信州大学研究者紹介動画「信州のファーストペンギン」ナビゲーター 五十嵐美樹さん特別レポート

TVやYouTubeでブレイク中の科学のお姉さん!

 赤いストライプが際立つオシャレな白衣の女性が、キレッキレのヒップホップダンスでペットボトルをシェイクしてバターを作る…なんとも衝撃的で面白い、そんな動画をテレビやインターネット、あるいはイベントのライブステージなどでご覧になった方も多いのではないでしょうか?
 その人気沸騰中の「科学のお姉さん」は五十嵐美樹さん。信州大学では一昨年から先端研究と研究者を紹介する動画コンテンツ「信州のファーストペンギン―夢を拓くイノベーターたち」のナビゲーターにもなっていただいています。今回はその五十嵐美樹さんにご登場いただき、出演の感想、科学とエンターテイメント、サイエンスショーの面白さなど語っていただきました。(文・中村 光宏)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第132号(2022.3.31発行)より

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PROFILE

エデュテイナー・「科学のお姉さん」
五十嵐 美樹さん
東京大学大学院修士課程修了。現:東京大学大学院客員研究員。幼い頃に虹の実験を見て感動し、科学に興味を持つ。上智大学理工学部在学時に「ミス理系コンテスト」でグランプリを受賞後、自身が科学に興味を持つきっかけとなった科学実験教室やサイエンスショーを全国各地の子供たちに向けて開催している。2020年度から信州大学の研究者紹介動画「信州のファーストペンギン」にナビゲーター出演。

̶今日はお忙しい中、ありがとうございます。早速ですが、五十嵐さんが「エデュテイナー(理工系+エンターテインメント)」というユニークなコンセプトで活動されるようになったきっかけを教えてください。

五十嵐さん(以下敬称略) 子供たちが育った環境に関係なく科学に触れてもらうきっかけを作りたいと思ったことですね。今は普通にサイエンスショーをやると、やはり科学に興味を持つ子供たちが集まりますが、かつて自分はそこまで科学に関心があって科学実験教室などに行ったかというと、そうではなかった…。ではどういう場所に行っていたかなと考えてみると、商業施設とかお祭りとかだったな、と。そんな私のように科学が目的でなかった人たちがいる場所で、どうやれば科学に興味を持っていただけるか、そのきっかけを作れるかを考えて、商業施設でのライブステージなどを始めました。
 ただ、そこで普通に科学の実験をやってもなかなか立ち止まっていただけないんですよ。オリジナルな表現を加える必要性を感じて得意なダンスを組み合わせてみたところ、「科学には興味がなかったけど勉強になりました」と言ってくださる人が現れて…。エンターテインメントとの融合に手応えを感じました。最近はテレビに出させていただく機会も増え、ダンスをしながらバターを作る動画はツイッターでもおかげさまで250万回くらい再生されています(笑)。

―それはスゴイ! 特に人気のコンテンツは何でしょう?

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五十嵐 やはりバターを作る動画ですね。生クリームをペットボトルに入れて、それを振るとタンパク質の膜がはがれて脂肪が固まりバターになるという実験があるのですが、10分くらい振らないとできないところをヒップホップダンスで激しくシェイクし、時短で作るというものです。“ダンシングバターシェイク”というんですが、来場者はまさか実験者が踊るとは夢にも思っていませんから、かなりビックリされますよ。
 あと、“リモネン”を巨大風船に塗って割るという実験も人気コンテンツです。リモネンはレモンなど柑橘類の皮を絞ると出てくる精油成分で、ゴムやプラスチックを溶解する性質があるんです。だから巨大風船に塗った部分が溶けて「パーン!」と割れる訳ですが、巨大風船はゴムが厚いので、いつ割れるかが分からない。もちろん私も分かりません。その怖さを共有してもらっています(笑)。マイケル・ジャクソンの『スリラー』に合わせて、ゾンビダンスをしつつ怖がりながらリモネンを風船に塗るという構成なんですが、皆さん盛り上がってくださいます。

