【特集/インタビュー】サステナブル社会協創学環(2027年4月開設)特別レポート
総合大学の「知」を融合した学びで地球・自然・人・社会の協創をデザインする。

誰もが豊かさを享受できる社会を持続可能なかたちで実現するには、自然、社会、経済を統合的に再生する、新たな社会モデルへの転換が求められます。そうした社会の創出を先導する人材を育成するため、8学部を擁し多様な学術研究を展開する信州大学は、学部横断しながら新たな社会価値創造をめざす「サステナブル社会協創学環」を開設します。「ネイチャー・デザイン」「ウェルビーイング・デザイン」「ソーシャル・デザイン」の3領域を軸にした学びで、未来への協創を実践します。
3つのコース
ネイチャー・デザイン
環境技術・政策を探究し、自然と社会の共生をめざす
自然と人間社会との関係を再生・再定義する視点から、自然資本の回復や再生可能資源の次世代的活用を探究し、社会を再生的にデザインできる力を修得します。
卒業後の活躍の場
自然と社会の調和的発展を探究し、気候変動適応・防災・再生可能エネルギー分野で活躍
ウェルビーイング・デザイン
人と社会の幸福を追求し新たな生活文化を創出する
人と社会のウェルビーイング(幸福・健康・共感的関係性)の在り方を探究し、共感・協働・共創を推進するための人間中心のソーシャルデザインを構想できる力を修得します。
卒業後の活躍の場
個人と社会の幸福・健康・共感を結び付け、医療・福祉・教育・地域コミュニティの分野で活躍する「ウェルビーイング・クリエイター」
ソーシャル・デザイン
制度や経済の視点から協創的社会システムをデザイン
協創的な社会制度とガバナンスを構築する方法を学び、公共政策、社会デザイン、国際協創、地域経済などを通じ、持続可能な社会システムを運営・改善する力を修得します。
卒業後の活躍の場
社会制度や経済・文化を協創的に再構築する「ソーシャル・イノベーター」
卒業後の活躍の場
●行政職員 ●SDGs・ESG推進担当 ●NPO・国際機関職員 ●社会起業家 ●環境プランナー ●環境コンサルタント ●教育・地域支援コーディネータ●産業カウンセラー ●健康経営アドバイザー ●社会福祉士 ●防災士 ●気象予報士など
学びの特色
1.学部を越えて「自分だけの学び」をつくる
2.信州の自然・文化をフィールドに実際の地域課題に挑戦する
3.海外の学生と一緒に学べるグローバルな環境
4.社会人・実践者と協創する柔軟な学びのプラットフォーム
“全学横断”の学びで、持続可能な社会のデザインを目指す
約50年ぶりに新しい教育課程を設置! 「サステナブル社会協創学環」の魅力とは。
インタビュー
信州大学は2027年4月に「サステナブル社会協創学環」を設置します。
地球環境の限界や人口減少など、従来の専門分野の枠組みだけでは解決が難しい社会課題が増えるなか、全8学部を横断しその課題解決を目指す新しい学びの場が誕生します。文理の壁を越え、多様な知を結集しながら、持続可能な社会をデザインできる人材を育成する新学環―。いったいどのようなことが学べるのか、卒業後はどんな進路が想定されるのか、設置準備を進める4人の先生方に詳しく伺いました。
(まとめ・佐々木 政史)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第158号(2026.7.31発行)より
林 靖人
信州大学副学長
(エンロールマネジメント担当)
信州大学学術研究院
(総合人間科学系)教授
サステナブル社会協創学環
設置準備室長
信州大学人文学部卒業、同大学院人文科学研究科、総合工学系研究科修了(博士(学術))。
専門は、人の動機付けや行動変容を促す「感性情報学」。大学発ベンチャー創出の経験を活かし、全国的な知名度を持つ地域ブランドの構築や日本初の大学活用ビジネス等に取り組む。2021年より信州大学副学長を務め、2026年現在、社会連繋推進本部長、全学横断特別教育プログラム推進本部長、サステナブル社会協創機構副機構長などを兼務し、教育改革、産学官連携、地域創生、アントレプレナー育成に携わる。
小林 寛
信州大学学術研究院
(社会科学系)教授
サステナブル社会協創機構
環境マインド推進センター長
慶應義塾大学法学部卒業、TulaneUniversity School of Law, LL.M. inEnergy & Environment修了、早稲田大学法学研究科博士後期課程修了。博士(法学)。専門は、環境の保全を法的に図ろうとする「環境法学」。長崎大学准教授を経て信州大学経法学部教授(2016年)。2023年、信州大学経法学部副学部長、学長特別補佐。著書に『アメリカの再生可能エネルギー法制の構造』(2021年、成文堂)など。2005年に米国で法律研修中にハリケーンカトリーナに被災したことを契機に、気候変動問題に関連するエネルギー法についても関心を持つ。
