次世代医療研究センター 次世代医療の新基準で「最高の未来」を創る!産学官金融連携

次世代医療研究センター 次世代医療の新基準で「最高の未来」を創る!

次世代医療研究センター 次世代医療の新基準で「最高の未来」を創る!

 信州大学には、特色ある研究分野を先鋭化した先鋭領域融合研究群(5研究所)があり、この研究群の次の研究所を目指すのが5つの「次代クラスター研究センター」です。シリーズ最終回となる今回は、「次世代医療研究センター」を特集します。
 次世代医療研究センターには、医学系9分野の研究者22名、理学系の研究者1名、計23名が参画しています。その目標は、医療における「最高の未来」を創ること。既成概念にとらわれない「自由闊達にして愉快なる理想的研究所」というユニークなコンセプトを持っています。
 医学系"クリエイティブ"研究所とも呼べそうな、次世代医療研究センターの概要をうかがってきました。

(文・柳澤 愛由)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第106号(2017.7.28発行)より

新しい研究・評価システムを構築し超高齢化社会に挑む

一気通貫のシステムを完成

沢村 達也

次世代医療研究センター
センター長
学術研究院(医学系)教授
沢村 達也


1992年筑波大学大学院修了。
1991年日本学術振興会特別研究員、1992年京都大学医学部助手、2003年国立循環器病センター部長などを経て、2014年より現職。
日本学術振興会賞、文部科学大臣表彰科学技術賞受賞。

 医療技術は近年大幅に進歩しているものの、癌、認知症、脳梗塞、難病といった、未だ克服されていない病は少なくありません。また、超高齢化社会を迎え、長く病に苦しむ人は多く、社会保障費は年々増え続けています。そうした社会的背景の変化に伴い「ヘルスケア」や「健康」といったキーワードは、経済活動の中でも大きな比重を占めるようになってきました。だからこそ、新しい医療技術の開発に対する注目度は高く、各方面から大きな期待が寄せられています。
 次世代医療研究センターが掲げる目標は次の3つです。

 1.社会に役立つことを実現するしくみを作る。
 2.よりよい研究成果を生むしくみを作る。
 3.適切な評価のしくみを作る。

 この目標を達成するため、基盤技術や診断技術の開発、また臨床での応用、市場化に至るまで「一気通貫」の研究システムを構築。これまでにない研究環境を作ることで、応用価値の高い優秀な技術の迅速な実用化を期待しています。
 「1を100にするだけでなく、0から1を生み出すような革新的研究を進めていきたいと思っています」。そう話すのは、センター長の沢村達也学術研究院(医学系)教授。目標にもある通り、新しいものを生み出すための「1000の空振り」も評価できるよう、評価制度を工夫していきたいといいます。

異分野研究者が集う自由闊達な研究センター。そのミッションは?

次世代医療研究センター

「研究成果にレバレッジを効かせる」ことは、サッカーのアシストに似ている。より良いゴールが期待できる。(沢村)


日本人に欠けているといわれる共創意識を、研究者間、研究者-企業間で刺激し、その相互作用によって単独の研究では得られない着想、展開を促進し、非線形の効果を生み出します。

 次世代医療研究センターは、①次世代疾患モデル・基盤技術研究部門、②病態解明・医療応用研究部門、③創薬・診断技術開発部門の3つの部門に分かれ、眼科、循環器、産婦人科、麻酔蘇生、生理学など、各分野の医学系研究者が多数参画しています。その最大の利点は、異分野の研究者同士が同じフィールドに立つことで、自身の研究に対する新しい可能性に気づくチャンスを作り出せることだといいます。
 「これまで、異なる分野の研究者同士が意見交換できる場はほとんどありませんでした。だからこそ、異分野で活躍する者同士の自由闊達な情報交換を行うコンソーシアムを形成することに大きな意味があります」と、沢村教授は期待を込めてそう話します。この研究センターが取り組む大きなテーマとして創薬研究が挙げられます。新しい薬をひとつ作り出せる確率は、100万分の1程度とされており、それには多額の費用がかかります。日本の場合、新薬を開発できるのは、ほとんど大手製薬メーカーに限られていますが、海外では社員数の圧倒的に少ないベンチャー企業が、画期的な新薬を生み出しているケースも少なくないといいます。
 「日本の大手製薬メーカーの多くは、癌なら癌と、領域を絞った上で創薬研究を進めることが多い。それもひとつのやり方です。しかし、研究の過程で、当初想定していた領域とは違う領域で役立つものが生まれることも少なくありません。例えば血圧の薬を研究していて薄毛に効く薬が開発された、なんておもしろい例もあります。異なる分野の視点を取り入れ、アプローチを変えたり、発想の転換を行えば、新しい何かが生まれる可能性は大いにある。それをすくい上げ、活かす環境があれば、可能性はさらに広がると考えています」と、沢村教授は話します。
 それぞれの専門領域で信念を持って研究を進めてきた研究者が集う「大学」という場だからこそ、おもしろいベンチャー的アプローチが可能だといいます。今後、すでにある医療シーズをロールモデルとして育成しながら、新たなプロジェクトを進め、いずれは企業との共同研究やこの研究センターからスピンアウトしたベンチャー事業の創設なども模索していきたいとしています。
 次世代医療が見据える「最高の未来」。その輝かしい未来に向け、確かな一歩が踏み出されました。

