2045年までに再生可能エネルギーを100%に― ハワイで考え、学ぶ「環境問題」。特別レポート

平成29年度 環境教育海外研修報告

2045年までに再生可能エネルギーを100%に― ハワイで考え、学ぶ「環境問題」。

 信州大学では、国外の環境活動について学ぶことを通じて、環境に関する取り組みに対して多様な視点で捉え、考え、実践することができる人材を育成するため、毎年「環境教育海外研修」を行っています。この研修は、信州大学独自の取り組みで、毎年希望する学生を募り、そのうち選抜した数名を海外へ派遣しています。
 平成29年度の研修の行き先は、ハワイ。4名の学生と引率教員1名で、11日間の研修に参加してきました。ハワイは、州として独自に「2045年までに再生可能エネルギーを100%にする」という水準を掲げるなど、特色ある環境政策を進めています。平成30年6月26日、その報告会が松本キャンパスで行われました。ハワイでの研修の狙い、その中で学生たちが体験し学んできたことについて、ご紹介します。
(文・柳澤 愛由)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第113号(2018.10.1発行)より

●研修スケジュール

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●参加学生(※学年は研修時)
板垣 綾香 理学部理学科(2年)
鈴垣  光 工学部物質化学科(2年)
花岡 賢人 繊維学部応用生物科学科(2年)
山﨑 実紗 繊維学部科学・材料学科(2年)

●引率教員
小林  寛 信州大学学術研究院(社会科学系)教授

2月15日 成田空港発 ホノルル国際空港(オアフ島)着
2月16日 ・ハワイ大学David Forman先生と環境問題について座談
・ハワイ大学マノア校 キャンパスツアー
2月17日 ・オアフ島 フィールドトリップ
・ハワイ大学のJCC(Japanese Culture Club)と交流
2月18日 ・オアフ島からハワイ島へ移動
・ハヴィ風力発電所(Hawi Wind Farm)視察
2月19日 ・ハワイ州立自然エネルギー研究所を視察(Natural Energy Laboratory of Hawaii Authority)
・ハワイ島発 オアフ島着
2月20日 ・Schlack Ito法律事務所 Douglas Codiga先生とハワイの環境法について座談
・ハワイ大学マノア校 アメリカ環境史の授業を聴講
2月21日 ・カポレイの廃棄物処理施設、汚水処理施設を視察
・ハワイ州議会議事堂で州議会議員と、Go法律事務所で小林剛弁護士と座談
2月22日 ・ハワイ大学マノア校 環境問題に関する授業聴講
・ハワイ大学の学生と交流(環境問題に関する意見交換)
2月23日 ・ホノルル市役所気候変動持続可能性レジリエンシー局視察
・ハワイ大学内タロイモ畑 農作業体験
2月24日 ダイヤモンドヘッド登頂、自由行動
2月25日 ホノルル国際空港発(26日成田空港着)

【研修の狙いを引率教員に聞きました!】ハワイ独自の環境政策の中で、 環境問題を「多角的・能動的」に学ぶ

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信州大学学術研究院(社会科学系)
経法学部 教授 小林 寛
2005年テュレーン大学ロースクール(米国)エネルギー・環境法修士課程修了。長崎大学准教授などを経て、2016年より現職。専門は環境法。災害時の環境汚染に対する民事責任、再生可能エネルギー法制などについて研究、比較対象国はアメリカ合衆国。(※この報告会のためにアロハシャツを着用して講義をした小林教授。ハワイでアロハシャツは正装です!)

 ハワイは州として独自に「2045年までに再生可能エネルギーの比率を100%にする」という政策を掲げています。日本が掲げている「2030年に22~24%」という目標値と比べると、ものすごい数字です。ハワイは「観光業」が重要な収入源。環境問題が観光資源へ与える影響への危機感もあり、自然エネルギーに関する研究も重要です。反面、離島という環境条件でさまざまな制約もある中、「2045年までに本当に実現できるのか?」という疑問も出てきます。
 今回、ハワイを研修先に選んだ理由は、独自の環境政策を行っているハワイに住む人々が、実際にどのような意識を持っているのか、どのような取り組みを行っているのかを、私自身、現地に行って学んでみたいという思いがあったためです。それだけでなく、私がアメリカの環境法などを研究対象にしてきたこと、信州大学経法学部がハワイ大学ロースクールと協定を結んでいて、つながりのある先生もいたことから、助力を得られそうだったことも決め手となりました。

