多発する災害に危機感をもって備える、信大発の注目授業「信州の防災学」開講!特別レポート

地域防災のリーダーを大学の“教職学協働”で育成する!

多発する災害に危機感をもって備える、信大発の注目授業「信州の防災学」開講! 地域防災のリーダーを大学の“教職学協働”で育成する!

 信州大学は2023年度、全学共通の授業「信州の防災学」を開講しました。近年、多発化・激甚化する自然災害に対して対応が求められるなか、注目の授業として脚光を浴びています。

 学内外の多種多様な講師陣を通じて多角的に防災について学ぶことができ、受講を終えるとNPO法人 日本防災士機構が地域防災に精通する人材として認証する「防災士」の受験資格が得られるようにしています。また、学生だけでなく大学職員も受講できるようにしており、信州大学から地域防災のリーダーを“教職学協働”で育成し将来的には地域の自治体や組織と連携して進められれば…。そんな取り組みが始まっています。(文・佐々木 政史)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第143号(2024.1.31発行)より

「公助」だけでは対応できないコミュニティによる「自助」、「共助」を学ぶ

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信州大学総務部総務課職員
伊東 春香さん

 近年、日本では災害が多発化・激甚化しています。長野県でも2014年11月に発生した白馬村を震源とする長野県神城断層地震、2019年10月の台風19号による大雨被害、直近では2023年12月の白馬村での土砂災害で多くの家屋や人的な被害が発生し、防災に取り組む必要性がこれまで以上に高まっています。これまで、防災は行政の“公助”による取り組みが主でしたが、それだけでは対応しきれなくなってきており、今後は私たち市民一人ひとりによる“自助・共助・協働”を充実させて災害に備える必要性が出てきています。

 こうしたことから、信州大学地域防災減災センターは、“自助・共助・協働”で地域防災に取り組むリーダーを育成するため、2023年度から新たに全学共通科目として「信州の防災学」を開講しました。定員120人に対してオリエンテーションでは200人近くが集まり、受講生の抽選をするほどの人気で、「防災への関心の高まりに驚いた」と、信州大学 地域防災減災センターの神田孝文特任助教は話します。

 実はこの授業、学生だけでなく大学職員も積極的に受講できるようにしています。信州大学は「教員、職員、学生との関係がより身近になって、互いに高めあうことのできる環境創り(教職学協働)を推進していく」という方針を掲げていますが、地域防災はまさに教職学協働で取り組むことが重要であることから、今回の新授業では職員も受講できるようにしました。

 総務課職員の伊東春香さんは「大学運営でも防災の重要性は増しています。所掌する部署で、自分が率先して取り組めるように、専門的な知識を身に付けたいと思いました」と受講理由を語ってくれました。

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ワークショップ風景

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授業風景

授業と防災士資格試験が連動 学内外からの講師陣などが独自の特徴

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信州大学 グリーン社会協創機構 地域防災減災センター
神田 孝文特任教授(防災士)

 「信州の防災学」の大きな特徴は、授業に全て出席することで、「防災士」の受験資格を取得できることです。

 防災士は、“自助・共助・協働”により防災に取り組むうえでの十分な意識と一定の知識・技能を修得したことをNPO法人 日本防災士機構(東京都千代田区)が認証する民間資格。全国の自治体や教育機関、民間研修機関において、防災のリーダー養成を目的に積極的に取得が進められていますが、「大学の授業と連携した仕組みは全国でもあまり例がないのではないか」と神田特任助教は話します。

 防災士の受験資格を取得するためには、通常は2日間を費やし集中的に講義を受ける必要がありますが、今回はこの講義内容を4月から8月までの16回の講義に振り分け、取り組みやすくしました。9月に防災士の試験が実施され、35人が合格しています。

