FXR制御に着目して、妊孕能を改善! ~妊娠を支える基盤づくり、家畜生産の向上、希少生物の保全に向けて~特別レポート

信州大学×信州TLO 特許紹介映像シリーズVol.14

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信州大学学術研究院(農学系)
富岡 郁夫 准教授

2019年より現職。研究分野は動物生殖科学、発生工学、実験動物学、神経科学を専門とし、遺伝子機能の探索や霊長類のマーモセットを用いたヒト難病モデル研究、健康長寿に挑む生殖科学を追究している。

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株式会社信州TLO
事業化支援グループ
外処 愛歩さん

2024年度より信州大学農学系研究担当

信州大学の研究シーズを技術移転する信州TLOとのコラボで制作した、特許技術「見える化」映像シリーズの第14弾。今回ご紹介するのは、信州大学学術研究院(農学系)の富岡郁夫准教授による「卵巣機能調整用組成物」に関する特許。これは、肝臓で作られる胆汁に含まれる主成分「胆汁酸」を利用することで、卵巣の核内受容体「FXR」を制御し、卵細胞の発育調節を目指すものです。研究成果を応用することで、家畜生産の効率化や生殖寿命、健康寿命の延伸につながると期待されます。富岡准教授の発明の社会実装を目指し、信州TLOは企業への紹介を進めています。
(文・佐々木 政史)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第158号(2026.7.31発行)より

※FXR制御)核内受容体FXR(farnesoid X receptor)。肝臓で発見され、主にコレステロール・胆汁酸代謝などを制御する主要因子。

※妊孕能)妊娠にかかわる臓器や配偶子、機能を含めた「妊娠する力」

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今回の発見と特許は、家畜なら餌での生産性向上、さらには希少生物の保存など、食品や飼料への展開が期待できる…。

家畜生産の向上、絶滅危惧種の保全などにおいて、妊孕能は重要なテーマ

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異なる種類の胆汁酸をマウスに与えた実験結果。明らかな変化がわかる。

家畜生産の向上、絶滅危惧種の保全などにおいて、「妊孕能(にんようのう)」、すなわち卵子の質や卵胞発育など、妊娠の成立を支える生理的な基盤をいかに維持・改善するかは、生命科学分野に共通する重要なテーマです。

そのカギを握るのが、卵巣内に存在する卵細胞。卵細胞は生後増えることなく、何十年も休眠し続けるため、加齢や時間の経過とともに質が低下し、その多くが消失することが知られています。現在、家畜や希少動物において、眠っている卵細胞を発育培養させる技術は十分に確立されていません。

もし体内で卵細胞の質を維持し、体外で発育・培養させる方法が見つかれば―。信州大学学術研究院(農学系)の富岡郁夫准教授による今回の発見と特許は、こうしたことの実現に貢献し、家畜の生産性向上や、希少生物の保存などへの展開が期待できるものになります。

生殖機能には関与しないとされてきたFXRだが…

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卵巣にはFXRという因子が非常に多く存在している(茶色の染色部分)

富岡研究室では、卵巣におけるFXRの機能解明を研究しています。FXRは肝臓で発見された核内受容体で、脂質吸収を促進する胆汁酸をリガンド(結合相手)としてコレステロール・脂質代謝を制御している因子です。従来、このFXRは消化器官にのみ存在していると考えられてきましたが、最近、卵巣や精巣にも存在することが明らかとなってきました。右上の卵巣の画像のように、染色された部分がFXRで、非常に多く存在することがわかります。富岡研究室は「もしかしたらFXRが生殖機能に関与しているのではないか」という仮説のもと、ノックアウトマウスによる実験を重ねた結果、FXRが卵細胞の発育を抑制していることが分かりました。卵細胞は休眠した状態から排卵に至るまで、記事中央の図のように成長していきます。

胆汁酸(FXR調整剤)で妊孕能向上を確認

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卵細胞は休眠した状態から排卵に至るまでこのように成長する。FXRは肝臓でつくられた「胆汁酸」と結合すると、特にこの成長域の発育制御に効果があることがわかった。

FXRは肝臓でつくられ、胆汁酸と結合すると、機能を発揮したり、逆に機能しなくなったりすることが知られています。また、胆汁酸は様々な種類があり、医薬品にも含まれている、安全性が確認された物質です。富岡研究室では、この様々な胆汁酸を使えば卵巣のFXRを制御して卵細胞の発育を調節できるのではと考え、実験を重ねた結果、特定の胆汁酸に複数の効果があることがわかりました。

効果のひとつが、「排卵促進作用」です。記事右上のグラフは異なる種類の胆汁酸をマウスに与えた実験結果ですが、グラフを見てみると、餌のみ与えたコントロール時より、排卵数が増加したことが確認できます。

また、マウス卵巣の培養液に特定の胆汁酸を添加したところ、グラフのように、「卵細胞発育促進作用」も確認できました。

「活性酸素抑制作用」も確認されています。グラフのように、明らかに活性酸素が減っており、卵細胞の酸化を抑制しています。

さらに、「受精卵発生率向上作用」もみられます。グラフを見ると、活性酸素などのストレス抑制により、受精卵発生率が向上したと考えられます。

一般医薬品にも使われている天然素材の胆汁酸、だから安心

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実験で使用した胆汁酸CDCAやUDCAは一般医薬品にも使われている天然素材。経口摂取にも適している。

「私たちの研究では、FXRの機能を弱めることで眠っている卵細胞の成長を促せる可能性、逆にFXRの機能を強めることで眠っている卵細胞を良い状態で長く保てる可能性を示しました。この仕組みを応用できれば、家畜生産の効率化や生殖寿命、健康寿命の延伸につながると期待されます」富岡准教授は、研究の可能性を語ります。

また、実験で使用した胆汁酸はCDCAやUDCAといったものですが、これらは一般医薬品にも使われている天然素材であるため、安心して摂取できるといいます。家畜やヒトでの安全性やエビデンスを得ることが条件ですが、サプリなどの経口食品への応用が実現すれば、女性の健康サポート、家畜の生産性向上など、医学系、農学系で話題の新製品になる可能性も秘めていると言えそうです。

特許情報

本技術に関する知的財産権
発明の名称:卵巣機能調整用組成物
特許番号:特願2025-35723
出願人:信州大学
発明者:富岡 郁夫

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