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 私は「多角性・能動性」をこの研修の基本コンセプトにしました。学生たちには、環境問題をさまざまな角度から見て、自ら学ぶ姿勢を大切にしてもらいました。実際、現地では、ハワイ州立自然エネルギー研究所やカポレイの廃棄物処理施設、汚水処理施設など、普段行けないようなところまで行くこともできましたし、学生から「現地の学生と交流したい」という意見があったので、ハワイ大学の学生たちとの意見交換の場を設け、さまざまな角度から環境問題について考えてもらう機会を作りました。
 この研修に参加した学生は全員理系の学生たち。私は文系の研究者なので、事前・事後の学習方法や資料の探し方など、別の視点からのアドバイスも行いました。その結果、ハワイの文化や法律のことなどを学ぶ機会にもなり、学際的な学習にもつながったのではないでしょうか。とてもおもしろい研修になったと感じています。

1 REPORT 「持続可能な観光業」の実現へ、 ハワイが感じている危機感と環境問題

板垣 綾香さん 理学部理学科(2年)

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 海水面の上昇、固有種の生息地の減少、降水量の変化など、今回、ハワイに住む方々から「異常気象」について話を聞く機会がたくさんありました。実際に、研修中も警報が鳴るくらいの集中豪雨を体験しました。もし温暖化により海水面が10m上昇したら、ハワイの砂浜の多くは消失してしまいます。実際、砂浜の減少によりハワイモンクアザラシなどハワイの固有種の生息場所が減っており、今、多くの種が絶滅の危機にさらされているそうです。このように、気候変動などの環境問題が観光業に及ぼす影響は非常に大きく、ハワイでは「持続可能な観光業」の実現が求められています。
 研修の中で、ホノルル市役所気候変動持続可能性レジリエンシー局を訪問しました。アメリカ合衆国大統領がパリ協定(※1)からの離脱を表明した後、ハワイ州の有権者の投票によって設立された部局だといいます。ハワイの人々の意識の高さを感じました。
 ハワイでは、先住民との関係性も無視できません。環境保護に関連した先住民との衝突も起こっているそうです。ハワイの先住民はもともと自然崇拝の多神教で、自然と共生し、自給自足の生活をしていたそうです。「持続可能な観光業」のためには環境・経済・社会、3つのバランスが大切だと思います。かつて、ハワイの先住民が保ってきた自然と文化、経済のバランスを改めて見直そうという動きもあります。この研修で、日本とは異なる文化、社会についても学ぶことができ、私にとってとても貴重な経験となりました。
(※1)2015年に採択された、気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定

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ホノルル市役所気候変動持続可能性レジリエンシー局を訪問。担当者の方と

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ハワイ大学内のタロイモ畑で農作業体験も。写真は「ハレ」というハワイの伝統的な建物

2 REPORT 観光地ハワイが取り組む 環境活動を通して感じた課題

鈴垣 光さん 工学部物質化学科(2年)

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 私が研修に参加した理由は、観光地であるハワイの廃棄物処理について学びたかったから、また日本国外の環境問題について知りたいと思ったからでした。出身が愛知県知多半島なのですが、観光客からのゴミがとても多く課題になっています。観光地であるハワイの取り組みを自分の目で見て、聞いて、感じることで、参考になることがたくさんあるのではないかと考えました。
 今回訪問した「H-power」という施設は、廃棄物処理施設でもあり、廃棄物で発電する施設でもあります。不要になったゴミを燃やして発電する再生可能なエネルギーということでしたが、ホノルル市内を見学していると「本当にそうなの?」という疑問も浮かんできました。ホノルル市内のゴミ箱を見るとあまり分別がされていない所がありました。現地の人に聞くと、「リサイクルセンターがアメリカ本土にしか無いため、ハワイでのリサイクルはコストがかかる、燃やせるものは燃やす文化」なのだと答えてくれました。でも、観光地だからこそ、分別は必要だと思います。リサイクルセンターを作る、法的措置を取るなどの対策が必要なのではないかと感じました。
 この研修で、環境のことだけでなく、ハワイの文化や歴史、現地の政策、法律などについても学ぶことができ、環境問題にはさまざまなアプローチがあることを実感しました。現地のエンジニアや学生との交流によって、つながりもできました。この経験を今後に活かしていきたいと思います。

