないでしょうか。
 衝撃吸収や剛性制御での新しい製品化にご興味にある方は、ぜひ信州大学発の特許「ダイラタント流体を用いた複合材料」を検討してみてください!

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