勝亦 達夫
信州大学学術研究院
(総合人間科学系)准教授
学生総合支援センター
キャリア教育・サポート部門長
東京理科大学大学院理工学研究科建築学専攻修了、博士(工学)。専攻は建築歴史・意匠、まちづくり。2011年から小布施町役場に勤務し、景観・まちづくりなどを担当。2016年度日本建築学会賞・教育賞を受賞。同年から信州大学キャリア教育・サポートセンター助教、講師を経て現在は准教授。文部科学省の人材育成事業(COC+/COC+R/SPARC等)に携わり、教育と地域づくりの実践を継続しながら、地域課題を産官学の協働で解決するために活動。
仙石 祐
信州大学学術研究院
(総合人間科学系)准教授
グローバル化推進センター
京都大学総合人間学部卒業、同大学院人間・環境学研究科博士課程研究指導認定退学。クアラルンプール大学Institute of Product Design andManufacturingマレーシア・日本高等教育プログラム講師を経て、2018年に信州大学着任。専門は、留学生と国内学生の学び合いである国際共修を中心とするグローバル教育、ムスリム留学生の生活や勉学を対象とする留学生支援、メタバース空間の実装と活用を扱うバーチャルリアリティ等。学内では全学横断特別教育プログラム推進本部副本部長、学外では留学生教育学会理事・事務局長、国立大学留学生指導研究協議会幹事を務める。
新たな教育組織「学環」を採用 多様な学問領域を横断
―まずお伺いしたいのは、「サステナブル社会協創学環」とはどんなもので、何を目指しているのかです。今回あえて「学環」というかたちを採用した狙いもお聞かせください。
林(敬称略・役職略、他参加者同):最近、「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」という言葉をニュースなどでよく耳にしますが、様々な面で生態系や地球資源の限界を突破しつつあります。また、人口減少に始まり、労働力不足や地域コミュニティの衰退、空き家問題、公共交通の維持困難、社会保障制度の持続可能性など、経験したことのない社会変化に、人類は直面しています。
サステナブル社会協創学環は、こうした世界の持続可能性に関する問題の解決に取り組む人材の育成を目指す新たな教育組織です。そもそも「学環」という言葉に耳馴染みがないかもしれません。学環は文部科学省により2019年に制度化されたもので、特定の専門分野に特化するのではなく、文系・理系の垣根を越えて複数の分野を横断して学ぶための新しい教育組織のことです。従来の学部が特定の専門性を育てる“林”であるとするなら、学環は多様な専門知が相互に作用しながら新たな価値を創り出す“森”のイメージです。こうした学環の仕組みを採用する大学は全国でも増えてきており、注目が集まっています。ただし、信州大学のように全学部を横断したものはあまり例がなく、これまで約10年間蓄積した全学横断特別教育プログラム(副専攻)の経験が生きています。
今回、どうして「学環」を冠する教育組織を新たに開設するのか―。それは、サステナビリティというテーマが非常に多様なものを含んでいるためです。地球環境や人口減少といった世界の持続可能性に関わる問題は、とても単一の学問領域だけでは対応できません。だからこそ、サステナビリティのテーマに挑むうえでは、多様な学問領域を横断する学環というかたちが“必然的”であり、この仕組みを通じて新たな価値を生み出し、課題解決を目指す人材を生み出していきたいと考えています。
3コースを設定 自然・幸福・社会を“リ・デザイン”する
―サステナビリティというテーマは多様な要素を含んでいますが、新学環では具体的にどんなことが学べて、卒業後はどういった進路が想定されるのでしょうか。
林:学環では、サステナビリティの分野を、「ネイチャー」「ウェルビーイング」「ソーシャル」の3つの領域、それらの“リ・デザイン”を目指すコースを設置する予定です。1年次は学環合同科目を中心に学び、2年次後半から各コースに分かれていきます。ただし、コースに分かれても他コースの科目を排除するわけではなく、自分の軸を持ちながら周辺領域も自由に学べるカリキュラム設計を考えています。
勝亦:3コースの1つが「ネイチャー・デザインコース」です。環境保全やエネルギー、交通システムなど、自然と社会に関わる仕組みを広く学び、災害対策といった“自然的なものと都市的なものの融合”をテーマにしていきたいと考えています。