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「H-power」の内部を見学している様子

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ハワイのゴミ箱には色々なものがあり、写真はオアフ島ダイヤモンドヘッドのゴミ箱

3 REPORT ハワイの取り組みを学び、 海外へ目を向ける大切さを実感

山﨑 実紗さん 繊維学部化学・材料学科(2年)

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 「再生可能エネルギーの比率を2045年までに100%にする」という政策を掲げているハワイですが、2014年の時点で70%以上を石油に頼っている状態です。そんなハワイが、どうやってこの水準をクリアしようとしているのか興味がわき、今回の研修に参加しました。
 研修の中で、「ハワイ州立自然エネルギー研究所(NELHA)」という海洋深層水の研究を行っている施設を訪問しました。ここで「海洋温度差発電(OTEC)」という海洋表面と深海の温度差を利用した発電方法を知りました。このプロジェクト自体はすばらしいものなのですが、発電に利用されるチタンが非常に高価で、実用化が難しいのが現状だといいます。
 さまざまな研究が進むハワイですが、実際に自然エネルギーを利用した発電の比率が増えているそうです。しかし不安定な発電、蓄電の難しさなど、課題もたくさんあるようです。再生可能エネルギーは良いことだけではありません。風力発電所にも行きましたが、そこでは騒音の問題を実体験することができました。
 私は将来、出身地である長野県のために働きたいと考えています。しかし、だからこそ、外にも目を向けていく必要があると、この研修で実感しました。海外への興味もわき、改めて、いろいろな角度から環境問題を考えていく必要性を感じています。

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ハヴィ風力発電所では課題となっている騒音問題を肌で感じた

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ハワイ州立自然エネルギー研究所の海洋温度差発電プラント

4 REPORT 環境問題の幅広さと課題を実感。 現地の方々との交流も今後に活かしたい

花岡 賢人さん 繊維学部応用生物科学科(2年) 

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 今回、改めて自分にできる環境活動は何か、新しい考え方や取り組み方を学びたいと、研修に参加しました。ハワイは独自の政策を打ち出していて、実際に現地で会った人たちも環境への意識が高い人が多いと感じました。研修の中で特に印象に残ったのが、ハワイ州立自然エネルギー研究所で知った自然エネルギーの応用方法です。「海洋温度差発電」という発電方法のほか、絶滅危惧種のハワイモンクアザラシの保護にも海洋深層水を利用していることなど、さまざまな活動や研究内容を聞くことができました。
 ハワイは、独自の政策を掲げていることもあり、再生可能エネルギーの研究が盛んです。しかし、「再エネ研究だけでなく、生態系への影響も考えなければならない」という考えは皆共通して持っていても、対策の部分はあいまいで、フォーカスしきれていないところもたくさんあるように感じました。ハワイで実際に見た動植物の多くが外来種で、固有種は山奥に生息地を追われているそうです。環境問題は幅広く、全てを網羅する対策が難しいのはどこも同じだと思いますが、この研修で改めて課題を実感しました。
 また現地の学生との交流では、日本との違い、信州大学との違いも感じ、学内に留まらず、もっともっと自分で計画して行動することの大切さを感じました。将来は海外で仕事をしたいと考えていて、学部で実施している「国際連携プログラム」にも参加する予定です。このプログラムでも、自ら計画し、行動することが求められます。ハワイの大学生の積極性を見習って、今回の経験を活かしながらこのプログラムでも頑張りたいと思っています。
※花岡さんは報告会のご都合がつかなかったため、後日お話を伺い、記事としました。

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ハワイの学生と環境問題についてディスカッション

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ビーチで出会った絶滅危惧種のアオウミガメ

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