次世代疾患モデル・基盤技術研究部門
医学と理学のコラボで新しい医学的ツールを開発

次世代疾患モデルマウス

オリジナルのゲノム編集技術により次世代疾患モデルマウスを作成。写真(下)は、マウス受精卵への遺伝子導入の様子。

活性酸素

老化や疾病の引き金の一つとして近年注目される活性酸素。しかし未だに確固たる定量法はなく、新規高感度活性酸素検出デバイスの開発が進められている。

部門長 新藤隆行
学術研究院(医学系)教授


 病気のメカニズムの解明、新しい治療法や創薬の研究には、疾患モデル動物(人の病気に類似した疾患を発現するように人為的に操作された実験動物)の存在が欠かせません。近年、ゲノム解析技術の発達により、疾患に関連する遺伝子の特定が急速に進みました。しかし、単一の遺伝子の異常を再現するだけでは、様々な因子が関与し発現する病態を正確に説明できているとは限りません。そのため、多遺伝子改変疾患モデル動物を迅速、かつ体系的に活用する体制づくりが求められています。
 そうした中、本部門の部門長でもある新藤隆行学術研究院(医学系)教授は、同時に複数の異なる遺伝子の改変や加工を可能にするオリジナルのゲノム編集技術を開発。
 それにより、従来では不可能とされていた高度な遺伝子修復、再改造、また効率的で迅速な疾患モデルの作成も可能となりました。
 本部門は、こうした基盤技術の研究を軸に、新たな疾患モデルの確立を進め、生活習慣病や難病に対する新たな診断・治療法の開発をミッションとして掲げています。

 また、本部門は、循環病態、眼科を専門とする研究者のほか、次世代医療研究センター唯一の理学系研究者が参画していることも特徴です。副部門長を務める金継業学術研究院(理学系)教授は、電気分析化学を専門とする研究者。これまで金教授は、超音波を利用した生体中の活性酸素を検出するセンサーの開発などを進めてきました。本格的に医療分野に参画するのは初めてとのこと。「様々な疾患の引き金ともなる活性酸素を検出する電子バイオセンサーや高感度デバイスなど、これまでの成果を新藤教授のゲノム編集技術と共に応用することで、新たな医学的ツールの開発を進めていけたら」と抱負を語ります。
 「長寿県信州で医療をするのですから、『長寿医学』をサイエンスとして取り上げることが信州大学の強みになっていくのではないかと思っています」と新藤教授。信州大学から新しい次世代医療の形を発信していきたいとしています。

新藤 隆行

次世代疾患モデル・基盤技術研究部門 部門長
学術研究院(医学系)教授
新藤 隆行


1998年東京大学大学院修了。
2002年東京大学大学院医学系研究科助教、2004年より現職。
文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞。

金 継業

次世代疾患モデル・基盤技術研究部門 副部門長
学術研究院(理学系)教授
金 継業


1993年名古屋大学大学院修了。
1993年岐阜大学工学部助手、2001年同大機器分析センター助教授、2003年信州大学理学部助教授、2011年より現職。

病態解明・医療応用研究部門
日常診療のニーズから研究シーズを見つける

桑原 宏一郎
病態解明・医療応用研究部門 部門長
学術研究院(医学系)教授
桑原 宏一郎
2000年京都大学大学院修了。2000年日本学術振興会特別研究員、2003年テキサス大学サウスウエスタン医学研究所分子生物学講座フェロー、2005年より京都大学大学院医学研究科講師などを経て2016年より現職。

