新「キャンパスマスタープラン」を策定 緑豊かで、安全・安心な環境を特別レポート

  Shinshu University Campus Master Plan 2023

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 信州大学のキャンパスは長野県内4地域に分散し、前身校の歴史や地域とのつながりによってそれぞれに独自の進化を遂げてきました。今回、さらに進化するための新たな整備計画「キャンパスマスタープラン」を策定。今後、その認知を学内外へ広めることで、計画の実現に繋げていきたい考えです。工学部建築学科の寺内美紀子教授(策定プロジェクトチーム座長)に、キャンパスマスタープランを通じて描く信州大学の未来を聞きました。(文・佐々木 政史)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第138号(2023.3.31発行)より

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信州大学学術研究院(工学系)
寺内 美紀子教授
PROFILE
1989年九州大学工学部建築学科卒業。1992年東京工業大学大学院修士課程修了。2012年信州大学准教授に就任、2018年10月より現職

 多くの大学ではキャンパスの中長期な整備計画を「キャンパスマスタープラン」(以下マスタープラン)という名称で策定しています。信州大学でも5年ごとに策定しており、今回、新たなマスタープランを発表しました。
 マスタープランは大学の運営職員が主導して策定するのが一般的ですが、信州大学では教職員が積極的に関わっている点が特徴です。長野県内に分散するキャンパスごとに、工学部建築学科教員が加わったチームを組織し、マスタープランを策定してきました。これに加えて、寺内研究室を中心に学生との協働を積極的に推進。学生には実務作業の補助にとどまらず積極的にプラン内容への意見を求めることで、教育的効果も期待しています。

キャンパスでの“広場”の重要性

 今回の新たなテーマのひとつが、「広場」の整備に力を入れることです。「キャンパスの整備というと、建物の建設計画を思い浮かべがちですが、心地良い時間を過ごすためには、建物のないオープンスペースが非常に重要」と寺内座長は言葉に力を込めます。芝生敷きの広場を整備することで、学生や教職員が憩える場を計画します。
 6キャンパス(教育学部長野附属を含む)の中で、この方針を中心に据えたのが、松本、長野(工学)、上田のキャンパスです。このうち、松本キャンパスでは、医学部、理学部、全学教育機構(※)の校舎に囲まれたキャンパスのちょうど中心地に「中央広場」の整備を提案。加えて、広場に至る道に樹木を植栽して並木道を整備することで、広範囲な緑を通じた憩いの場を創出したい考えです。同キャンパスの真ん中はこれまで駐車場でしたが、立体駐車場を新設したことなどから、800台以上を収容できるため、今回の提案に至っています。
 松本キャンパスは全学部の1年生が過ごす場所であるだけに、交流を促す中央広場の役割は大きそうです。なお、マスタープランでは、中央広場を学生や教職員だけでなく地域へも開放して地域とのつながりづくりの場としても広場の活用を進めていきたい考えです。また、災害時には広域の避難場所にもなり得ます。
 長野(工学)キャンパスも、学生や教職員のためだけでなく、地域の皆さんとのつながりづくりも見据えた広場の整備に力を入れる方針です。同キャンパスは既に真ん中に中庭がありますが、今後は保健室などの施設を移転検討し南北に貫く広場として拡大することを提案しています。
 上田キャンパスも、地域への開放も念頭に置いた広場の整備計画をマスタープランに盛り込みました。正門からまっすぐ伸びるメインストリート「つむぎの道」の突き当りにあるグラウンドの芝生化を提案しています。
 長野教育キャンパスは、地域とのつながりづくりに向け、広場の整備に加え、新たに「地域未来共創棟」の建設計画を提案します。これは旧第一体育館の跡地を活用したもので、地域の教育機関や企業などを誘致したい考えです。

