信州大学発ベンチャー企業特集 高血圧対策の切り札!"ナス"降臨!産学官金融連携

信州大学発ベンチャー企業特集 高血圧対策の切り札!“ナス”降臨!

 ナスはご存知のとおり、古くから食され、誰でも知っている野菜のひとつですが、なんと意外なことに一昨年(2016年)、血圧を下げる効果を持つ「コリンエステル」という成分が多量に含まれていることが分かりました。この、未来のヘルスケアの在り方を劇的に変えることになるかもしれない新事実を突き止めたのは、(株)ウェルナスの代表取締役小山正浩社長と、その恩師である信州大学学術研究院(農学系)中村浩蔵准教授のお二人です。
 信州大学発ベンチャー特集の第1弾は、このあっと驚く研究成果をもとに、新たにヘルスケアビジネスに参入する、信州大学農学部発ベンチャー、株式会社ウェルナスをご紹介します。

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長野県上田市常田3-15-1 Fii施設508号(2)
代表取締役(農学博士) 小山正浩氏
コア技術:コリンエステルの定量技術と生理活成発現メカニズムに基づく食品開発

秋茄子は嫁に食わ「せろ」!

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食品素材におけるコリンエステル含有量を比較した資料。ナスは圧倒的!

 ナスは夏から秋にかけての食卓の定番野菜。和洋中、どんな料理にも合う万能選手です。しかし、その栄養価を問われても、はっきりと答えられる人は少ないのではないでしょうか。
 「“ボケ”ナスなんて罵り言葉があるように、『ナスには何の栄養もない』と思っている人が少なくありません。でも、結構高い効能があるんですよ」。(株)ウェルナス社長の小山正浩さんはそう話します。信州大学大学院で中村浩蔵准教授のもと研究に励んだ際の大発見が、2016年に明らかになった「ナスには『コリンエステル』が多量に含まれる」という新事実。ピーマンやニンジン、トマトといった定番野菜と比べても、なんと約1,000倍以上もの量でした。その成果をもとに2017年5月、(株)ウェルナスを設立しました。「コリンエステル」は神経伝達物質のひとつで、交換神経活動抑制作用があります。人の活動時に高まる交感神経の活動が抑制されることで、血圧上昇を抑え、リラックス効果も期待できます。また必要以上に体内にある場合は酵素によって分解されるため、効き過ぎるということもありません。「コリンエステル」は新発見ですが、ナスは古くから食されてきたとおり、安全性はきわめて高いのです。さらにこの成分は熱にも強いことがわかり、さまざまな食品への応用が可能で機能性食品開発にはうってつけの素材なのです。「リラックス効果は妊娠率を高めることにつながります。“秋茄子は嫁に食わすな”ということわざも、子沢山になると家族を養いきれなかった昔の人々が、ナスのそんな効能に気付いていたのかもしれませんね。しかし今はその逆、弊社のプレゼン資料のタイトルは『秋茄子は嫁に食わせろ!』です(笑)」(小山社長)。

「発酵キョウバク」との出会い、小山社長の“ナス愛”

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ナス柄のネクタイのほかにも、ナス歯磨きなど多くのマニアックなナスグッズを集めているのだとか。「ナスには感謝しているので」と“ナス愛”が止まらない小山社長。

 取材当日、小山社長のネクタイの図柄をよくよく見ると…、ナスのイラスト入りで“I LOVE NASU”。「このネクタイ、なんと売ってたんですよ!これは即、買うしかないかなと思って(笑)」と小山社長。「ナスグッズを集めるのが趣味」ということらしく、ただならぬ“ナス愛”を感じ、さらにお話を伺っていくと、そこには並々ならぬドラマがありました。小山社長は遺伝的に高血圧体質で、高校時代から眠りが浅いといった睡眠障害にも悩まされてきたそうです。「高校時代には既に最高血圧値が180くらいあって…。でもまだ薬は飲みたくなかったのでさまざまな機能性食品を試しましたが、効果はありませんでした」。そうしたときに中村准教授の研究に出会い、2008年、信州大学大学院農学研究科応用生命科学専攻(修士課程)に進学。まずは、中村准教授が長年取り組んできた「発酵キョウバク」の研究に加わりました。
 「発酵キョウバク」とは、長野県特産のソバの若芽(そばスプラウト)を乳酸発酵させたものから得られる上澄み液のこと。乳酸発酵は長野県の木曽地域で古くから作られる「すんき漬け」(カブ菜を乳酸発酵させた漬物)に代表される伝統的な発酵方法です。中村准教授、小山社長らは、この発酵キョウバクに血圧上昇抑制効果があること、その有効成分が多量に含まれる「コリンエステル」であることを突き止めました。
 「これまでどんな機能性食品を試しても効果が無かったのに、「発酵キョウバク」を飲んだこのとき、初めて血圧が下がるという体験をしました。これはすごい!と思いましたね」。発酵キョウバクとの出会いで小山社長の人生が変わった瞬間でした。