部門長 桑原宏一郎
学術研究院(医学系)教授


 病態解明・医療応用研究部門は、臨床の現場に最も近い部門として位置付けられています。診療の段階で出てくるニーズを各部門の手法やツールで解析することで新たな診断・治療シーズを見つけていくことが、本部門の役割のひとつです。また、臨床のニーズを拾い上げるだけでなく、研究シーズを突き詰め、翻訳し、それを臨床の現場に落とし込んでいくことも求められます。
 「異なる階層での学際的コミュニケーションがこの研究センターで実現し、これまで共有できなかった疾患モデルが見えてきたらおもしろいなと思っています」と部門長の桑原宏一郎学術研究院(医学系)教授。臨床研究と基礎研究の間をつなぎ、さらにそこで起きるセレンディピティ(何かを探しているときに、探しているものとは別の価値があるものを偶然見つけること)を生み出せたらと期待を寄せています。
 ちなみに、桑原教授は循環器内科の専門医。循環器系疾患は、日本人の死因第2位を占め、高齢化社会になるにつれますます増加していくと予測されています。桑原教授は、遺伝子解析や疾患モデルマウスなどを用いて、循環器系の臓器・細胞が病気にかかった時にどのように機能変化していくのかのメカニズムの解明や、新たな治療標的の特定などに取り組んできました。その他、本部門には循環器のほか、消化器、内分泌、産婦人科の医学系研究者が参画し、子宮体癌に対する新規抗腫瘍薬の開発や、慢性肝疾患の病態解明などを進めています。
 「信州は、地理的にも先進的な情報の発信地として中心となり得るポテンシャルを持っていると感じます。地方から、そして長寿県でもある信州から医療の先進モデルを発信していくことに大きな意味があると思っています」と桑原教授。日常診療におけるニーズや、臨床の現場からの知見をもとにして、分野間、また部門間の連携を深め、さらに高度な病態解明・解析を進めていきたいとしています。

創薬・診断技術開発部門
画期的な薬や診断技術を努力して世に送り出す

川真田 樹人教授
創薬・診断技術開発部門 部門長
学術研究院(医学系)教授
川真田 樹人
1986年京都府立医科大学卒業。
1999年札幌医科大学医学部助手、2000年同講師、2007年より現職。
2014年信州大学医学部附属病院副病院長。

部門長 川真田樹人
学術研究院(医学系)教授


 創薬・診断技術開発部門は、その名の通り、有望な診断・治療標的の特定から診断薬・治療薬の開発といった、研究シーズの実用化・市場化が大きなミッションです。これまでに、生体内で起こる様々な疾患のメカニズムを解明し、実用化を目指してきた麻酔蘇生学、病理組織学、生理学の研究者達がそろいます。
 部門長である川真田樹人学術研究院(医学系)教授は、麻酔蘇生学の専門医。痛みとは何かを突き詰めてきた分野の専門家です。そして「痛み」は、患者の80%以上が訴える症状です。癌なども含め、高齢化に伴う疾患は、多くが完全な治癒が困難であり、痛みを取り除くことで「クオリティ・オブ・ライフ」を保つことも求められます。こうした背景から、副作用のない新規鎮痛薬の開発が進められてきましたが、痛みの伝導路やメカニズムは充分に解明されてはおらず、未だ痛覚のみを遮断する副作用のない薬は開発されていません。そうした中、川真田教授は、「無痛症」に着目。そのメカニズムをもとに、副作用のない新規麻酔薬・鎮痛薬の開発を行ってきました。「実は、『シナノカイン』という名前をすでに付けているんです。死ぬまでには世に出したいと思っています」と笑顔を見せる川真田教授。
 川真田教授は、手術室での活躍が主となる麻酔科医は、「疾患から遠い存在でもある」といいます。しかし、手術後に起こる心不全など、未だその誘発要因の解明が不十分な術後の疾患も存在します。だからこそ、「この研究センターで各分野の先生方の臨床での知見、新しい知識や技術を取り入れながら、新しい発見ができたら」と期待を寄せます。
 本部門ではさらに、山本陽一朗学術研究院(医学系)特任講師を中心に、近年発達が目覚ましいAIを活用した病気のメカニズム解明や、手術で切除した組織の中にどれくらい癌が広がっているのかを迅速に、また分かりやすく診断する技術開発にも取り組んでいます。
 また、医療技術の実用化、普及のプロセスは、いわば営業活動のようなもの。「少し泥臭い仕事でもある」といいます。これまで、実際に実用化にまで至った経験を持つ研究者の知見を横に広げ、あらゆる必要な努力を実行していきたいといいます。

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次世代医療研究センターのロゴマーク

※次世代医療研究センターのロゴマークは、信州大学のロゴである「鳥」から生まれた「卵」をイメージ。
3つの色は、3つの部門を示し、3部門が一体となって研究・開発を行うことで、今まさに卵が割れて、次世代の「鳥」が生まれようとしている姿を表しているそうです。

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