環境・エネルギー材料科学研究所 白熱議論で踏み出した新たな一歩産学官金融連携

先鋭領域融合研究群最前線02

先鋭領域融合研究群最前線02

 信州大学が世界に誇る研究を進める先鋭領域融合研究群。発足1年半を経た現在、その取り組みの現状と成果はどうなっているか?
 本誌では、同研究群を構成する5つの研究所を訪ねるシリーズを連載しているが、前号のカーボン科学研究所に続き、第2弾の本号では、環境・エネルギー材料科学研究所に焦点を当てた。
 「X-Breed(クロス・ブリード)」と名付けた、研究や研究所運営の新たな発想と手法を最大の特徴とする同研究所。
 今回は、まず、X-Breedとは何か?のおさらいと、その1年半の間の進化はどこにあるかを概括し、後半、それを駆使した研究の現状について、2つのテーマについて関係する部門長の「X-Breed対談」を採録した。

(聞き手・文、毛賀澤 明宏)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」」第95号(2015.10.13発行)より

X-Breed=白熱議論による異分野融合研究

 環境・エネルギー材料科学研究所のミッションは、「圧倒的な省エネルギーと低環境負荷に貢献する革新的な材料の創製」にある。そのために、蓄電池、燃料電池、太陽電池、光デバイス、革新創製・高度解析、課題探索・横断研究領域―の6つの部門を持ち、これらを運営・マネジメント室が束ねるという組織構成をとっている。
 そして、この部門内、研究所内、さらには研究所の外の研究者達の、研究テーマや領域、部門、学問分野を超えた連携と共同を進めるために、同研究所の基本コンセプト・運営方法として提唱しているのがX-Breedだ。
 従来の共同研究でも、当然、別の研究テーマや領域を扱う研究者同士で、研究内容の相互紹介などは行われていた。しかし、「テーマや領域が少しちがうだけで、互いに未知の世界になってしまい、はっきり言ってよく理解できない。
 ここを徹底討論、白熱議論を通じて、何をどのように研究しているかを相互に理解し合い、共有することから打開しよう、そこから新しい何かが生まれる―というのがX-Breedの基本的考え方です」と同研究所の手嶋勝弥所長は話す。
 以前からも目指してはきたが、特に研究所開設以降は、こうしたアイデアのもと相互交流の場を定期開催するようになった。最低でも月に1回程度、研究所の研究者を中心に、所外からも参加希望者を募り、それぞれの専門研究分野のトピックスを紹介し合い、フリーディスカッションする「トピフリ(※1)」という略称の会合を開催しているという。1泊2日の合宿なども行うそうだ。
 「学会などでは普通、自分が分かっていることを話すという形。しかし、トピフリでは、参加者から次々と質問が出て、参加者が分からないことを解決しないといけない。そこで相互理解が深まるし、自分も試されるのです」と杉本渉同研究所燃料電池部門長は話す。予定時間をはるかに超えて議論が白熱することは日常茶飯事だそうだ。
 「次にお話するように、X-Breedは共同研究の新たな形と成果を確実に創り出していると思います。是非、信大全学から学部を超えて新たな仲間を募りたいです」。手嶋研究所長は力を込めた。

〝小・長・速〟―次世代蓄電池の開発へ

手嶋勝弥教授

Profile:手嶋 勝弥(てしま かつや)
信州大学学術研究院教授
環境・エネルギー材料科学研究所長
所属系:工学系 専門分野:無機材料科学、結晶工学
名古屋市生まれ。2003年名古屋大学大学院工学研究科博士課程後期課程修了。2005年信州大学工学部助手、2010年同准教授。2011年同教授。日本フラックス成長研究会副会長。2014年3月より現職。