例えば、かつて日本の住宅は地域の山から切り出した木材で作られていましたが、戦後、高度経済成長期を経て、グローバル化で遠い外国から木材を運び建物を建てることもあります。それによって経済は発展しましたが、課題も顕在化しています。輸送には大量の石油も使い、二酸化炭素の排出量も増えます。数年前に日本では木材需要の急増と物流の混乱で、木材の供給不足と価格高騰が起きました。一方で、国内を見れば、山には木がたくさん植えられていますが、木を切る人がかつてと比べると激減しています。どうすれば、これからも安定して住宅をつくり続けられるのか、環境、産業、人材的な課題をシステムとして見ていかなければ、解決していくことはできません―。ネイチャー・デザインコースでは、人文系や社会科学系などの領域も横断しながら、こうした問いを考える場にしたいと考えています。
林:2つ目の「ウェルビーイング・デザインコース」では、人や社会の“幸福”・“健全性”をテーマに、哲学、心理学、スポーツ科学や医学などを横断的に学びます。ウェルビーイングは、社会や技術の変化とともに変わり続けています。例えばスポーツは、eスポーツなど新たな形へ広がり、休養も睡眠アプリやリカバリーウェアへの注目に見られるように、心身の回復や能力発揮を支える重要な要素として再定義されています。
本コースでは、人々のより良い状態を実現する仕組みやサービス、ビジネスのあり方について学びながら、現代社会に台頭するAIとも向き合い、新しい価値観やライフスタイルを探究します。そして、人や社会の変化を読み解き、変化の大きな時代に適応する力を育みます。
卒業後は、医療・福祉・教育分野に加え、ウェルビーイング産業やスポーツ・健康関連産業などでの活躍を想定しています。例えば、フードロス対策や空き家活用を組み合わせた子ども食堂のような社会課題の解決と価値創出を両立するソーシャルビジネス、スポーツや睡眠など既存のライフスタイルや価値観をリ・デザインしたサービスや産業を創出する起業家・事業創造人材としての活躍も期待されます。
小林:これまでの2つのコースでは、自然・地球環境の再生や、人や社会のウェルビーイングがテーマでしたが、それらを実現するための基盤として、国家、地方公共団体、企業などを通じた社会の仕組みや制度のデザインが必要になります。具体的には、法律だったり条例などをつくることになるわけですが、3つ目の「ソーシャル・デザインコース」では、そういった事柄を学際横断的に学びます。
本コースでも、分野を横断した学際的な学びに力を入れます。例えば、環境法を学ぶなかで様々な環境汚染物質の名称が出てきますが、それらがどういった有害性を持っているかを知っておくことでより深く環境法を理解できます。理工系と横断した学びを提供することで、こうした奥深い学びを実現したいと思っています。
また、教室で知識や理論ばかりを学んでいると、机上の空論になりがちです。このコースでは実際に現場に出て、地域の方々や企業の担当者と対話しながら問題のリアリティを掴むような授業を提供したいと考えています。理論と現場を行ったり来たりしながら、現実に適合した社会制度を提言し、実践できる人材を育てたいと思っています。
仙石:サステナビリティに取り組む際には、国際的な観点が欠かせません。そこで、3コース共通で1年次に海外研修を必修にする予定です。これまでの留学は、異文化体験をしたり、語学力を高めることが重視されてきましたが、そこから一歩進めて「国際共修」に取り組みます。これは、文化や言語の違う人たちと一緒にプロジェクトを組み、課題に対して協力して解決策を提案していく力を育てるという教育プログラムです。海外研修の場所は台湾を予定しています。信州大学を含む日本の大学と台湾の大学による「T J アライアンス(Taiwan-Japan Alliance)」という連携を活用する予定です。日本と台湾では、人口減少や地域の過疎化といった共通の社会問題を抱えており、こうした問題について、共同で学び合う機会を設けたいと思っています。
未知の領域を開拓する “挑戦者”を求む
―最後に、新学環には、どういった学生に来てほしいか、期待や意気込みも含めてお聞かせください。
林:一番は、既存の枠組みを超えて、新しい枠組みに挑戦することに関心がある人に来ていただきたい。新学環を卒業する頃には、また社会は大きく変わっているでしょう。だからこそ、変化に「適応」し、常に自分をアップデートし、「何が起きても怖くない」と胸を張れる人材を育てたいと考えています。勝亦:学環では、卒業研究として、地域や社会に関する調査・研究、課題解決に向けたプロジェクト実践、政策提言、実践活動などに取り組み、その成果を論文や制作物としてまとめ、発表してもらう予定です。4年間の学びの集大成として生み出される成果を、私はとても楽しみにしています。いまやAIで何でもつくれてしまう時代のなかで、新学環で4年間学べば、その結果としてAIにはつくれないものがきっと出てくるのではないかと考えているからです。ですから、AIを駆使しながら、実践活動や社会課題解決に挑戦したいと考えている人にぜひ来てほしいですね。