(※)2023年4月1日より全学教育センターに改称

安心して歩けるよう、歩車分離も

 もう一つ、今回は、キャンパスでより豊かで快適に過ごせるよう「歩行者の安全」も大きなテーマに掲げます。「大学は夜遅くまで研究することも多い。時には熱中して徹夜もある。たとえボンヤリしていても安全に歩ける環境は、大学が大学でありつづけるためにとても重要な要素」と寺内座長は歩行者が安全に過ごせる環境の意義を強調します。
 交通量の多い公道が通っていることから、かねてから歩行者の安全が強く求められていたのが、伊那キャンパスです。マスタープランでは公道への減速帯の整備に加え、東門と北門を新設して自動車の入口を複数設けることで公道の交通量の減少を見込みます。
 上田キャンパスも歩行者の安全・安心の確保に力を入れます。メインストリート「つむぎの道」を歩行者専用道路とし、自動車はキャンパス内の環状道を走るように「歩車分離」の動線計画を検討します。
 大学の未来の姿を示すだけに、とても重要なマスタープランですが、実はその存在を知らない人が多いことも事実。そのため、寺内座長は「これからが本番」と意気込んでおり、課題である認知の拡大に力を入れていく考えです。大学の運営側と連携しながら、ホームページを通じた情報発信に取り組む予定です。
 寺内座長は今回のマスタープランの次の段階も見据えます。メインテーマのひとつである「広場の整備」と関連し、緑がキャンパスの快適性にどのように影響するかを、理学部や農学部などと連携して客観的に示しながら、キャンパスのGX(グリーントランスフォーメーション)を推進していきたい考えです。また、学生との協働も推進し、建築学科以外の学生もマスタープランづくりへ参加する仕組み作りも検討しています。

全キャンパス

キャンパスの環境・インフラ

信州大学学術研究院(工学系)
高村 秀紀教授

 自然災害への備えが必須となっている。さらに、環境への配慮やカーボンニュートラルに向けて、大学が率先して行動を起こすのは、「今」である。

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プロジェクトの学生リーダーに聞く
「参加してみてどうですか?」

“運営側”に立つ得難い経験

信州大学工学部建築学科 寺内研究室 4年生
青木 健祐さん

 大学の運営側に身を置く経験は貴重でした。マスタープランの検討会に参加する中で、だんだんと運営側の考えを理解するようになりました。特に勉強になったのは、限られた資金の中では優先順位の考えを意識する必要があるということです。学生としての視点では、全体を見ずに思うままに「こうしたい」「ああしたい」と思ってしまいがちです。しかし、それでは限られた資金がすぐに尽きてしまいますので、プロジェクト全体を考えて優先順位を意識することの重要性を学びました。
 もう一つ、組織をマネジメントする経験も、プロジェクトに参加したからこそ得られたことです。私は学生リーダーとして、全6キャンパスのプロジェクトに関わる学生・教職員とのやり取りを引き受けていました。プロジェクトの関係者には実に様々な方がいる中で、それぞれの意見を調整しながら全体をまとめる経験をしました。これまでの学生生活では与えられた課題をこなせばよかったのですが、マネジメントというのは決まった答えがないなかで、臨機応変に対応することが求められます。その経験ができたことは今後の財産になりそうです。

     策定メンバーが紹介する
     キャンパスの将来イメージ

学生・情報・自然が創る多文化共生の場

松本キャンパス 青空と緑がある中央広場

信州大学学術研究院(工学系) 梅干野 成央准教授
信州大学工学部建築学科(修士課程1年) 福田 凱乃祐さん

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【現在】駐車場

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【将来】歴史的建造物を保存し開放感あふれる中央広場

 全学教育機構(※)、人文学部、経法学部、理学部、医学部、そして医学部附属病院、教育学部附属松本学校園を含めたキャンパス計画である。学生の課外活動施設の老朽化などを施設計画の課題としつつ、多彩な学問分野が集まり、年齢や国籍も幅広ななか、多文化が共生するキャンパス像が目指された。今回のマスタープランにおいて、こうしたキャンパス像の実現に大きな可能性を示すのが、先に進められた立体駐車場の整備にともなう、現在のキャンパス中央に位置する駐車場の跡地利用としての中央広場の整備である。この中央広場は、緑豊かな新鮮な雰囲気を基調としつつ、隣接してたつ赤レンガの建築、国登録有形文化財の医学部資料室(旧松本歩兵第五十連隊糧秣庫)が醸す歴史性をも取り込んで、このキャンパスにおける新旧を融合した次代の空間が構想されている。災害時における防災拠点としての機能を担いながら、周囲に課外活動施設も併せて整備することで、平時には学生たちのいきいきとした諸活動が展開する場になる。休み時間や放課後には、様々な人々が出会い、語らう、憩いの場にもなるだろう。キャンパス中央の多文化共生の場づくりが、いよいよ始まろうとしている。