飯山 拓教授

Profile:飯山 拓(いいやま たく)
信州大学学術研究院准教授
革新創製・高度解析部門(部門長)
所属系:理学系 専門分野:ナノ構造科学
福島県出身。1998年千葉大学大学院自然科学研究科博士課程修了。1999年信州大学理学部助手、2008年同准教授。日本化学会コロイドおよび表面化学部会役員会幹事、日本吸着学会評議員。2014年4月より現職。


X-Breedが拓く全固体電池の可能性

手嶋:電気自動車などで使う蓄電池は、小型化・長時間使用・高速充電などの点で大きな改善が必要です。それを解決するために信州大学が保有する結晶育成技術を継承発展させて、液体電解質に替えて固体電解質を使った革新的蓄電池を創る研究に力を注いでいます。信州大学で初めてCREST(※2参照)に採択された研究です。アイデア・材料・動きを見る―の3つのパートが必要なのですが、特に、見る、つまりイオンの状態を捉えるという分野で飯山先生と共同研究しています。

飯山:私は活性炭などの多孔体が有害物質等を吸着する構造の研究が専門です。通常では吸着した物質の重量などで調べるのですが、私は、X線を使って分子レベルの動きから捉える、よく言われる「見える化」の手法で研究しています。この研究を進めるうちに吸着性の強い物質が、多孔体中の狭い空間に、捉えられる様子が分かってきています。

手嶋:全固体電池の研究では、電池がどういう反応をするかは従来電子顕微鏡で観察するのが一般的でした。でもこれでは 足りない。分子構造のレベルでリチウムイオンがどう動くかを「見て」みたい。そこが分かれば、リチウム電池の寿命を延ばしたり、性能を向上させたりすることができる。だからその方法はないのかと思っていたら、信大の理学部に飯山先生が居た。それで共同研究してみようと声をかけたのです。この研究所の開設が決まる直前でした。

飯山:そこからX-Breedを地で行く議論を重ねながら共同研究しているわけですが、このテーマはなかなか難しいです。電池の中でイオンがどう動くかは原子レベルの話ですからね。見たくても見えない「見果てぬ夢」かもしれない(笑)。

手嶋:いやいや「見果てぬ夢」で終わっては困るんだけど…(笑)。

xbreed0201.jpg

カーボン微小空間中に捉えられた水分子の構造



別の視点、別の思考法との出会い

飯山:手嶋先生の次世代蓄電池研究は、本年元旦に新聞紙面を賑わせたように、大手自動車メーカーも大きな期待を寄せるものです。CREST採択の研究は、いわばその基礎研究に当たると思いますが、もともとの私の研究分野とは全く別分野。その別分野の手嶋先生が、私の研究に注目して、ディスカッションを重ねるうちに新しい視点が開けたように思いました。

手嶋:飯山先生の「吸着」の仕組みを分子レベルで「見える化」する手法に注目したのですが、「吸着」は私にとっては全く未知の分野でした。だから、説明を聞いても言葉が一つずつ分からない。それはどういう意味なの?どうしてそうなるの?という疑問ばかり…。

飯山:最初のトピフリ(※1参照)で私の研究を報告した時は、もうめちゃくちゃ(笑)。プレゼン予定時間は1時間で資料は40シートあったのですが、4枚目で1時間が過ぎてしまった。あたりまえだと思って話すことが他の分野ではあたりまえではない。そこを説明しないといけないので大変です。

手嶋:研究の分野が違うと、用語も違うし、思考法も違います。そこから説明し相互理解しながら進まないといけないのですが、その中で専門領域の壁を超える新たな発想やアイデアが紡ぎだされる。ここがX-Breedの魅力であり、わが研究所の原動力だと思います。




[※2] CREST:戦略的創造研究推進事業(科学技術振興機構)採択
超イオン伝導パスを拓く階層構造による結晶相界面デザイン

ナノシートのテラヘルツ波応答を探る

杉本 渉 教授

杉本 渉(すぎもと わたる)
信州大学学術研究院教授
燃料電池部門(部門長) 課題探索・横断研究部門(部門長)
所属系:繊維学系 専門分野:電気化学、無機材料化学、触媒化学
東京都出身。早稲田大学理工学部卒、早稲田大学大学院理工学研究科博士課程修了。1995年株式会社東芝、1997年日本学術振興会特別研究員、1999年信州大学繊維学部助手、2007年同准教授、2013年同教授、2014