実用化を見据えて“ナス”にスイッチング

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この実験室でナスの「コリンエステル」含有量が解明された…優れモノの分析機器

 「『発酵キョウバク』の研究に着手したのが2001年位だったので、かれこれ15年近く取り組んできたことになりますが、2016年にようやく、この『発酵キョウバク』を上回る量の『コリンエステル』がナスに含まれていることを発見しました。長年研究してきたので『発酵キョウバク』には愛着もあったのですが、ナスの含有量があまりにも大きかったので、すぐにナスに切り替えて研究を進めました」(中村准教授)。ナスに切り替えた理由は、そばスプラウトでは値段が高く、どうしてもコスト面で実用化に大きな壁があったからだといいます。ナスならその心配は不要です。さまざまな文献や研究論文を探すうち、ナスにもコリンエステルが含まれていることはわかったのですが、その量までは解明されていなかったため、まずはその調査から着手し、結果は、先述の通りでした。結果が出ると同時に、中村准教授はこの研究成果でベンチャーを立ち上げることを思い立ちます。
 現在、高血圧で悩む方は日本に約6,000万人いるといわれ、加速する社会の高齢化に伴い、高血圧に有効な機能性食品の需要はますます高まっているからです。ストレス社会の現代、抗ストレス作用のある機能性食品市場の規模は約923億円にも上るとされています(※1)。「高血圧の薬はたくさんありますが、長期間服用すると副作用もある。でも「コリンエステル」は神経を介して作用し体内には吸収されないため、副作用がまず無いと考えています。何よりナスで得られた数字が大きなものだったので、これなら世に出しても勝負できるなと思いました」(中村准教授)。また「自身で得た効果を社会に還元し、多くの人に同じように体感して欲しい」という、小山社長の実体験と熱意も、ベンチャー設立を推し進めました。
※1)出典:健康食品サプリメント市場実態把握レポート2016年度版、インテージ平成24年-26年度国民栄養調査報告、厚生労働省

目指す未来のヘルスケアは究極の“パーソナルケア”

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 現在、中村准教授が旗振り役となり、信州大学を中心に、ナス生産量全国1位の高知県や東京都の各研究機関、企業などが参画した「ナス高機能化コンソーシアム」を組織し、生産から研究、食品製造までの事業化を進めています。(株)ウェルナスはその協力機関として、ナスの加工食品の試験販売や普及を進める役割を担います。すでにこのプロジェクト(※2)で、ナスの粉末をはじめ、商品化が近い製品もいくつか生まれており、2018年から試験販売を始める予定です。大きな期待がかかる“ナス”ですが、小山社長は「ナスだけに固執はしない」といいます。「私に『発酵キョウバク』やナス以外の機能性食品が効かなかったように、ナスでは効果がない方も世の中にはいるはずです。その方には別にフィットするものが必ずあるはず。それをお届けできなければ意味がないと思っています。将来的には、その人に最適な機能性食品は何か、情報を見える化して、一人ひとりの疾病リスクを“食”で予防しながら健康維持をサポートする…そんなヘルスケアサービスを実現したいと考えています」。小山社長自身の経験と想いに裏打ちされた、ウェルナスの経営ビジョンです。中村准教授も「ベンチャーだからこそできることだし、やる意味があることだと思います。これも、ずっと研究に携わってきた彼だからできること。それでも、リスクをものともせず、可能性があったら賭けようとしているので、すごい男だなと思いますよ」と、教え子の挑戦を後押しします。
 今ベンチャーは、起業したばかり。マーケットの需要を探りつつ、プロモーション戦略などを通じて、じっくり会社の価値を上げるアプローチが続きます。
 信州大学発ベンチャーが未来のヘルスケアのあり方を変える…そんな日も遠くはないかもしれません。
※2)農林水産省「革新的技術開発・緊急展開事業」採択(2017~2019年度)

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中村浩蔵准教授(左)と小山正浩社長(右)。中村准教授の手前の瓶が「発酵キョウバク」、左手に持つのがコリンエステルを抽出した粉末サンプル、小山正浩社長の持つ袋が、商品化間近の製品サンプル

信州大学学術研究院(農学系)准教授
中村 浩蔵
日本学術振興会特別研究員
JST科学技術特別研究員を経て2002年より信州大学農学部
伝統的な地域資源をリバイバルして、新しい機能性食品を開発し実用化する研究に取り組む

株式会社ウェルナス 代表取締役
農学博士(食品機能学)
小山 正浩氏
2010年信州大学大学院農学研究科(修士課程)修了、2013年信州大学大学院総合工学系研究科(博士課程)修了、2013年信州大学農学部応用生命科学科博士研究員、2017年より現職
趣味はナスグッズ集めとドライブ

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