"次世代農業"の可能性を拓け! 加速するアグリビジネス分野へ進出産学官金融連携

アグリビジネス創出フェア2015

アグリビジネス創出フェア2015

 2015年11月18日から20日の3日間にわたり東京ビッグサイト(東京都)で開催された「アグリビジネス創出フェア2015」(農林水産省主催)に、信州大学から3つの研究室と1つのプロジェクトが出展した。同フェアは、農林水産・食品分野にかかわる全国の大学や各研究機関・企業が最新の研究成果を一堂に展示し、マッチングを図ることで、産学官の連携を促すことを目的に開催されている展示会だ。
 TPPの進展なども背景に加速するアグリビジネス分野で、技術シーズの活用領域を拡げるため、信州大学の最新研究が顔をそろえた。

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」」第97号(2016.1.29発行)より(文・柳澤 愛由)

栄養機能性を富化した加工米で「米」をよりおいしく健康的に!

藤田智之 学術研究院教授(農学系)

試飲の甘酒を差し出す藤田智之教授(上)。当日、試験的に作ったという加圧処理後の米を使った「甘酒」が提供され、未処理のものと比べると「甘さ」や「コクの強さ」が違うと多くの人が驚きの声を上げていた。味への評価が高いこともこの技術の可能性の大きさを物語る

加圧処理後の米を使った「甘酒」

 「米の消費量の減少は農家にとって『作れるのに作れない』という状況を生んでいます。日本農業の振興には日本の主食であるコメの消費拡大、有効利用は不可欠な事案。機能性を持った米ができれば、加工用などへの活用も広がります」と信州大学学術研究院(農学系)・藤田智之教授は期待を込めた。
 多くの穀類は、種皮や胚芽(ぬか・ふすまなど)部分に豊富な栄養成分を含んでいるが、それを利用せず廃棄しているケースが多い。また、健康志向の高まりから玄米などへの注目度は増しているが、味や加工方法に制限があるため、加工用米としては流通しにくい。
 そこで藤田教授は、玄米の栄養価を精白米に移行する技術を考案。中高圧(100MPa)下で、玄米に水を添加し、加温・加圧処理をすることで、胚芽などぬかに含まれる栄養成分が胚乳(精白米部分)に移行、精白米中の総ポリフェノール量が約3倍に増加することを見出した。玄米の栄養成分を、精白米でも得られるようになれば、機能性をうたった商品開発の幅が広がり、介護食やサプリメントのような形での活用も期待できる。
 「企業との共同研究・開発を進め、この技術を食分野で訴求させていきたい」と藤田教授。米だけでなく小麦でも同様の結果を得ており、可能性をより広げている。

大学はおいしい!「ながのブランド郷土食」大学の技術シーズをおいしさで発信

大学はおいしい!「ながのブランド郷土食」大学の技術シーズをおいしさで発信

今年度、文部科学省職員教育行政等実務研修生として1か月信州大学に来られた村上望さん(科学技術・学術政策局政策課国際戦略室)(写真右)もスタッフとして現場で応援。写真左はプロジェクト責任者で工学部の松澤恒友特任教授

 機能性を持った加工食品や栄養価に特化した食材の開発など、大学研究を活かした独自の食品開発が進んでいる。フェア当日は、食分野で研究を進める各大学が、開発製品の試食・展示販売を行った。
 信州大学でも工学部が進めている食品製造分野の社会人向け人材養成プログラム「ながのブランド郷土食」が出展。長野県産リンゴ果皮から、酵素処理により抽出された赤い色素を利用した「まるごとりんごジャム」や企業と共同開発した新商品「えのきパイ」などを試食販売、好評を得た。

ホウレンソウの自動収穫ロボットで農作業に革命を

千田有一 学術研究院教授(工学系)

千田有一教授。「農業機械に関しては素人。しかし素人だからこそできた発想があった」と出来栄えに自信をのぞかせた。収穫後の土の払落しやホウレンソウの向きのそろえ方など、残る課題はわずかにあるが、実用化は間近だ

大学院生の藤澤君

ホウレンソウ自動収穫装置開発で最も難しいとされる、根切り刃の最適軌道の解析をした大学院生の藤澤君。そのスグレ度は稼働する映像で納得

 農作業の負担軽減、効率的な農作業の実現は、健全な農業経営のためにも必要不可欠な要素だ。しかし、ホウレンソウのような軟弱な作物の収穫は、たとえ人の手作業であっても、茎や葉を傷めないようにするには苦労を要する。そのため、収穫作業は未だ機械化されず、収穫・調整に要する時間は作業全体の約8割を占めるともいわれている。
 そうした課題を解決するため、信州大学学術研究院(工学系)千田有一教授は、ホウレンソウの自動収穫装置の開発を進めている。数年前からプロトタイプの開発に着手し、2015年8月からは長野市に本社を置くカイシン工業株式会社との共同研究を始め、約10kgの軽量化と重心バランスの改良を実現、実用化まであとわずかの課題を残すのみとなった。
 千田教授の専門は制御工学。これまでの自動収穫ロボットといえば、つかむ、はさむといった発想のものが多かったが、この装置は、土中の根を切って、ベルトコンベアに乗せ自動的に搬送する仕組みで、外的な力をほぼ加えることなく、ホウレンソウをそっとすくい上げるように収穫することができる。刈り取る際の土の動きを計算、解析することで見出した根切り刃の「最適な軌道」に沿って刃の動きをプログラミングすることで、成功率を各段に高めた。一台で約20人分の仕事量をこなすという。フェア当日は「実験に来てほしい」といった声も聞かれ、実用化に向けた動きが加速している。

「潜熱」を利用した蓄熱材(保冷材・保温材)で農業の省エネ化

学学術研究院(工学系)酒井俊郎准教授
「夏場の冷却が課題となる夏秋イチゴのハウスなど、農業資材会社などとの共同研究を進めたい」と酒井俊郎准教授(上)

 信州大学学術研究院(工学系)酒井俊郎准教授は、石油由来のパラフィンという物質と水が混合したエマルション(乳化物)を蓄熱材(液体⇔固体に変化する際に出入りする「潜熱」を利用した保冷材・保温材)として活用する技術を開発、園芸施設の冷暖房の省エネ化を目指している。
 エマルションとは、パラフィンを小さな粒(油滴)にして水の中に分散させることで、混ざったような状態(乳化状態)にした混合物のこと。
 仕組みはこうだ。水(氷)の場合の融点は0℃だが、パラフィンは20℃付近。エマルションを冷やすと0℃付近では中の水は凍らないが、パラフィンは凍る。それを常温下に置き徐々に温めても、パラフィンは融点の20℃付近でようやく溶け始めるので、その間、凝固状態を保持できる。水だけの場合と比較すると、水は連続的に温度が上昇するが、エマルションの場合、20℃付近で一定時間、温度上昇が停滞、温度を保つことができる。パラフィンは種類によって融点が異なるため、うまく混合すれば任意の温度を保持する保冷・保温材として活用できる。
 しかし、通常、「水」と「油」が混ざった状態を保持することは困難だ。そこで物理的な撹拌を加えたり、パラフィンの粒子をゲル化させたりと改良を加え、乳化状態を保つ技術も考案。「応用できる場所は多い。共同研究を進めることができれば可能性が広がる」と酒井准教授は期待を込めた。


 分野を超え、信州大学が持つ最先端の技術シーズは、来場者から大きな関心を集めた。農業の可能性を拓く新たなビジネスの創出に期待がかかる。

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