仙石:私が求めるのは、二面性を備えた学生です。一つは、自分の考えていることに対して「解像度を上げる」ことができる学生。サステナブルということが具体的に何を指し、これまでどんな問題があってこれからどんな解決法がありうるのか、そういったことを自分の頭で考えられる学生に来てほしい。もう一つ求めたいのは、「まずやってみよう」という行動力です。ちゃんと考えられて、ちゃんと動ける。そんな原石のような学生さんが来てくれたら、一緒にその力を磨いていきたい。
小林:やはり未知の新しい領域を開拓し、地域社会や国際社会に貢献できる、そんな人材を育て、地方公共団体の環境関連部署や国、あるいは国際機関などで活躍できる人材を輩出したいと考えています。また、今後はサステナビリティに関するコンサルティング人材が求められてくると思いますし、ESG投資の観点から金融機関も卒業後の進路として考えられます。新学環が扱うテーマは、時代の先を行くものです。私自身も一緒に学び、成長していきたいと思っています。
林:最後にひとつ追加で伝えたいことがあります。地域の企業や行政などの皆さまにも、ぜひ、ご一緒いただきたいということです。私たちが取り組みたいのは、決められたことを一方的に教える従来型の教育ではなく、新学環の名称にもあるように社会との「協創」による教育です。そのためには、社会の求めに合わせた柔軟性が必要であり、現場との関わりが不可欠です。インターンシップの受け入れはもちろん、授業にも積極的に入っていただき、一緒にこの学環を作り上げていきたい。そうすることで、サステナブル社会協創学環はどんどん進化していけると確信しています。
行政からのメッセージ
小笠原 靖 氏
環境省大臣官房秘書課長
「環境」は、人類存続の基盤であり、経済社会活動の基盤でもあります。人類がウェルビーイングを確保しつつ社会経済活動を営み、持続可能な形で発展していくためには、気候変動、生物多様性保全、環境汚染等への対策を効果的に講ずるとともに、循環経済の構築を通じた資源確保にも実効的に取り組む必要があります。環境・経済・社会がますます密接に関連する中、有効な対策を講ずるためには、表層的な理解ではなく、様々な利害の錯綜する現場といった具体例の経験知としての理解を含めた、深い洞察が必要とされます。信州大学のサステナブル社会協創学環において、信州の自然・文化をフィールドに実際の地域課題の解決に取り組む経験は、そうした知見と思考力を養成するために大変有用であると思います。本学環を通じ、持続可能かつ人々がウェルビーイング向上を実感できる社会の創出に寄与する人材が数多く育成されることを期待いたします。
企業からのメッセージ
井田 幸男氏
コクヨ株式会社
CSV本部サステナビリティ推進室理事
コクヨは、皆さまのおかげで創業120年を迎えました。働く(空間構築・家具・通販)学ぶ(文具)暮らす(インテリア)を事業領域とし『ワクワクする未来のワークとライフをヨコクする』企業として社会のお役に立っていこうとしています。サステナブルの本質は、未来をつくるポジティブな思考であり、それを実現するためのクリエイティビティな活動であるべきだと考えます。「せねばならぬサステナビリティ」から「したくてたまらないサステナビリティ」という文化を社会に創っていくことがとても大事だと思います。今回信州大学様が新設される学環のお話しをお聞きしワクワクしています。「自然、社会、個人」が戦略として交錯し、「内省、思考、実践、価値創造」の活動サイクルは、これまでの知識習得型の『学び』の価値観を変えていくのではないかと思います。この活動の源泉は『好奇心』だと思います。私も日々好奇心を持ち、新しい『学び』の挑戦にご一緒していきたいです。
小口 誠司氏
有限責任監査法人トーマツ/パートナー/信越事務所長兼サステナビリティ保証推進部
私のサステナビリティの原点は、故郷である信州・上諏訪の諏訪湖に現れる御神渡りです。厳冬期、結氷した湖面が昼夜の寒暖差で隆起し、せり上がった氷が湖を横断する道筋のように連なる現象で、約600年にわたり記録が残されてきました。その御神渡りが、近年は姿を見せなくなっています。地球温暖化がふるさとの風景を静かに変えている…。会計士としてサステナビリティ情報を見つめるとき、いつもこの光景が胸にあります。サステナビリティは、環境の問題であると同時に、社会と経済のあり方そのものを問い直すテーマです。一つの専門領域だけでは答えは出ません。自然・社会・人間の関係を点ではなく面で捉え再設計する力こそ、これからの時代に求められます。学環で学ぶ皆さんには、地域の現場に立ち、問いを立て、試し、価値を創る「4つのシコウ」を存分に往還してほしい。信州から、世界の持続可能性を描き直す挑戦を、心から応援しています。