 産学連携で学内外の多種多彩な講師陣を揃えていることも、「信州の防災学」の特徴です。学内は総合大学ならではの強みを活かし、人文、教育、繊維、工学、医学といった文理を問わない講師を布陣。学外は松本大学、熊本大学、NPO法人全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(東京都千代田区)からも講師を招聘し、災害発生の仕組みや防災情報の課題、災害時医療、被災者支援など、防災に関する内容を幅広く多角的に講義できる体制を整えました。受講者の総務課職員伊東さんは「例えば、“災害時のこころのケア”といったテーマでも、医学部の今村浩教授と教育学部の茅野理恵准教授の授業があり、それぞれ違った観点からのアプローチがあり、参考になった。また、熊本大学の竹内裕希子教授の避難所運営をカードゲームでロールプレイする授業を通じて、避難所運営の難しさを模擬的でありながら実感することができた」と、授業の感想を語ります。

 また、授業の内容については、信州の自然環境と関連づけて防災を学ぶようにしたことも特徴。「地域の自然環境と災害は密接に関連しているので、山岳地であることなどの地域性の視点も授業で取り入れている」と神田特任助教は話しました。

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防災士資格試験の様子

フィールド実習のオプションも充実させ、今後も教職学協働の充実を図りたい

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救命救急訓練

 信州大学地域防災減災センターは2024年度も「信州の防災学」の授業を継続し、発展させる計画だそうです。

 例えば、2023年度に希望者にオプション企画として実施した、白馬での復興ツーリズムの体験や、地域住民と協働したワークショップ、学校での防災教育への参加といった「フィールド実習」をより充実させるそうです。

 また、「教職学協働」という観点からも授業の充実を図っていく考えのようです。「災害が多発・激甚化する今の時代は、どのような職業、どのような立場の人でも、防災の取り組みが求められる時代になっています。2024年度も、ぜひ学生だけでなく職員も含めて防災学を受講してもらい、「教職学協働」で災害に備える体制づくりをしていければ将来的には地域の自治体や組織と連携して進められるのでは」と、神田特任助教の意欲は十分。信州大学ならではの様々な特徴を持つ「信州の防災学」が今後どのように発展していくのか楽しみです。

受講生に聞きました!

防災意識をより高める機会になりました。周囲への波及効果も生んでいます

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教育学部1年生
松本 哲佳さん

 2019年の台風19号で実家のある佐久市が大きな被害を受け、災害は他人事ではないという意識が芽生えました。それ以来、防災を学びたいと思っていましたので、今回の授業はぴったりでした。

 実際に授業を受けてみて、各分野の専門家からの多角的なお話し、実際の災害現場を経験した人ならではの生々しいお話しを聞くことができて、非常に大きな学びになりました。

 また、白馬での神城断層地震の復興ツーリズムガイドツアーに参加したことも大きな経験です。未だに消えない被害の爪痕を自分の目で見たことで、より防災に向き合う意識を高めることができました。やはり現場に行くことは必要ですね。

 卒業後は中学校の教員になりたいと思っています。社会の防災意識を高めるためには子どものうちからの教育が重要ですので、ぜひ授業で防災教育に取り組みたいと思っています。例えば、自分で考える力を養う「探求」という授業がありますが、今回の防災学で受講した避難所運営のロールプレイを探求の時間にできたら面白いですね。

 実は、私が今回の授業を受けて防災士の資格を取得したことがきっかけで、父も防災士の試験を受けたんですよ。現在、合否結果を待っているところですが、資格取得後には実家のある町内で地域防災の意識を高める何らかの取り組みを一緒にしたいねと話しています。防災学の受講が、私だけでなく私の周囲にも波及効果を生み、防災意識を高めるきっかけになっていることをとても嬉しく思っています。

この記事は2023年12月に取材し、信州大学広報誌「信大NOW」第143号(2024.1.31発行)に掲載いたしました。

「令和6年能登半島地震」で被災された皆さまには心からのお見舞いを申し上げ、一日でも早い復興を祈っております。

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