―そんな五十嵐さんにナビゲートいただいている本学の「信州のファーストペンギン」シリーズ。出演いただいて1年以上経ちますが、感想をお聞かせください。

五十嵐 もう、そんなに経つんですね! これは毎回のことなのですが「私も科学のこういうところに面白みを感じていたんだな」ってしみじみ感じています。いつも初心に返るような気持ちになれるんです。
 それはおそらく、先生方のコメントから研究対象への愛と情熱をものすごく感じるからなのだと思います。研究への愛があるから、多様な表現方法を使って研究を紹介いただける、と…直接お話が伺えることを大変うれしく思います。
 例えば、ナノファイバーの量産化に対する課題の解決が「ししおどし(※1)」とおっしゃった繊維学部金翼水教授の研究は衝撃的でした。空気は通して水は通さない素材を社会や産業にどう応用していくのか、その発想にも感動しました。信州らしいブドウの果実袋への応用をはじめ、ご自身でどんどん商品化のアイデアをお持ちになっておられてスゴイなーと思ったことを鮮明に覚えています。
 教育学部の村松浩幸教授編も印象的でした。地元の方々と一緒になって、オープンに活動されている先生のお仕事ぶりは、まさに私が理想とする姿なので、すごく感激しました。
 農学部の松島憲一准教授は、好奇心の塊のような人でしたね。トウガラシを見る時の目の輝き、トウガラシの話をされる時のとにかく楽しそうなお顔が忘れられません(笑)。研究者自身が楽しむことによって、科学がより伝わることを身を持って感じました。それと、ご自身の研究を地域に還元する取り組みまでされているところにも感銘を受けました。
 医学部の中沢洋三教授は人の命に係わる研究、私はそれをどう伝えていけばいいのか、実は収録前に少し悩んでいたんです。でもお話を伺った際、研究対象である酵素とアオムシ(※2)の話になった時、フッと笑顔になられたんです。表現が適切ではないかもしれませんが、ご自身の研究を楽しむというか、好奇心を持って立ち向かっていらっしゃると感じ、それが命を救うことにつながっていることに感動を覚えました。
 私たちのような専門外の人間に伝わるような工夫も毎回勉強になります。信州の自然の中で研究されているからか、皆さんフレンドリーでおおらかで、本当に研究を楽しんでいらっしゃる印象も受けました。

※1 . 金教授は、量産化の壁になっていた、液状のナノファイバー素材を噴射するノズルの詰まりを、「ししおどし」の竹のようにノズルの先端を45度に切り、一部が常に流れ出る状態を作り出すことで解決しました。
※2 . 中沢教授は、昆虫学者が発見したアオムシ由来の酵素「piggyBac(遺伝子転位酵素)」を用いた「CAR-T細胞療法(がん患者の免疫細胞を使いその機能を人工的に高め、がんへの攻撃力を強化した、新しいがん治療法)」の第一人者です。

̶「信州のファーストペンギン」のナビゲート、今後の抱負などお聞かせください。

五十嵐 信大のこの動画企画は研究の楽しさ、自分で仮説を立てて、実験して、きっと失敗もあって、でも何回も繰り返して、最後はどう応用し発展させていくかというところまで、一連のプロセスを全部見られるのが魅力だなと思っています。例えば、先生方の技術を活かしたワークショップ。家でもこういう物を使えば実験できるよ、というようなことを、次世代の子供たちやこの冊子を手に取る高校生、その親御さんに伝えられればいいなと思います。
 大学の研究はすごく先鋭的で、小中学校や高校の教科書には載っていないじゃないですか。私はそういう技術は持っていないので、信州大学の力をお借りして、そんな最先端の科学技術に触れるきっかけが作れたらすごくステキだと思うんです。

̶これからは五十嵐さんにも、ご意見、ご希望をどんどんお伝えいただいて一緒にコンテンツを作っていければと思います。今日は、ありがとうございました。

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世界中にネットワークを持つ、市民向けのものづくり工房「Fab-Lab(ファブラボ)」。全国で唯一、大学の教育学部が運営する「ファブラボ長野」で、新しいカタチの人材育成に取り組む教育学部村松浩幸教授編などを近日公開予定。

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