学生とまちが共に学び・創る為の繋がり豊かなキャンパス

長野(教育)キャンパス 複合施設「地域未来共創棟」

信州大学学術研究院(工学系) 佐倉 弘祐助教
信州大学大学院総合理工学研究科(修士課程1年) 長谷川 暢哉さん

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【現在】旧第一体育館

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【将来】緑地と建物を一体的に整備して心地よい空間

 学生と地域住民が共に利用できるキャンパスを整備する計画が進められた。学生だけでなく地域の方々に親しまれる空間を創出するため、極力既存の施設を残して緑地空間と一体的に整備する計画となった。具体的には、まなび緑地、つどい緑地、アート広場、市民の道とそれらの緑地空間に近接する福利厚生施設、地域未来共創棟、音楽練習室等の施設を一体的に整備することで、今まで分断されていた緑地や施設群を面的に繋ぐ緑地空間がデザインされた。さらに、繋がれた緑地空間の中央部分に位置する旧第一体育館跡地には、教育機関や企業を誘致するための複合施設「地域未来共創棟」を建設することで、建物内外で学生と地域住民が共に学び・創る場を提供する。

豊かな未来を創造するものづくりの場

長野(工学)キャンパス 学生憩いのコアスペース

信州大学学術研究院(工学系) 遠藤 洋平准教授
信州大学大学院総合理工学研究科(修士課程1年) 内藤 雅貴さん

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【現在】 中庭

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【将来】 他分野交流が進み新発想が生まれる中庭

 研究教育等の諸活動にふさわしい環境の整備と質の向上を確保することを目的とし、学生、市民の方々に親しまれるパブリックスペースの計画を中心にマスタープランの立案を進めた。現状は個々の建物が一定の間隔を保ち敷地全体に広がって建っており、憩いの場は十分でない。桜、藤棚、イチョウ並木など季節ごとに楽しめる樹木はあるものの、正門からメインとなる広場への誘導が不十分である。地域とキャンパスとの視覚的繋がりを考慮し、若里公園からのケヤキ並木から続く散策路としてイチョウ並木を整備する。学生が憩い安らげ、地域住民にも親しまれる空間として、講義棟憩いの場から福利厚生施設周辺のキャンパス中央部を「学生憩いの場」とし、潤いある充実したオープンスペースを確保する。

歴史あるキャンパスで共創のコミュニティを育む

上田キャンパス 車道環状化による歩者分離の実現

信州大学学術研究院(工学系) 羽藤 広輔教授
信州大学大学院総合理工学研究科(修士課程1年) 南雲 裕太さん

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【現在】真綿・蚕糸館(2021年新築)

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【将来】繊維の温故知新を体現するキャンパス

 現状、中央の「絹の道」周辺は、新設された「真綿・蚕糸館」をはじめ、歴史ある資料館や武道場、また食堂・売店などが隣接し、メインストリートの「つむぎの道」とともにキャンパスライフの中心となっているが、双方とも車両乗り入れによる安全性への懸念が課題となっていた。今回のマスタープランでは、南北を走る既存の車道を環状化することによって構内の歩車分離を図るとともに、カーボンニュートラル実現を念頭に芝生化して学生の憩いの場とする計画が進められているグラウンドと、「つむぎの道」「絹の道」をつなげて一体的な空間とすることで、キャンパスの核となる、共創のコミュニティを育む場の整備を計画している。

豊かな自然環境での安全安心な活力ある教育・研究拠点の整備・創出

伊那キャンパス 自然と共生する学生寮

信州大学学術研究院(工学系) 佐倉 弘祐助教
信州大学大学院総合理工学研究科(修士課程1年) 嶋中 大和さん

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【現在】中原寮の食堂

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【将来】親睦を深め自主性と創造性が育まれる場所

 伊那キャンパスは、広大な敷地と自然豊かな環境を誇るが、施設の老朽化や交通量が問題視され、学生や地域住民にとって安全で快適な環境を確保する必要がある。豊かな自然環境を維持しながら地域へ開放された学びの場づくりを行う「キャンパスビレッジ構想」に基づく整備やキャンパス内を通る村道に沿って歩道の整備を行うことで歩車分離を図るなど、村との関係性が強いキャンパスならではの計画がなされた。また、老朽化の進む学生寮では寮食の提供終了にともない、食堂・厨房の整備も計画された。これらの取り組みは、学生の福利施設充実につながり、大学全体の魅力を高める。今後も学生の生活環境の改善が進められることを期待する。

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