国際ファイバー工学研究所  新素材開発鼎談産学官金融連携

先鋭領域融合研究群最前線03

新素材開発鼎談

発足1年半を経た信州大学先鋭領域融合研究群。信州大学が世界に誇る5つの研究所を訪ねるシリーズの3回目は、上田キャンパスに本拠を置く国際ファイバー工学研究所にスポットを当て、最先端のファイバー工学を駆使した新素材開発の現状と未来について3人の研究者に語り合ってもらった。

(文・毛賀澤 明宏)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」」第96号(2015.11.30発行)より

大川先生

大川 浩作(おおかわ こうさく)
信州大学学術研究院(繊維学系)教授 博士(理学)
信州大学先鋭領域融合研究群
国際ファイバー工学研究所
バイオ・メディカルファイバー研究部門長

金先生

金 翼水(きむ いくす)
信州大学学術研究院(繊維学系)准教授 博士(工学)
信州大学先鋭領域融合研究群
国際ファイバー工学研究所
フロンティアファイバー研究部門
中国 蘇州大学 客席教授

撹上先生

撹上 将規(かきあげ まさき)
信州大学助教 博士(工学)
信州大学先鋭領域融合研究群
国際ファイバー工学研究所
フロンティアファイバー研究部門

研究所の概要と新素材分野のテーマ

鼎談

金:国際ファイバー工学研究所は、高寺政行研究所長の下に、フロンティアファイバー、バイオ・メディカルファイバー、スマートテキスタイル、感性・ファッション工学の4つの研究部門と、それらを束ねる研究連携室で構成されています。


大川:相互に連携・融合して研究を進めていますが、主に、フロンティアファイバーとバイオ・メディカルファイバーが物質・マテリアル関係の研究、スマートテキスタイルと感性・ファッション工学がより実生活に密着した、ものづくりや生活に関わる研究を担っています。


撹上:私は10月に着任したばかりで、まだまだ知らないことだらけですが、スマートテキスタイルや感性・ファッション工学部門の先生方は、バイタルサインなどの生体情報を常時モニタできる繊維製品の研究や、ファッションの着心地を科学的に「見える化」する、とても興味深い研究を進めておられますね。


大川:そうですね。ウェアラブル、つまり着ることのできる生活支援型ロボットの開発とか、着実に成果を生み出しておられます。一方で、私たちフロンティアファイバーとバイオ・メディカルファイバーの2部門は、いわば、そうした実用のための新素材を開発することが大きなテーマです。国際ファイバー工学研究所の前身は繊維学部附属の高分子工業研究施設だったわけですが、この研究施設の50年にわたる研究の成果を継承して、様々な性格を持つ高分子のナノファイバーを創り出すことが、この後者2分野の大きなテーマですね。

量産から活用方法へ、機能を発揮する素材の探索へ

大容量電気二重層キャパシタ

(写真1)大容量電気二重層キャパシタ上図はCNFシート。特徴として、フレキシブル・形態安定性・容易な加工性などが挙げられる。下図はシートの表面図。

金:僕自身は、ずっと以前から、未来を切り拓く素材=ナノファイバーを大量生産する方法を研究してきました。直径100から500ナノメートルのアンダーマイクロのファイバーはなかなか量産できなかったのだけれど、2010年に、その量産化に成功しました。それで、その後は、そのナノファイバーを使用する新たな用途の開発に焦点を当てました。


撹上:昨年の御嶽山の噴火の後、地元の方に使っていただこうと寄贈した防塵マスクなどはその一例ですよね。


金:そうです。メディカル系で使用や、キャパシタ=蓄電池への利用等、色々挑戦してきました。特にキャパシタに注目したのは、東日本大震災時の原発事故を契機に、今後原発依存は弱まって行くだろうし、そうなれば家庭用の電力を常に貯めて置く蓄電池の需要が伸びるだろうと考えたからです。特に、PAN(ポリアクリロニトル)という有機高分子物質を燃やしてできる炭素系繊維は、比表面積(体積に対する表面積の割合)が大きく、これをナノファイバーにして使用すればキャパシタの性能を格段に引き上げることができるわけです(写真1)。そして、次に、この人工のPANに代わる天然の素材=自然界にあふれているもので、比表面積の大きなカーボンナノファイバーは創れないのかと考え、色々試したところ、どうもトウモロコシを使えばうまく行きそうだということが分かってきましたね。

天然の高分子でナノファイバーを創る

ナノファイバー構造のガーセ

(写真2)ナノファイバー構造のガーセはとても軽い !

大川:今、金先生がおっしゃったところで、私の出番が来るわけです(笑)。私は、絹、セルロース、多糖類など、天然の高分子化合物(生物が作る、長い鎖状の大きな分子)を使ってナノファイバーを創る研究を進めています。先ほど紹介した高分子工業研究施設の研究の柱の一つが、アミノ酸系の高分子が凝縮して繊維になる構造・仕組みの解明と利用だったわけで、それが化石原料を利用した人工繊維の合成に大きな貢献をしたのです。今問題になっているのは、いわば、その逆のプロセスで、人工原料でできることを天然の原料でやってみようということです。例えば、私はカニやエビに含まれるキトサンでナノファイバーを創る手法を開発しました(写真2)。そのナノファイバーで創ったものは、身体になじみやすい性質を持っていたりします。そういう私の研究は、金先生が話されたこと、つまりトウモロコシなど色々な天然素材を燃やしてカーボンを創り、それを混ぜあわせて、電界紡糸=エレクトロスピニングという方法でナノファイバーにする、どういう素材で何ができるかを究明していくというテーマとぴったり重なってくるわけです。


金:そこに撹上先生が入ってきてくれて、今まで以上に強力に、皆が一体となって融合研究が進められるようになりました。先生の活躍をとても楽しみにしています。

ページトップに戻る