宮丸 文章 教授

宮丸 文章(みやまる ふみあき)
信州大学学術研究院准教授
光デバイス部門(部門長)
所属系:理学系 専門分野:光物性物理、テラヘルツ光学、メタマテリアル
2004年大阪大学大学院工学研究科応用物理学専攻博士後期課程修了。2006年より、信州大学理学部物理科学科に勤務し、現在に至る。現在の主な研究内容は、固体や人工構造物におけるテラヘルツ波応答特性に関する物性とその制御。2014年4月

テラヘルツの利用法・制御法を探って…

宮丸:光波と電波の中間に位置するテラヘルツ波(以下「THz波」)は、例えば外形を壊さずに構造物の内部を探る非破壊検査などへの応用が期待される電磁波で、現在は、個々の物質のTHz特性の分析やTHz波の制御方法の確立が課題となっています。

杉本:私は化学の立場から電極などに利用する材料を研究していました。光学・物理の立場からTHz波を研究する宮丸先生と知り合い、「僕の材料は使えないかなぁ」という感じでX-Breedが始まったのです。これまで接点は全くありませんでしたし、THz波研究は何に役立ち、何が必要なのかという知識はありませんでした。

宮丸:THz波の制御には、「メタマテリアル」と呼ばれる、人工物質が役に立つということが分かってきています。では、異なる材料・構造をいかに使えば役にたつメタマテリアルを作れるのか?そこを探索するのが現在の課題。杉本先生のような材料づくりが専門の化学の研究者と共同研究するのは初めてで、とても刺激を受けています。

杉本:メタマテリアルという言葉も初めて知りました。「それ何?」からX-Breedが始まりましたが、宮丸先生と話をしているうちに、グラフェンを応用するTHz波の研究があることを知りました。だったらグラフェンと似た電子物性を持った酸化ルテニウムナノシートを使えば、違った物性や特長が出てくるのではないか?それがTHz波の研究の前進につながらないか?―というのが最初のきっかけでした。

宮丸:もちろんグラフェンと異なるからといって、すぐに興味深い特性が必ず現れるというわけではありません。しかし様々な物質において、光や電磁波の応答も様々に異なります。そこをきっちりと分析する基礎研究が必要です。それが5年後、10年後に新たな役に立つものを生むのだと思います。


xbreed0202.jpg

テラヘルツ領域のメタマテリアル>



相互に学びながら、常に一歩前に

宮丸:THz波は、他の電波に比べて透過性が高いので、絵画などの文化財の調査や、建造物の検査、警備や医療の領域で のセンシングなど、幾つかの可能性があります。そのためにTHz波を自在に操れるようにならないといけません。この課題にそれぞれの専門領域を活かしながら取組んでいるのが私たちの研究です。

杉本:これまでは学会で一緒になったことさえなかったような物理の研究者と組むのは初めてです。アプローチも、土台にしている学問分野も違いますから、共同研究を進めるためには、今までは知らなかったパートナーの研究分野のことも勉強しないといけない。結構大変です。研究領域が同じだと、やたら質問すると「無知」と思われるかと気を回して黙ってしまう。研究領域が違うから「知らないのはあたりまえ」と気軽に質問できる。そういう関係が、明らかに研究スピードを引き上げていると感じますね。

宮丸:何か役に立つものができたとか、大きな成果がすぐに出たとか、そういうことではなく、今直面している課題を超えるために、まだ漠然としたアイデアでも、ちょっとやってみようかと、一歩前に出る。そういうことがいつでも仲間とできることがX-Breedの良いところだと思います。

ページトップに戻る